三十七話 魔導士は封印する準備を始めた
「別な世界に飛ぶよりは、同じ世界の何年か後に生まれ変わるほうが手っ取り早いですね」
勇者と魔王を転生すると決めた魔導士は、サッサと切り替えていつものように計画を立てていくことにした。
禁術魔法を使うという不安から平常心を保つため、とも言えるけど。
計画魔なことはすでに知られているのでいつも通りだなとしか三人は思わなかった。
「両親にはなんて言えばいいんだ?」
「ありのままでいいよ。嘘つくと怒られるし」
「それに、おかーさんにはすぐバレると思う」と言われれば、あの母親を知っている魔導士と団長は頷くしかなかった。
「じゃあ手紙も書いておけ。つーかあの両親のところでしか生まれ変われないだろうから、そっちも了承してもらわないとか」
姿は違えども魂は同じだ。
今となるべく同じ条件を組み込むことで転生しやすくなるはずだと、クソ長い詠唱の言葉とともに必死に思い出そうと頑張っていく。
「その詠唱と魔力以外に必要なものってないんですか?」
魔法についてはからっきしな団長が尋ねていくが、ソレも含めて思い出していると言われては黙るしかない。
「その杖があればなんでもイケルと思ったよ」
「そんなわけねーだろ」
そこまで魔法が万能じゃないことは移動魔法でぶっ倒れることで証明済みだ。
「なんでもできるほうがおかしいか」
「そういうことだ」
それでも「時間も次元も超えられるところはすごいよね」と、初歩魔法も使えない勇者は相変わらず金の瞳を輝かせながら尊敬の眼差しを魔導士に向けていった。
【アリアの両親にも転生魔法を掛けるということになるのか?】
同じテーブルで魔導士が書いていく計画表を見ながら魔王が首を傾げて尋ねていった。
「この場にいない人には掛けられませんから、話をしに行く時に出会いやすい魔法を使わせてもらいます」
転生魔法に繋がる術式を組み込めばできるはずだと、魔法がサッパリな勇者と団長にも説明をしていった。
「その転生魔法と最初に使おうとしていた封印魔法って、どっちが簡単?」
「あー……どっちもどっち、だな」
未来永劫、封印をし続けられる魔法などない。
自分の子孫に何年かに一度、掛け直すように頼む予定だと話したら驚かれた。
「レインてどこまで計画を立ててるの?」
「そんなん、魔王の影響がなくなる予定の何百年後かまでだよ」
支配していた魔王がいなくなったら、王族に今度は国をまとめてもらわなければいけないのだ。
その王族に連なる者になるのだからと先日気が付いた魔導士は、二百年先の未来まで計画を新しく立てたばかりだったが、そんなことはこの場では言わない。
「そんなに後のことまで心配するなんて、レイン様ってすぐにハゲるんじゃないですか?」
「ハゲ!?」
団長の聞き捨てならない言葉に慌てて髪を触るが、フサフサだったからホッとする。
ハゲるヤツなんて城にいる老害だけで十分だ。
「それより自分の子孫がきちんとするっていう自信はどこから来るの?」
「私の子孫なら当たり前だろ」
何を言っているんだとお互いの言葉に首を傾げる勇者と魔導士。
【ここまで来たのもその計画のおかげだしな】
自分がいるかいないかわからない未来の心配は置いといてと、次の話し合いをしていった。
その頃、城の外に待機している魔物たちはのんびりと久しぶりの休みを堪能していた。
「魔王様の命令で暴れ続けていたけど、たまには休まないとな」
「ああ。しっかり我々のことも考えてくださるなんて、さすが魔王様だ」
各地に散らばっていた魔物たちも帰省し始め、段々城の周りが賑やかになっていった。
「そういえば、魔物たちって城の中に入ってこないんでしたっけ?」
【ああ。休暇も兼ねて城の外で待機しておけと言っておいたからな】
そろそろ普通の食事以外が食べたいなあと思った団長だったが、そんなに集まっているなら難しいかと諦めることにした。
「普通の食事で何が悪い」
絶対に食べたくない魔導士はここでも断固拒否をして、外にいる魔物に手を出すと封印してから厄介だからと言い含めていった。
「あ、でもリディには食べさせたことがあったよね」
「ぶっふぉっ!?」
【ああ。その剣を使ったところを見たのだから気付いてもよかったな】
「ちょっと待ってて」という言葉通りに待っていたら、飛んでいたらしい鳥形の魔物を仕留めてさらに薬草と共に目の前で調理していったのだ。
「うぇぇぇ……マジで食わせたのかよ」
ゴブリンの味を思い出してむせる魔導士に、なんでもないことのように魔王が言った。
【意外と美味かった】
「……ソウデスカ」
やはり見た目通りに人間寄りなんだなあと納得しかけたが、それでも魔物を平気で食べる勇者と一緒になろうとする神経がわからない魔導士は無視することにした。
『この剣て便利でしょう?投げても戻ってくるし、なんでも斬れるんですよ』
なんでもないことのように言ったら空に飛ぶ鳥を投げた剣で仕留め、もう一本で果物の皮を器用に剥いていく。
『あ、左は野菜とか果物用で、右は肉用に使い分けていますから安心してください。まあ魔物相手では両方使うので、使い分けをしても意味はないかもしれませんけれど』
ニコリと微笑んで、勇者にしか使いこなせないと言われている魔剣を日常使いする不思議な少女と過ごしたわずかながらの時間を思い出した魔王は首を傾げた。
仕留めた鳥は魔物だったし、何より本人の口から魔物を倒すとも聞いていたのだ。
それなのに疑問に思うどころか「料理上手なんだな」としか思えないとは……。
【ふむ、恋は盲目と言うが本当だったな】




