三十一話 勇者たちはサクサクと旅を終わらせることにした
明け方近くまで魔王と今後を詰めていた魔導士は昼過ぎまで起きてこなかった。
「魔王と話していたのかなあ?」
近くにいた魔物を仕留めて朝食とした勇者が肉をかじりながら魔導士の寝顔を見て呟いた。
「魔王を封印すると言っても簡単ではないですからねえ」
同じ肉をかじりながら、最初から細かく立てられた旅のしおりを開いて団長が頷いた。
そこには寄る予定ではなかった大きな街とルート変更がいくつか付け足されていた。
「次の街で最後だから、魔王のいるお城まで飛ぶとか言い出すかな?」
「ラスボスの手前でぶっ倒れるなんて無様な真似はしたくないって言ってましたけど、最近では帰りたいっていうのが口癖になってましたからね」
小さい村を助けつつ向かうはずが大きい街にも寄ることになったり。
野宿をすることで戦いの辛さとかを演出できるとか言っといて宿をとったり。
魔物を倒しながら進むんだから食べたほうが早いって言うのには相変わらず断固拒否の姿勢を崩さない。
「改めて考えると、レイン様って魔王を封印する時にしか役に立たないんですよね」
「基本的に魔物はわたしか団長が倒しているからね」
魔導士が手を出す時は大体が八つ当たりと決まっている。
街で買い込んだ普通の食事がなくなりかけた時とか。
野宿が続いて寝不足だったり、「何もしなさすぎてなまってきたなー」とか言い出した時に盛大に魔法をぶっ放してスッキリしているのだ。
「あれさあ……骨まで燃やすから美味しい魔物の時は困るんだよね」
「わかります。八つ当たりで消し炭にされるなんて魔物がかわいそうですよね」
骨までしっかり食べないと失礼だと頷き合っている勇者と団長もどうかと思うが突っ込む人はいないのでそのまま魔導士の起きる時を待つ二人だった。
「あ、でも次の街で最後なのか」
何かを思い出したように勇者が呟くが、ちっとも起きない魔導士を叩き起こし始めた団長の耳には届かなかった。
婿を連れてこいって言われたけれど、勇者が思い浮かべている人は一人だ。
その人はもうすぐ封印されてしまうから、どっちみち勇者とは一緒に実家に行くこともこの先の人生を一緒に歩むこともできない。
けれどそんなことは知らない勇者は、なんて言ったらついてきてくれるのかと考え込んだ。
「よし、次の街で会ったら訊いてみようっと」
ウチに婿に来ませんかと逆プロポーズしようと決めた勇者は拳を握って気合いを入れた。
「いい加減、起きろっ!!」
「いでぇっ!!?」
ちっとも起きない魔導士は団長渾身の往復ビンタによって無事に叩き起こされた。
「はあ……やっと起きた」
目覚めたがまだ寝ぼけている魔導士は、いつもと違う自分の顔をペタペタ触りながら首を傾げた。
「なあ……なんか顔腫れてねえ??」
もう一日、馬を走らせて着いた街ではすでに魔物が暴れていた。
「あっ極上ステーキ!!」
金の瞳を輝かせた勇者は馬から飛び上がったらすぐさま剣を抜き、目の前で暴れている中ボスクラスを華麗に斬り刻んでいった。
「貴様ら……もしや勇者たちか!?」
「お、こっちは薬草と煮込むといいスープになるんだよな」
いきなり仲間を斬られた魔物たちはすぐさま振り返るが、ペロリと舌をなめた団長によってあっけなく叩き斬られてしまった。
「城に行くまでもちそうですね」
「大量大量!」
三日三晩暴れていた魔物の集団をあっさりと倒した勇者一行が、倒した魔物を袋に詰めていることを不思議に思う人はいない。
「倒してくださったどころか後片付けまでしてくれるなんて……!」
「……」
感動している街の人たちに「いえ、狩りの戦利品を回収してるだけです」と突っ込みたくなった魔導士は、そのまま杖を地面に打ち付けて街ごと洗い流していくことで無視することにした。
「修理はそれぞれでしてもらうことになるが、これで少しは片付けやすくなるだろう」
「ありがとうございます、大魔導士様!」
「はっはっは。私たちはしばらく滞在するから、その間の魔物退治は任せなさい」
この後はまっすぐ魔王のいる城へ向かうから、出る前に二度と魔物が近付かないようにしようとまで約束をして、比較的被害の少なかった宿に部屋を取った。
「あー……ベッドサイコー」
部屋に入ってすぐにだらける魔導士には、いつものように団長が窘めていく。
「荷物の整理が先って言ったでしょう!」
「そうだった。つーか今後の予定も言っとかないとな」
魔王の封印の旅がもうすぐ終わるのだ。
先日、魔王が封印されてからの魔物の処理や各地の状況、さらに迷宮の管理を誰にしてもらうかなどまで話し合ったことを、勇者と団長に言っておかないといけない。
計画を立てることが好きな魔導士は、最後まで美しく綺麗に終わることも何よりも大切にしていた。
自分が立てた計画通りに進むことと同じくらい、締めくくりにもこだわっていた。
……けれど宿に着いて早々、出掛けていった勇者が誰と会っているか。
魔導士が旅に出る前にした守りの魔法の上から、軽々と別な魔法を掛けたヤツは誰なのか。
いまだに聞いていないことで、最後の最後で計画が大幅に狂うということに魔導士は気付いていない。
ここが最後のチャンスだったのに、いい宿にいい食事が出たことで熟睡できてすっかり忘れていた。
つまり魔導士の自業自得というやつだったが、いつものように誰も突っ込まないのでそのまま城へ向かうこととなった。




