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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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二十七話 勇者たちは宿を堪能する

「ただいまー!」


 親切な人に送ってもらった勇者は、部屋の中でウロウロとしていた団長と不機嫌丸出しな寝起きの顔の魔導士に笑顔で挨拶をした。


「良かった。これ以上、遅くなるなら迎えに行こうと思ったんですよ、ジェインが」

「途中でスリと人攫ひとさらいにあって迷子になったけど、親切な人に送ってもらったよ」

「なんて!?」


 はぐれてからのことを勇者が話したら、「送ってくれた人もいい人だとは限らないでしょう!」と団長に正座でお説教をされてしまった。


「でもね、自分の焼き鳥をわたしに一本くれたんだよ」


 それに美味しいお店も教えてもらったと一生懸命話した中で、先ほど団長がメモった店がいくつか被っていたのでそれ以上は怒れなくなってしまった。




「とにかく。その格好の時は勇者じゃなくて、ただのか弱い女の子なんですからね」

「はーい」


 「勇者が帰ってこない」と叩き起こされた魔導士は終始不機嫌だったが、何を口走るかわからない二人なので、しっかりと部屋の外に声が漏れないような魔法を掛けてある。


「大体、なんて声を掛けられたんですか」

「初めてみたいだから案内するよーっていうのと、イイ店を紹介しよう、だったかな」

「怪しさしかないじゃないですか!」


 スリのオジサンは途中ではぐれちゃったし、人攫ひとさらいの男たちは全員片付けてきたとイイ笑顔で言ったので、団長はなんだか疲れ切った顔で肩を思いっきりガクッと落とした。


 そうだった。目の前にいるのはのんきなか弱い少女にしか見えないけれど。


 騎士団が何人束になっても敵わない勇者で、さらに魔物を食料としてきた百戦錬磨なのだ。




「心配して損しました」

「それはごめんね。あのね、明日は教えてもらった美味しいお店に行こうね」

「あと調味料とか買い足そうかと思ってるんですけど」


 魔導士ほどではないが規則正しい騎士団にいた団長は、三日しかいないならと色々買い込む予定をついでに話していった。


「ここよりも大きい街にも何度か寄る予定だから、そんなに最初から荷物を増やさなくてもいいぞ」

「では魔物以外の食料も特に買い込まなくてもいいってことですね」

「それは大量に買え!」


 次の街は約一ヵ月後なのだ。

 その時まで持ってきた非常食生活は絶対に困る。


 相変わらず魔物を断固拒否する魔導士のせいで荷物が増えているんだけどと思っているけど、いまさらなので二人は突っ込まない。

 自分の荷物は自分で持つと決めたし、何よりこの街に入る前に鎧などを仕舞ったように小さく軽くなる魔法もあるからだ。




「つーか。その魔法、誰に掛けられた?」

「え?」


 寝起きながら自分以外の魔法の気配を感じ取っていた魔導士は、勇者の喉の辺りを指して尋ねた。

 目元は険しく別な意味でも不機嫌になっている。


「宿まで送ってくれた親切な人。ここら辺に詳しいし、しばらくいるから何かあったら呼ぶといいって」

「……簡単にやってくれるな」

「?」


 舌打ちしそうなくらいに不機嫌になっている意味と何を言ったのか聴こえなくて首を傾げた勇者と団長に、自分以上に魔法に優れている者が掛けたとは言いたくない魔導士は手を振ってこの話はもう終わりとベッドから立ち上がった。


「夕食は宿で食べるんだろ。風呂に入ったらさっさと寝よう」

「かしこまりました」

「はーい」




 宿屋の主人との交渉により、夕食も値段のわりには豪華なものが出てきた。

 ふっかけられたっぽいのだが、こういうところはきちんとしてくれるらしい。


「帰る時にお礼をしなくちゃね」

「都合よくいるといいんですけど、あまり気配がしないんですよね」

「おい、お前らの食料を他のやつに食わせようとするんじゃねえ」


 二人が話している御礼の品・・・・が魔物だと気付いた魔導士が突っ込んでいく。


「ちゃんと食べやすいように加工するから大丈夫だよ」

「骨も出汁が出ますしね」

「そういう問題じゃねえよ。食べられるとわかったら暴動が起きるだろうが」


 魔物が食べられて、さらに美味しいと知っている者はまだ城の関係者でも勇者の実家に行ったことのある騎士団の中でも少数の騎士たちだけだ。

 しかしこれが全国的に広がったらどうなるか。


「あー……それは困るね」

「わかりました。普通の鳥か何かを仕留めましょう」


 「できれば普段からそうしてくれ」という魔導士の言葉は、「魔物退治をしながら魔王の城を目指しているんだから、食べながら片付けたほうが効率的でしょ」とあっけなく却下されてしまった。




 大衆食堂でさらに夜とくれば、酒が入って賑やかにならざるを得ない。


 しかしこの宿はそういう客は来ないようで、静かに夕食をいただけていることに魔導士は感動していた。


「早めに寝たいのに下の食堂が騒がしいと困るでしょ?」

「それを知っててここにしたのか?」

「お酒の樽の数とこの宿屋の位置、それに他よりも高めの値段設定でね」


 最悪、魔法を発動させれば静かにはなる。

 しかし魔力も体力と一緒で回復させないといけないので、ただでさえ野宿の間に魔法を使いっぱなしの魔導士を少しでも休ませようとここにしたと、なんでもないことのように勇者が話していく。


「燃費悪いのも困るよね」

「燃費言うな」


 それでもせっかくのふかふかの布団、じっくり堪能しようと早めに休むことにした魔導士は泥のように眠ってしまい、魔王との定期報告を忘れていた。




【……い】


「すーすー……」


【おーい?】


「むにゃむにゃ……、すーすー……」


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