二話 魔王は久しぶりに声を掛けた
【おーい、アリア】
「あれ、なんか久しぶり」
オッスとでも言いそうな気楽さで、久しぶりに寝ようとしたら頭に男の人の声が響いた。
【お前の家ってどこだ?魔導士に探させているはずなんだけど、見つからねえって言うんだよ】
「ウチ?」
そんなことを知ってどうするんだと首を傾げたら、四年前のことを思い出させるように魔王が話していく。
【魔導士にも声を掛けとくって言っただろ。それに最初から四年が経つはずだ。そろそろ年齢的にもいいだろ?】
「あーあー、魔王退治!」
ポンと手を叩いて思い出す。そうそう、わたしってば勇者なんだった。
ついでに魔物を向かわせるから、一撃で魔王を仕留めるようにと言われていたことも思い出した。
「でも特訓たって、前とおんなじで動物狩ったり野菜切ったりしかしてないよ?」
【そうなのか?おかしいな、国全体に魔物を行き渡らせておいたんだが……】
わりと物騒なことを呟いた魔王は、それでもまあいいかと勇者に改めて声を掛けた。
【近いうちに魔導士が行くから、装備そろえて凱旋パレードとかして雪が降る前に旅に出ろよ】
「急に言われても……」
またしても勝手に声を掛けてきた魔王は勝手に通信を切ってしまった。
「うーん……でも向こうは”アリア”を捜すんだよね?じゃあ”アレク”のままでいれば誤魔化せるか」
そんな妙な旅になんて面倒だから出ないもんと、布団を被り直して勇者は眠った。
魔王に声を掛けられたもう一人、大魔導士 レインは憂いていた。
「南の村ってどこだよ。クソ魔王」
勇者と違って、魔導士としてすでに有名になっていたレインの言葉を疑う人はいなかった。
今年の初めに急に【勇者を探せ】と言われたので、すぐに手配をして国中を探しているというのに、ちっとも勇者が見つからない。
「そもそも一方的ってのがムカつくんだよな。それに姿は見えないとか、万能じゃない魔王ってなんだよ」
そもそも倒されることを待っているとか意味がわからん。死にたいなら勝手に死ね。
【簡単に死ねないから困ってんじゃねーか】
「んあっ!?」
うとうとしていたらしいレインの頭に、すでに聞き慣れた声が久しぶりに響いた。
「あー……、魔王 リーデリッヒュですね」
ちょうどいいやとばかりに、そのままうたた寝をしながら色々と聞くことにした。
【なんだ。大魔導士 レインよ】
「勇者のもっとくわしい居場所はわからないんですかね?」
久しぶりの魔王からの声掛けで混乱している魔導士は、国中に配った勇者の指名手配の結果が芳しくないことを憂いていたことも思い出した。
名前と年齢だけだから、そら見つからんわとも思うけれども。
それより名前自体も間違っている可能性もあるんじゃないかと思い始めている。だって偽物だけで何人城に来ているというのか。
そう言ったらしばらく考え込むような間が空いて、確認させるように魔王が話す言葉にレインは固まった。
【勇者の名前はアリアで女だ、間違えてどうする。こっちは旅の途中で死ぬと悪いから魔物を送り込んで特訓させといてるんだ】
「なんて!?」
それに魔王は最初の質問には答えられる。さっき勇者の前よりは詳しい位置を聞き出したからだ。
ものすごーく歪曲された言い方だから、これでも見つかるのかわからんけども。
それでもまあいいやと魔王はそのまま魔導士に話していった。
【もちろん勇者に居場所は訊いといたぞ。今から言う住所に雪が降る前に行ってこいよ】
「なんて!?」
【じゃあな、大魔導士 レインよ】
唐突に現れた魔王は同じくらい突然通信を切っていった。
見つからなかった勇者の居場所が、大体とはいえ範囲が狭まったのはいいけれど。
「そんなとこに行くくらいなら寝たい……」
すでに疲れきっていた魔導士は、そのまま丸一日たっぷりと泥のように眠った。
勇者を特訓させる為に魔物を集中させるというのなら、各地に散らばっていた魔物も大人しくなるってことだろう。
魔物退治に被害状況の報告まとめ、およそ魔導士がやる事後処理ではないけれど。
性分なんだから仕方がないと割り切ることにして、それでももっと寒くなる前に勇者を迎えに行こうと、起きたらスケジュールを組み直そうと思いながら眠りについた。
冬になる前にとは考えていたが、各地に広がった魔物はそう簡単には戻ってくれなかった。
つまり冬の間も魔導士は各地に呼ばれて退治の依頼をされ、勇者を迎えに行くどころではなかった。
「俺のスケジュールを狂わすんじゃねぇぇ!!」
そんな叫びとともに魔物は一掃され、魔導士に八つ当たりされていたことを魔王は知らない。
【早く来ねぇかなー】




