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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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二十八話 無視された魔王は不貞腐れる

 昨夜はよく眠れたなあと思いっきり背筋を伸ばした魔導士は、城の自室でも滅多にできない熟睡ができて目覚めのいい朝を迎えた。


「くぁー……寝た寝た」


 魔物の気配がしないから撤収したんだろうなあと頭をガシガシとかきながらぼんやり思っていたら、忘れていたことを思い出した。


「やっべ、昨日は定期報告の日だった!」


 うたた寝や浅い眠りの時しか魔王とは繋がらないみたいで、すぐに熟睡してしまった魔導士はせっかく近年(まれ)に見る目覚めだったのに慌てて布団を被り直した。


「あ、おはようございます。レ、ジェイン」

「ああ、おやすみ!」

「は!?」


 日は完全に昇りきっているが、もしかしたらまだ声を掛け続けてくれているかもしれないという一縷(いちる)の望みを掛けて眠り直した魔導士の布団はすぐに剥ぎ取られた。




「何寝てんですか、朝ですよ!」

「うるっせぇぇ!魔王との定期連絡忘れたんだよ、寝かせろ!」

「え、定期連絡?」


 布団を奪い返して無理矢理目を閉じる魔導士だったが、滅多にない爆睡具合だったのだ。眠れるわけがない。


「クソッ!」


「ねえ、魔王とかなんとか聞こえたけど?」


 トントンとノックをしながら勇者が控えめな声で扉の外から声を掛けてきた。


「おはようございます、アリア。昨夜は定期報告をする日だったようで……」

「うん、それもバッチリ聞こえた」


 つまり魔法で声が外に漏れないようにはしていないという意味なのだが、幸い上等な部屋に案内をされた勇者一行の近くに部屋を取った人はいない。


「あんまり油断しないようにね」

「あー悪い。つーか失敗したー」


 勇者にどこかの誰かが掛けた魔法みたいに、名前を呼んだらこっちからも繋がれば楽なんだが。

 最初に声を掛けられてから五年近く、相変わらず一方通行だ。




 団長に促されて部屋の中に入り、声が今度こそ漏れないような魔法を掛けてもらったら改めて勇者が口を開いた。


「あのね、レインのほうと繋がらないからって、わたしのところに声を掛けてきたから話しておいたよ」

「え、マジか!?」

「マジマジ」


 それなら助かったとまだベッドの上にいた魔導士は胸を撫で下ろした。

 しかし他にも細々とこれからの予定を詰めたかったのだが仕方がない。


「それも言っておいたから、今夜はちゃんと繋げてねだって」

「え?」

「最初に決めたルートから時々外れるんでしょ?でも詳しい場所とかわたしは知らないから、直接聞いてって言ったら今日し直すって言われたの」

「でかした!」


 どうせこの街を出発するのは明日なのだ。それにグッスリ眠れたことで機嫌もいい魔導士は勇者を褒め称えた。




「じゃあ朝食を摂って、調味料や服なんかの店を中心に見ましょうか」


 いつまでもベッドにいる魔導士を起こして団長が指示をする。


「魔物の被害状況と魔王のことをどう感じているのかも確認したい」


 着替えながら今日の予定を話していく魔導士は、また途中で却下されて着替え直していく。


「こういう大きい街で魔物が暴れているところを勇者が倒したら一気に広まりそうですけど、気配がないんじゃあっけなく倒されたんですかね?」

「事前に暴れてた形跡はあったから、近くの村に勇者が来たから撤収したって話になってればいーよ」


 扉の外で待っていた勇者と合流して、朝食を食べたら今後の旅で必要そうな道具を買い足すことにしようと階下に下りた。




 今日は三人で行動するから会わないほうがいいかと決めたこともあったが、昨夜のことを思い出していた魔王は屋台の魚をかじりながら木の上で不貞腐れていた。


「しっかし熟睡すると繋がらなくなるのか。どうりで勇者とは早い時間じゃないと無理だと思った」


 勇者が「魔王から声が掛からなくなったなあ」と思っていた四年の間にも、何度かチャレンジしていたらしい魔王はやっと原因がわかって納得した。

 それでも細かな計画を立てていた魔導士に無理をさせているとは思わなくて、やっぱりムスッと口を引き結ぶ。


「夜になったら話し合わなければ」


 せっかく仲良くなったアリアと会えないのはつまらないなと思いながら、魔王は木の上から飛び降りた。


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