其の⑱
「編集さん、おつかれ様です」
「こんばんは、森乃さん。夕焼けの美色が心に沁みる一日でしたね」
「ええ、綿菓子のような雲が空に拡がる光景は、唾液の分泌を促進させるのに十分でした」
「(いつも食べ物の話ばかり…)さて、今日はどうしますか」
「今日も小ネタで押し通します。題して『今まで黙ってきたが、実はけっこう気になってたんだよ集』」
「(今日もさくっと手抜くわけですね)分かりました。ではどうぞ」
「じゃ、ひとつめ。(メールとかの)改行前の点」
「具体的には?」
「次のような感じのです」
ご照会の件につきましては先方のご希望に添うよう社内で調整中ですが、
海外とのやりとりが発生するため、もう少しお時間をいただければと思います。
「一行目終わりの点のことですね」
「ええ。これってなんか違和感ありませんか。それとも私だけ?」
「どうでしょうね。この物語の作者は一人ですから、私に訊かれても困るというのが正直なところです」
「(それを言っちゃあおしまいよ…)点の効用は何となく解ります。改行後も文章が続く目印ってことですよね。そう考えるとあってもいいかも、とは思うんですけど、なんかヘンじゃないですか」
「いやー、そこまでいくと好みですね、好み。はい、次」
「では、ふたつめ。肩身の狭い重言表現たち」
「というと?」
「『頭痛が痛い』がちょっとヘンってのは分かります。でも『ますますのご活躍』とか『まずまずの天気』がダメって言う人はいないじゃないですか。重言避けるべしは重々承知してるんですが、なかなかそうは言えないときもあるような…」
「まあこの議論はかなり難しいので、作者のボロが出る前に次へいきましょう。他にありますか」
「あります、あります。というか今日一番訊いてみたいのがこれです。『募集』のことを『応募』と言う人たちいませんか。しかも必ず50歳前後の方。すごい不思議なんです」
「どういう文脈で?」
「とある会社が社員を募集しているとしましょう。このとき『あの会社、いま応募してるよ』って言うんです。『あの会社、いま募集してるよ』ではなくて」
「へえー、それ初めて聞きました」
「ここ5~6年くらい私の中で解けない謎です」
「謎は謎のままがよいのかもしれませんよ。じゃ、次」
「作品名、なんで括弧つけないとアカンのか問題」
「つけるよう言われるんですか」
「翻訳だと、映画とか本の名前は括弧で挟んでね、が普通なんです。でもよく考えると、なんでだろうって思いません?いっつも入力するのメンドクサイし」
「そりゃずぼらですよ。括弧くらい、いいじゃないですか」
「いやいや、ターミネーターを観た、でもいいでしょ。『ターミネーター』を観た、にしなくても」
「括弧をつけると固有名詞として認識できるから、ってことでしょうね。現に森乃さんだってコレ書いてるとき括弧使うじゃないですか。言ってることとやってることが――」
「まあまあまあ!私へのツッコミはいいんです。そうだ、ここでひとつ陰謀論を披露させてください。この括弧をつける理由なんですがね、きっと機械翻訳のためなんですよ。括弧がないと機械翻訳が誤るから、そのためダケにみんなメンドクサいんだけど括弧をつけさせられている、という多分真相に近い陰謀論、フフフ」
「うーん、どうでしょうね。なきにしもあらず、というところかもしれませんね」
「というところでネタが尽きました、森乃からは以上です。ではまた」
〈つづく♪〉