其の十七
「編集さん、おつかれ様です」
「こんばんは、森乃さん。今日も心の晴れるよい日でしたね」
「ええ、眠気を誘うような陽気で、昼寝もできて気分爽快です」
「さて、今日はどうしますか」
「今日はですね、小ネタで乗り切りたいと思います。題して『翻訳者の選んだ気になる表現』」
「アレ、森乃さんてそんな言葉にこだわりないと思ってたんですが…いっつもテキトーだし」
「いや私だって、うん?って思うときもあるんですよ、こう見えてもね。ただ、世の人もそう思っているかは知りません。これをいい機会に聞いてみたい気もあります」
「そうですか。では伺いましょう、どうぞ」
「じゃ、まずひとつめ。”二桁増/2ケタ増”」
「そのどこが気になるんですか」
「コレ、報道などでよく使われる表現だと思うんですが、私の感覚だと”二桁増”というのは、1が100になるとか、100が10,000になることなんです。でも、なぜか前年比+10%とか+20%の場合に使われます」
「いや、別にいいんじゃないんですか?」
「(編集者がソレ言う?)いやいや、気になりますよ。1歳の息子が2歳になった。おめでとう、3桁成長したな。とは言わないじゃないですか」
「(あーいえばこーいう…)そりゃ屁理屈ってもんですよ、森乃さん」
「だってね。野球で二桁勝利といったら10勝以上のことでしょ。なのになんで”二桁増”のときだけ事前に勝手に100で割るんですか。誰に許可とったんですか」
「慣例というものでしょうね。キリがないので次どうぞ」
「では、ふたつめ。回数を意味するときの”1度、2度”」
「そのどこが気になるんですか」
「例えばですよ、二度あることは三度ある、といいますよね。このときに2度あることは3度ある、と書いてあったらなんか変ですよね」
「ああ、それは私も少し分かります」
「同じようなことが以前に2度あったって書いてあると、なんか気持ち悪いんです。同じようなことが以前に二度あった、と漢数字でないと、2°みたいに角度が思い浮かぶんです」
「なるほど、分かりました。他にはありますか」
「あとはですね、これはちょっといろんなご意見があるでしょうけれど、全角数字と半角数字の混合です。例えば2020年5月みたいな」
「これは新聞とかでの正式な表記のはずですよ」
「ええ、そうらしいんですが、なんか個人的には違和感があるんです。2020年5月ではいけないんでしょうか。いえ、若造が何か分けわからんこといっとるがなくらいに聞き流してもらって構わないのですが…」
「森乃さん……このシリーズ第一話で、重箱の隅をつつく人たちとおさらばしたいと言われてましたが、実はあなたが一番の――」
《取っ組み合いの効果音》
「読者のみんな、今回もご清聴ありがとう。それじゃまた次回!」
〈つづく♪〉