三十三話 魔王は封印されたくない
「……いま、なんておっしゃったんでしょうか?」
姿が見えない声だけのやり取りだが、向こう側の魔導士の顔がとても引きつっている上に怒りを必死で抑えていることが声の調子でわかった。
【うん。封印されたくない】
しかしそれでも勇者の手を取ったのは自分なのだから、キッパリと計画の最後の仕上げともいえる内容の変更を魔王は魔導士に告げていった。
「っざけんなこらぁぁ!!!」
これが眠っている時でなければ街に被害が出ただろうけれど。
精々、ギリギリと歯ぎしりをするくらいなので、現実の宿で同じ部屋の団長が「うるせえなあ」と思うくらいで済んでいた。
「っあんたが!自分を封印してくれって言ったから!準備して!ここまで!来たんでしょうがぁぁっ!!」
国一番の大魔導士を自認しているレインの魔力は、魔王には及ばないまでも人並み以上だった。
目覚めていたら天変地異のような嵐が国中に巻き起こっていたと言えるくらいの魔力を夢の中でぶっ放していた。
しかしそれでも眠っているので、「うーん……うーん……」とうなされるくらいだった。
「今度はうなされてる。……悪夢でも見てるのかな?」
魔王からの爆弾発言だったので、ある意味では団長の疑問は当たっていた。
「……それで、どういうことですか?ここにきて封印されたくないだなんて」
とりあえず夢の中で盛大に魔法を打ち込んでスッキリした魔導士は、改めて魔王に向き直って尋ねることにした。
魔導士の八つ当たりを黙って聞いていた魔王は、誤魔化しても仕方がないとアッサリと告げていく。
【惚れた女がいるんだが、できれば添い遂げたくなったのだ】
「んあっ!?」
魔王の口から予想外な答えが返ってきて、思わず魔導士はなんと返したらいいか戸惑って変な声を出してしまった。
「あー……もう一度」
聞き間違いだと思った魔導士は、「封印されたくないってどういうことですか?」と訊き直すことにした。
【家族になってくれとプロポーズをされたのだ】
「なんて!?」
魔王と知っててプロポーズをするとは、そんな豪傑な女がこの国にいたのか?
【いや、魔王とは名乗っていない】
「ああ、それなら」
いやしかし魔物を食べる一家もいるしなと納得しかけた魔導士はちょっと安心した。
そんな変な女は勇者一人で十分だと思ったからだ。
「それでも魔王としては城から出られないんでしょう?」
【ああ。人間の姿に変えれば出られるが、それでも保って五日が限度だからすぐバレるだろう】
保てなくなったら城のいつも座っているあの場所へ強制送還されるのだ。
「魔王もある意味で呪われていますよね」
【これで支配しているなど、よく言えたものだと思うがな】
配下の魔物たちに命令するだけの存在で、人間が抱えるには多すぎる膨大な魔力を持っているというだけの人型の異質な存在。
【だから勇者に声が届いた時はやっと解放されると喜んだのだが……】
それでも出会ったものはしょうがないと、封印しか方法がないなら諦めるが何かないかと魔王が魔導士に尋ねていく。
「ここまで来てしまいましたからね。魔王という存在を倒さなくてはいけません」
けれど消滅させる方向ではなく、国にも影響があるかもしれないからと封印という手段に変更したのだ。
魔物を人間にする魔法はない。
けれど国一番の大魔導士として、魔法に関することで軽々しくできないとは言いたくない。
「……わかりました。この街で準備を整えたら城へ一気に飛びます。そこで話し合いましょう」
【頼んだ】
まだ勇者にも団長にも、今後についての予定を話していなかったのは幸いだ。
どうせ城へ飛ぼうかと考えていたのだから、その後のことは着いてから考えることにしよう。
「着いて早々、戦闘とか嫌なんで、魔物は全部城の外に移動させるか動けなくしておいてください」
【わかった】
魔王のいる部屋の場所を詳しく聞いた魔導士は、明日から自分のための食料を片っ端から買い込もうと少しだけ計画を変更して寝直した。
「……やっと静かになった」
歯ぎしりとうなされる魔導士を鬱陶しそうに見ていた団長も、静かになったことを確認したら布団を被り直した。




