泡を舐める
「ねぇーえぇ、いぃーでしょぉ?」
「ダメだよ、まだ人の目があるから、うるさくしたらバレちゃうよ。」
「ええー。もう一日中待ってるんだよぉ?ほらぁ、もう部屋に鍵はかけたよぉ?」
「はぁー。..........しゃーない、一回だけだからな?」
「やったぁっ」
ベッドの上の枕や布団、邪魔なもの全部吹き飛ばして、張り倒すように倒れ込んで行く。体を激しく絡み合わせながら、息を荒くしていき、猛烈な攻防が繰り広げられる。しのぎを削り合い、消耗戦まで持ち込む。中々だ。前後左右のみならず上下まで、全方位に対応した動きに翻弄され、もう彼は手も足も出せない。まだまだ相手は余裕の笑みを浮かべている。限界が近づいてきた。彼の苦しい表情を見て、相手がさらに激しく攻撃を仕掛ける。
低い声でうめきながら、必死に堪える。もう彼の敗北は目前である。
「......!っ........っ!ぅっ......!うぁっあ.....」
「ソレッ!」
「もう...ダメだ...!」
彼は敗北を覚悟した。
その時突然目の前が暗転し、また明るくなる。
何者かが彼のVRヘッドセットを取り外した。
「失礼しますー。終了のお時間です、はい。」
「..........................................え、え?あ、もうですか。はい、ありがとうございました。」
「次回のご来店で、一回分無料クーポンを差し上げますー。」
「もうそんなに来てたのか...。ありがとうございます。あ、女将さん。」
「今後ともうちをご贔屓に。」
「はい、よろしくお願いします。あと、女将さん。」
「はい?」
「今度一緒にお茶でもどうですか?」
「"うちの店"を今後ともよろしゅうお願いいたします。」
彼は店を後にした。