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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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エピローグ~そして三百年後……~

 無事に城に戻ってきた魔導士たちを待っていたのは、国王様を始めとする重鎮たちだった。


「レイン様、おかえりなさいませっ!」

「ぐえっ」


 体当たりをかます王女様を受け止め損ねた魔導士はそのままうしろに倒れ込んだ。


「きゃっ!?……あら、レイン様?」

「うーん……」


 ペチペチと頬を叩かれるが、帰ってきたばかりだしというわけで団長と共にしばらく休養することになった。




「……はっ」


 「やっべ、勇者の両親に説明しなきゃ!」と魔導士が慌てて起きた時には団長が話し終えていた二日後で、国王様への報告も王女様との結婚式の準備もあらかた終わっていた。


「城へ帰ったら何をするか書いた計画表がまとめてあったでしょう。それをこなしていっただけですよ」

「老害どもも処理済みかよ……」


 それは自分がしたかったことだが、魔導士が直接すると恨まれて面倒なことになると言われては頷くしかない。


「いやでも、それだと団長がクビになるんじゃないのか?」


 団長が片付けてくれた計画表のチェックを見ながら、魔導士の処理リストには騎士団の指揮権を握っていた者がいたことも思い出した。


「魔王を倒す旅に出た自分に、意見を言える人はいませんよ」

「そうか……」


 半年近く騎士団を離れていても、今まで直接団員たちと関わってきたのは団長だ。

 現場を知らずに無茶振りばかりするソイツを追い出すことに反対する人などそもそも誰もいなかった。




「では勇者の実家へ参りましょうか」

「うわぁー気が重い……」


 一番厄介なことが残っていたが、両親に魔法を掛けなければいけないことも、勇者を連れて行ったのも自分なのだから仕方がないと魔導士は深い溜息を吐きながらも諦めた。


 一人娘を魔王を倒す旅に連れて行ったどころか、返さずに魔王と一緒に封印しただなんて。


 次に生まれ変わったら一緒になるという本人たちの希望を叶えただけとはいえ、あの(・・)両親がすんなり納得してくれるとは思えない。


「手土産に極上ステーキでも仕留めとけばよかったか……」

「最後の大きい街に寄った時、仕留めた魔物の大半は転移魔法で送ってもらったでしょう?たぶん大丈夫ですよ」


 しかしこれからは魔物が出現しなくなるのだ。

 いい商売になっていたのだから、そういう意味でも余計なことをと怒られそうで気が重い。




「レイン様、出掛ける前に少しよろしいでしょうか」

「どうした?」


 一番説明しなくちゃいけない人なんだからと、すぐに出発しようと準備をしていた魔導士に、王女様の侍女が声を掛けてきた。


 手元には勇者からの手紙を握っているようで、慌てて声が漏れない魔法を掛けて扉を閉めた。


「手紙を読んだならわかると思うが……」

「ええ。確認をしたら目の前で燃やします」

「ならいい」


 団長から受け取ったという手紙を開いて説明しろと詰め寄ってきた侍女に、勇者からの言葉と顛末を魔導士は話していった。


「では勇者のお相手の方は魔王、ということなのですね?」

「ああ」

「なんという斜め上の相手を選んだのでしょうか……」

「それは俺も突っ込んだ」


 確かに侍女が願っていた理想にドンピシャの相手ではある。

 あるが、それでも「なんで魔王!?」と言わざるを得ないのだから仕方がない。


「……その、生まれ変わったら幸せになってくれるのでしょうか?」

「そうなるように、その時まで俺が監視する」

「レイン様が?」


 これは自分が立てた計画の最後を見届けないと気が済まないという難儀な性格によるものだったが、全然転生しない魔王に待ちくたびれた魔物たちが暴れだすとも限らないからだ。


「その時にわたしはいませんから、わたしの分まで見守ってあげてください」

「わかった」


 どうしてここまで勇者を気にしているのかは魔導師にはわからなかったが、約束通り目の前で手紙を燃やして死ぬまで誰にも話さなかった侍女の言葉を転生したら伝えようと魔導士は決めた。






 ―――月日は流れ、魔王が支配していた世界は穏やかな地へと戻っていった。


 人々も魔法を使うことを忘れ、代々の王族が国を管理していく平和な日々が続いていくと誰もが信じて疑わなかった。


 勇者と魔王が転生したのはそんな時、封印されてから実に三百年が経っていた。





アリア(・・・)ーじゃなかった。……シアー」

「はーい。なあに、おかーさん」


 最初に前と同じ両親の魂を持つ二人から勇者が生まれ変わった。




「我は魔王 リーデリッヒュ!さあ、オレの嫁を探せ!」

「最初の言葉がそれ!?」


 ウチの子、頭大丈夫かなあと心配しつつものびのびと育てていく両親の元で魔王が生まれ変わった。




「よしよし、順調だな」


 これなら今世での自分の出番はなさそうだと、意識だけになりながらも見守っていた魔導士は満足げに頷いていた。


 これで自分の役目は終わりだなと、自分の子孫も計画通りに過ごしていることも確認済みの魔導士は、このまま消えても問題はなさそうだなと思っていた。


 ソレ・・を見るまでは。




「シア、ちょっとこれ切っといて」

「はーい」


「うん!?」


 母親に渡された野菜を、とても見慣れた剣で素早く勇者が切っていく様子を見た魔導士は固まった。


「一丁上がり」

「相変わらず、その剣はよく斬れるねぇ」


「あ……あれはまさか……」


 確かに勇者にしか扱えないからと、一緒に封印した『なんでも斬れる剣』が、なんでこの平和な時代に一緒に転生してんの!?


 「ボーッと見守ってる場合じゃない!オレも転生しないとっ」と、子孫の中から魔法力が高くて波長が合った少女に魔導士は転生することにした。




 魔王と勇者が転生するのだ。

 なんかあるかもと、死んでからも見守れるように。

 万が一、何かあってもすぐに対処できるように自分にも転生魔法を掛けておいて良かったと魔導士は思った。




「……あとさあ、おかーさん。リディに呼ばれたからそろそろ行きたいんだけど」

「あんた、また世界を助けるために帰ってこないつもりなんじゃないでしょうね!?」

「え、どっちかというと嫁にいくんだけど……」


 前のことも記憶にあるのか、それから二年間、「生まれ変わった魔王と結婚する」という娘を行かせないようにと頑張る両親だった。


「もーっ!嫁き遅れたらどうする気!?」

「今度こそ詐欺かもしれないだろ!」




「アリア、遅いなぁ」

「本当に嫁が来るの?だってまだ五歳じゃん、子供じゃん」

「子供と言うな!オレは魔王だぞ!」


 ムキーッと地団駄を踏む様子はどう見てもお子様にしか見えなかったが、三歳の時から言い続けた嫁が二年後に本当に家に来た時は驚いたなあと、生まれ変わった魔王の両親はしみじみと回想した。






「……あのね、リーデリッヒュ」

「なんだ?」

「わたし、そろそろ三十路なんだけど」

「それが?」


 自分はまだ十代だからって、もうすぐ三十歳になろうというわたしに手加減しないとはどういうことか。


 「ちょっと離れようか。なあに、三百年待ったんだから十年くらいいいよね」という旦那様の一声で、実家に戻ることになった勇者を約束通りに迎えに来てくれたのはいいけれど。


 こうして一緒になれたし、豪華なドレスを着て城で結婚式まで挙げられたのもいいけれど。


「あのね、今のわたしのお肌は曲がり角だし体力だって昔よりもないんだよ。そもそも今のリディより、わたしのほうが一回り歳上なんだからね!?」


 「そこんところわかってる!?」と、式を挙げてから毎日毎晩、新婚なんだから当たり前かもしれないけれど。

 身が持たないと言う勇者に魔王はとても輝かしい笑顔を向けるだけだった。


「三百年分がたまっているのだぞ、アリア?」

「さんっ!?」


 それはつまり、どのくらいなんだと訊き返す前に勇者は倒れた。




「そうだ、新婚旅行がまだだったな。懐かしの我が城へと行ってみようか。まだ少しでも魔物が残っているかな」


 楽しげにこれからの計画を話していく魔王の言葉を遠くで聴きながら、三百年分という言葉に勇者はうなされていた。






「そういうわけで、オレの城へ新婚旅行に行ってこようと思うんだが」

「ぶふぉっ!?」


 翌朝、城にいる魔導士の生まれ変わりの王女に言ったら思いっきり吹き出された。


「魔王を復活させる気か!?」


 あの言葉を信じているのなら、今も律儀に魔王の復活を待っている魔物たちがいるはずだ。


 無事にこうして転生したから元の身体は消滅しただろうが、待ち望んだ魔王が目の前に現れたのだ。


「レインも入ったでしょ、お城にあった大浴場。あれにまた入りたくて」

「観光気分かっ!」


 新婚旅行なんだから「もっと大きい街へ行くとかしろよ」という魔導士に、「そういうところは前に散々行ったからのんびりしたい」と相変わらず頓珍漢なことを言っていく魔王と勇者。


「魔王がいた城でのんびりできるわけがないだろうがぁっ!」




「俺も行く!」


 そもそもこの平和な時代に生まれ変わったのに、『なんでも斬れる剣』まで一緒に転生してきたのだ。

 何もないはずがなかったんだ。


「レイン様、新婚旅行の邪魔をしたらいけませんよ?」


 騎士団の団長が嗜めるが、魔王の城へ勇者と魔王が向かってタダで済むわけがないと信じて疑わない魔導士は必死に自分を連れていくように頼み込んだ。


「そもそも正確な場所を覚えているのか?あの頃とはかなり道も街も変わったんだぞ?」


 王女として、また魔物たちの行く末を管理する者として道も場所もすべて把握している魔導士の言葉に勇者と魔王はそれもそうかと頷いた。


「じゃあレインも一緒に行こうか」

「昔のように途中で計画を変更しなくていいように、宿泊と食事もしっかりと考えた旅のしおりを作ってくれ」

「もちろんだ」


 アッサリと許可をした勇者と魔王と魔導士の三人は、魔王が転生するまで封印され続けた城へと出掛けることになった。




「はい!自分も行きます!」


 相変わらずミーハーな団長は、全員VIPなのだから守らなければと護衛に名乗り出た。


「わたしに勝てたこと、あったっけ?」

「うっ」


 首を傾げた勇者に勝てたことがまったくない団長は言葉に詰まった。


「昔と違って手続きをして馬車で向かうから護衛はいらないと思うぞ」

「ううっ」


 王女がいるのだから、王族の用意するベッド付きの揺れが感じない部屋のような馬車を使うことになるだろうと話す魔王にさらに団長は一歩下がった。


「その馬車も丸ごと俺の魔法で防御するから旅は安全そのものだ」

「ううぅぅぅ……」


 昔と違ってすんなり同行させてくれない勇者たちに団長は半泣きになった。


「自分も昔、旅をした仲ではないですかぁっ!」


 最終的に泣き落としで一緒に行くことになった団長は、それでも新婚の邪魔をするのはよくないと言って二台連結の馬車の手配をした。




「うぇぇ……団長と一緒の馬車って、この外見だと誤解しかされないぞ」


 十四歳になったのだからと、外見美少女の王女様である魔導士が嫌そうに呟いたが受け入れられなかった。


 昔よりも歳がかなり離れているのだし、今回の団長には嫁に子供もいるのだ。

 誤解も何も全然されずに見送られたことを知っているはずなのに、昔のようにぶちぶちと文句を言っていく魔導士。


「じゃあレイン様は四六時中、新婚の二人と一緒でもいいと言うんですね?」

「……断る」


 こうして魔王と勇者と魔導士と団長は、ふたたび魔王のいた城へ向かって旅に出ることとなった。




「まだ温泉て沸いてるんですかね?」

「そういえば今は同性だから、レインと一緒にお風呂に入れるねえ」

「ぶふぉっ!!」

「ほぉ……」


 寝るまではお茶をしながら過ごそうと、同じ馬車の中でこれからの予定を話していた途中で何気なく呟いた勇者の言葉で馬車の中が凍りついた。


 微笑んでいる表情だが、チラチラと金色に変わっている瞳を魔導士に向けた魔王の目元は笑っていない。


「……それこそ新婚なんだから、お前らで入ればいいだろ」


 とばっちりはごめんだと手を振った魔導士により、女風呂を勇者と魔王が、男風呂を魔導士と団長が順番に使うことで決定した。




「魔物は何匹か残ってるのか?」


 窓を見ながら呟いた魔王の言葉には団長が答えていった。


「調査に行った騎士団からの報告では、まだいるようでしたよ」

「そうか……」


 「じゃあ温泉ものんびり堪能できないんじゃね?」とは思ったが、それはそれとして懐かしい道のりをしばらく楽しむことにした。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 本編よりも長くなってしまった【出会い編】ですが、少しでもお楽しみいただけたら幸いです。


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