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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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八話 魔導士は魔王と計画を立てる

 うなされながら寝ていた魔導士は、寝込みながらも魔王に報告をしていった。

 真面目か。




「とりあえず会えましたよ」


【そうか、それなら早く準備して来い】


 なんなら得意の移動魔法でひとっ飛びでも可だ!とか思っていたら、魔導士に呆れた溜息を吐かれてしまった。


「そんなにすぐは無理ですよ。城に戻って装備を作ってもらって、パレードの手配をして各地に魔王退治に向かうということを知らせないと」


 指を折りながらこれからの予定を淡々と話していく魔導士に、魔王は城でうんざりした顔をしていた。


「凱旋パレードは必要でしょう?」


 そもそも魔王に支配されて二百年近く。

 「なんで今?」という民衆の問い掛けにも対応しなければいけないのだ。




「こっちの準備中に魔王のほうでも宣伝しといてくださいよ」


【宣伝?】


 勇者を見つけてすでに四年以上、待ったのだ。

 これ以上待てるかとイライラし始めた魔王は、魔導士の言葉で叩いていた指を止めた。


「そうです、宣伝。だっていきなり『勇者が現れたんで魔王を退治しに行ってきますね!』とか言われても、支配されていた年月が長すぎて今の状態のほうが普通なんです」


 魔物は出るけど、そこそこクラスなら一般人でも倒せる。


 ダンジョンとか上級の魔物は騎士団や冒険家じゃないと無理だけど、すでにそういうものとして受け入れているし仕事としている人だっている。


「そういう人たちにも勇者じゃなくちゃダメなんだってことと、魔王を倒さなきゃって空気にならないと。何もしないまま旅に出たら魔物退治とかで生計を立てている一般人たちに殺されますよ」


【む……それは困るな】


 自分は勇者じゃないと倒せないと知っているけれど、その勇者を探すことを頼んだ魔物たちはどこまで知っているのかわからない。


「それじゃあダメですよ。適度に国全体に魔物を暴れさせて冒険家とかに仕事をさせつつ、今まで現れなかったところに大物を配置して混乱させるとか。そういうところに勇者と名乗る人物を向かわせて倒して、人々に認知させないと」


【うーん、それもそうか……】


「それに単純に疑問なんですけど、今まで支配していた魔王が死んだらこの国はどうなるんですか?」


【それは知らんな。滅びるんじゃないか?】


「それじゃあ、もっと綿密に計画を立てて封印する方向に持っていかないとダメダメじゃないですか」


【……やることが多いな】


「当たり前です。長年支配していたのに誰も手を出そうとしなかった魔王を倒しに行くんですから」


 こうして魔王と打ち合わせを始めた魔導士は、いつものようにスケジュールを組んでいった。




「あ、そういえば今度はゴブリンまで食べてましたよ。食べたっていうか、体格のわりに肉が少なかったんで骨で出汁取ってたんですけど」


 そしてそれを知らずに食わされてさらに替え玉のおかわりまでしてしまったことは言わないでおく。

 だって「美味かった?」とか訊かれても困るし。


【ゴブリンのあの腹はどうなっているのか気になっていたんだが……。そうか、肉ではないのか】


 それなら体格のわりに俊敏に動くことができるわけだと、やっぱり魔王は感心するように頷くだけだった。


「それでもあんな太い骨なら重そうですけどね」


【その骨からいい出汁が出たのか。……気になるな】


「えっ、魔物の味に興味が!?」


 ぽつりと呟いた魔王の言葉に驚愕しつつも、どちらかというと人間寄りの種族である魔王ならまあアリなのかな……いや、やっぱねーわ。


 美味かったけど、正体がわかった今は食べたいと思わない自分のほうが正常なんだ。


「とりあえず魔王は今から言うことをこなしていってください。これなら適度に旅の途中でも勇者を鍛えることができますから、魔王を倒しても納得してくれると思います」


【細けぇな……だが仕方がないか】


 城に行ったら一番最初に魔物の基礎知識から叩き込ませようとすでに計画を立てている魔導士は、魔王にも今後のスケジュールを話していった。




「こっちは騎士団が来たら動きます。二百年も待ったんですから、もう二年くらいは待っててくださいよ」


【二年も掛かるのか!?】


「スケジュール話したでしょ。そっちもですけどこっちも常識を叩き込んで、『勇者はヤバイヤツ』じゃなくて『カッコいい勇者像』を作らないといけないんです」


 イレギュラーがなければ、最低二年はお互い掛かるスケジュールを組んだのだ。

 急な改革は反動を生みやすい。それでも最短二年は速すぎるけれど。


【んーまあそのくらいは掛かるか】


「じゃあまた定期報告しますね」


 こちらからは連絡が取れないけど、大体の区切りで声を掛けるように魔王に頼んだ魔導士は、やっとスッキリとした顔で眠りについた。


「城に帰ったら忙しくなるな」




 この魔導士が立てたスケジュールを律儀にこなそうと頑張る魔王によって、国は一番の危機を迎えることになった。


 しかし魔導士は自分の立てた計画に絶対の自信を持っているので、各地で混乱が始まるのを「魔王も頑張ってんなー」と思うだけだった。


 そんな自分を周囲の人から「変な人」認定されていることを魔導士は知らない。


 自分の立てた計画通りに進む。

 魔導士の頭にあるのはこれだけだっだ。


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