2話 父との会話
翌日、父からギルド長の部屋に呼ばれるエルミー。
「お前、本当にケンジの従者になるつもりか?」
「そうだ。そのために努力してきたんだ」
「学園なんてお遊びが努力だと? ハッ」
エルミーはムッとするがブレない。
「親父の判断はどうでもいい。ようは勇者様に認められる実力があるかどうかだ」
「そうだな。だがお前が全盛期の俺より強いとは思えん」
「親父だって勇者様のパーティに入ったときは弱かっただろ!」
「ほう、勇者のパーティに入ってから強くさせてもらおうというのか?」
エルミーは親父だってそうだっただろ、と言いかけて止める。
(親父は平気で自分のことは棚に上げて他人を責める。それで言い合いに引きずり込み、そこから話題を変えてペースを握るんだ。冷静になれ)
「現時点で俺はこの国で一番のスカウトだ。今の親父よりもな。だから当然従者は俺がなる」
伝説と呼ばれた父も寄る年波には勝てなかった。血の巡りが悪い病気が治らず、右膝にずっと痛みがあり、体に無駄な肉もついている。
落ち着いたエルミーに、キールは戦法を変えてくる。
「従者、とくにスカウトは勇者の知らないところで汚い仕事をすることもある。工作、恐喝、盗み・・場合によっては殺しもだ。成功しても誰も褒めてくれないし、失敗したら自分が勝手にやったこと、で従者から外れることになる。お前にその覚悟があるのか」
「なんだってやるさ」
父親はニヤリと笑ってエルミーに告げる。
「じゃあ一仕事してもらおう。勇者様のためにな」
「なんで勇者様のために、親父の仕事を受けなきゃならない?」
「まぁ聞け。これが何だか分かるか?」
キールは首から鎖をはずし、ペンダントのようなものを見せる。
「これは・・護符か」
「そうだ。ケンジが自分の従者たちのために作った。皆一つずつ持っている。
魔族の呪いなどから身を守り、MPの回復を早める。非常に貴重なものだ。
ところが従者の一人、神官戦士のリゼロットが死んで、奴が持っていたタリスマンが神殿に飾られている。
魔王が復活したのに、貴重なタリスマンを神殿で見世物にしておくのは無駄だ」
「つまり、それを取ってこいと?」
「そうだ。従者の証たるタリスマンを見せればケンジにすぐ従者にしてもらえるだろう」
「ふむ・・」
悪い話ではない。従者にふさわしい実力を持つと証明する機会にもなる。
「分かった。やろう」
「よし。おーい、ゴトリー!」
キールがゴトリーを大声で呼ぶ。ドドドという足音が部屋の前で止まり、優しく扉が開けられる。
「お呼びでしょうか?」
キールはエルミーが目を丸くするような指示を出す。
「ああ。神殿に明日の夜タリスマンを盗むという予告が入った。お前はそれを阻止しろ」
「了解しました!」
「それだけだ。戻ってよし」
「では失礼します!」
ゴトリーはやる気まんまんで戻っていった。
「という訳だ。明日の夜頑張ってこい、お前の好きな試験ってやつだ」
「このクソ親父!」
エルミーは今度は怒りを抑えることができなかった。