其のサン銃士
「森乃さん、おつかれ様です。いかがお過ごしですか」
「どうも、編集さん。この頃はテレビばかり見てます」
「家にいる時間が長くなりますからね。最近の番組はどうですか」
「そうですねえ、何というか、純粋に楽しい番組がある一方で、よく分からない内輪ネタで画面の向こう側だけ盛り上がってるのとか、最初から最後までステマイッシュのもあったりしますね」
「ああ、なんとなく分かります。バラエティに顕著ですよね、そういう傾向は」
「はい。私なんか日常生活の至るところでステマ仕掛けられていますから、たまにはそういうのから自由になりたいですね」
「というと?」
「私という人間は果たしてどこまでが”私”なのでしょうか」
「(はっ?)意味が分かるように説明してください」
「誰でも好きな物ってありますよね。編集さんはどうですか」
「私は〇〇というゲームが好きですね」
「なぜそのゲームなんですか」
「なぜって、流行ってるからですよ」
「ということは、もしそのゲームが流行っていなかったら、編集さんは買ってなかった、または、好きにならなかった可能性がある」
「否定はできません」
「もうひとつ質問。流行っているというのは、どういうことですか」
「知り合いが遊んでいたり、実況動画の再生回数が多い、とか」
「ということは、知り合いが遊んでいるかどうか、動画投稿サイトの再生回数の多寡などが、編集さんの購買意欲に影響を及ぼすわけですよね」
「そりゃそうですよ。知り合いが楽しそうに遊んでいたり、実況動画が人気を集めてたら買いたくなります」
「では、編集さんのご友人が××というゲームをよく遊んでいたとしましょう。これはステマですか」
「普通はステマとは呼びませんね。友だちが好きなゲームをしているだけ、です」
「もしその友人が、××を制作したゲーム会社からお金をもらい、編集さんの隣でそのゲームを遊ぶよう頼まれていたら、これはステマですか」
「そんなこと普通は起こり得ないでしょうけれど、もし真実ならステマと言えるのではないでしょうか」
「では、もうひとつ。××というゲームの実況動画の再生回数が、ある動画投稿サイトで数千万回を超えている。これはステマですか」
「ちがいます。面白いゲームだから再生回数が伸びているわけです」
「もしその再生回数の大部分が、とある少数精鋭の組織によるものだとしたら、これはステマですか」
「……ステマ、ですね」
「他にも例を挙げてみましょう。スマホの位置情報、検索履歴、メールの文面、SNSの内容などから、あなたの名前、住所、年齢、性格、趣味、行動範囲――平たく言えば、あなたの情報すべて――を悪い連中が盗んで、その情報をもとに販促・マーケティングを実施した、としたらそれはステマですか」
「そこまでいけば犯罪レベルかも…」
「じゃあ、こんなのはどうですか。とあるお店に編集さんが入った。お店の人は編集さんに商品Aを買わせたい。そのために私服スタッフを10名ほど店内に配置する。私服スタッフは同じ買い物客のフリをしながら巧みに編集さんの移動に干渉し、最終的には商品Aの前まで誘導した。そして編集さんは商品Aを購入。これはステマですか」
「そんなことあります!?」
「ない、とは言えないと思いますよ、私の経験から言えば」
「なんか怖いですね」
「別にステマ許すまじと言いたいわけではありません。それに助けられることもあります。最初の話に戻りますが、私という人間は果たしてどこまでが”私”なのか。それが欲しいのは偶然欲しくなったからなのか、それともそれが欲しくなるよう仕向けられたからか。無数の要因があって一概には言えません。でもひょっとすると人の好みは後者が大半を占めるのかもしれませんね」
「確かに、案外そうかもしれませんね。じゃあ私も本の売上を伸ばすために読者の個人情報収集へかじを切りましょうか」
「ははは、あくどい編集者発見。でも、そんなのかわいい方だと思います。個人情報を利用したステマは選挙にも使われているそうですから」
「ちょっと前に話題になってましたね」
「ですのでね、というか、またちょっと麦焼酎飲みすぎたのと、夜も更けてきたのと、書くのがメンドウになってきたので、まとめましょう。キーワードは「個人情報は知らないうちに盗られている可能性があるので、みんな、注意しようゼ!」です。あと失礼で申し訳ないですが、EUのGDPR(General Data Protection Regulation)のときに「スピード重視もよいですが、しっかりちゃんと内容考えて対応してください」みたいなニュアンスでEU側から揶揄された(?)こともありますので、当局は大企業配慮もほどほどに個人情報保護の重要性を認識してほしいです。先の選挙の話しかりハッカーの話しかりで、大量の包括的な個人データがワルイ連中の手に渡ったら怖いです。あと話は変わりますが、リモートワークについて、一日中パソコン監視されたり、キーボードの入力内容筒抜けとか、色々と負の面もありますからね、と書いているところで窓の外からモーニングバードの鳴き声が聞こえてまいりました。おやすみなさい」
「というところで今回は閉幕いたします。それではまた次回お会いしましょう。皆さま、よい日曜日を!」
〈つづく♪〉