其のモットジユウニ
「森乃さん、おつかれ様です。お元気ですか」
「編集さん。はい、数ある私の取り柄の中には元気も含まれます」
「なんですかその機械みたいな返答は」
「世はブラッディー・パペットにあふれている論を広めたかったので、ちょっとマシーン感覚で言ってみました」
「あまりそういうこと言うと、流行りのブラウザバックされますよ」
「そんなものが怖くて小説家は務まりません。では二回クビ事件PART6をどうぞ」
これまでのあらすじ
「ゲーム会社」に入ったクマさん。はじめの数日は夢のような時を過ごす。しかし入社4日目、雇用契約書の問題が浮き彫りになる。契約書の欠点を指摘していくが、ワニさん・ラマさん、ピンとこないご様子。挙句の果てに、眼前で契約書をビリビリ破られる。
登場する人物・団体
ハイエナさん…死の奴隷商人。クマさんを「ゲーム会社」にねじ込んでくれた立役者。法律に詳しく弁も立つが、クマさんのイメージ的には、こざかしい悪代官。
ワニさん…クマさんの上司。香港人。日本語・英語・中国語(普通話・広東話)ペラペラ。面接時はハードコアゲーマーの設定だったが、一緒に仕事をしていくと何も分かってないことが判明。かなりの美人。キレると一方的にまくし立てる。
ラマさん…クマさんの同僚。香港人。ワニさん同様いろんな言葉が喋れる。日本語はクマさんより上手い。ゲームのパブリッシングの経験が豊富にある、という設定だったが、今はもうよく分からない。「10分後に会議があるので、今少しなら大丈夫です」と電話口で言うが、そんな会議はない。小動物みたいでカワイイ。
ハゲタカさん…クマさんが「入社」した「ゲーム会社」と提携している商社(版権あーだこーだで知られるアノゲーム会社の系列)の御仁。マシンガントーク。電話に出ればいつも言質を取られ、よくわからん約束をさせられるのでクマさんは苦手。
五日目
前日に契約書を見た際の失望感が拭えぬまま、クマさん今日も出社。すでに恒例となった会社近くの公園での準備体操を忘れない。体は資本。寝不足気味のクマさん、なおさら健康に気を遣う。
さあて、どうしたものか。死の奴隷商人ハイエナさんには、イミフな契約書が来たヨと報告してある。まったく、とんでもないところを紹介されたものよ。クマさんプンプンだわ。人を紹介するだけで手数料ゲッツとはボロイ商売よな。嫌味のひとつも言ってやりたくなるが、ここは我慢。
今できることは何か。よし。この怪しい「ゲーム会社」の情報を集めてみよう。幸い、法人の登記状況が載った香港政府のホームページがある。クマさんそこにアクセス。早速「ゲーム会社」の名前を入れてみる。
……………ない。……………なーい。……………ナイチンゲイル。
そう、ない。ないの。データベースにないの。会社名がヒットしないと分かったクマさん、危うくイスから転げ落ちるところであった。
頂点に達した不信感。ハイエナさん、コイツァ一体どういうことッス。ナンナンですかココ。メッセージを送るも、よく分からん返事が届く。所詮は奴隷商人、売ってしまえばあとは知らんということか。クマさんは自身の心が暗色に染まっていくのを感じた。
で、そんなこんなで、不信感エイペクスのクマさんは、さらに「ゲーム会社」を調べるべく、検索を始めたのであった。カタカタカタ。カタカタカタ。
そうして数十分ほど過ぎただろうか。ついに運命の瞬間が訪れる。
「あっ、クマさん?こちらハイエナだよ。あのねー、会社から雇用契約を解除したいって連絡あったから、あとよろしくねー」
「いやいや、そもそも契約交わしてないジャン、ハイエナさん」
「いやいや、香港雇用条例によるとね、香港ではね、雇用契約は口頭でも成立するんよ。クマクン出社してるよね、だからサ、その時点でもう雇用契約は成立してるんだナ、これが」
死の奴隷商人、ここに極まれり。まーたく、ナンてイイカゲンな人材派遣会社ダヨ。恥を知れ、とも思った。(芥川龍之介風)
まっ、仕方ない。いいってんならクマさん帰るよ。イーチ抜―ケタ―っと。
帰路、クマワイフを呼んで大戸屋に寄り味噌カツ煮定食を食べたのは、今となってはよき思い出である。
「だんだんとシリアスな展開になってきましたね、森乃さん。法人のはずが法人ではなかった」
「ええ、何から何までデタラメでしたね、この「ゲーム会社」も、ハイエナさんのところも……ただ、それがこうして物語にできるということは、怪我の功名かもしれません」
「さすが歩くポジティブ妖精。石橋は壊して進め、走り出したら考えろ、を地で行く森乃さんですね」
「(ソレほめてんの?)」
〈つづく♪〉