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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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二十六話 魔王は勇者とご飯を食べる

「動いたらお腹すいちゃった」


 剣をまた丁寧に布に包んだ勇者はスカートのほこりを落として賑やかな街中に戻ることにした。


「あれ?」


 しかし勇者はキョロキョロしながらついてきただけだったので、どこからどう行けば戻れるのかわからなくて途方に暮れてしまった。


「わたし、もしかしなくても迷子?」


 こんなことなら全員の意識を奪わなければよかったと思ったけど、足元に転がっている男共は起きる気配がまったくない。


「どうしよう……」




「ん?」


 二本目の焼き鳥に手を伸ばそうとした魔王は路地から出る手前で迷子っぽい少女を見つけた。


「おい、迷子か?」

「え?」


 ぐーきゅるるる……


「「……」」


「……食うか?」

「ありがとー!」


 じいいっと持っていた焼き鳥の袋から視線を逸らさずに腹を鳴らした勇者に、魔王は初めて自分のものを分け与えた。




「あー……ベッドサイコー」

「……意外と重かった」

「ったり前だ。魔導士ったって体力いるからな」


 常にゴテゴテと飾り付けて着込んでいるからわかりにくいが、魔導士は身体が資本なので力はあるし腹も割れているようだった。


 だから細身のわりに重かった魔導士を団長は途中で置いて帰りたくなったと思ったことは内緒だ。

 宿に戻る合間にも会わなかった勇者を探しに行ってもらわないといけないし。


「貧弱なイメージでしたよ」

「貧弱言うな。高度な魔法を使う場合は長ったらしい詠唱を言い続けないといけないんだぞ?腹くらい割れるわ」

「なるほど」


 それでもベッドの上で大の字になって「食い過ぎたー」と言っている魔導士は好みじゃない上に頼りねぇなあとしか思えないんだけれども。




「お前、そりゃスリと人攫ひとさらいじゃねーか。よくついてったな」


 裏路地から出て魔王オススメの店で食事を堪能している勇者は、まさか自分がカモだと思われたことに心底驚いていた。


「わたし、何か持っていそうに見えたのかな?」

「まず観光で来たっつーのは丸わかりだ。それに女一人だしな。あんまりキョロキョロし過ぎるな、足元を見られ……ることはないだろうが」


 すでに屋台で値切り交渉をして勝ち取った勇者を見ている魔王は、「そっちでは騙されないか」と言い直した。

 ついでにそのまま勇者の胸元を箸で指して、人攫ひとさらいの目的を言おうとしたら睨まれてしまった。


「箸を人に向けたらダメなんだよ」

「そりゃすまん」


 そもそも誰かと食事をすることも初めてだった魔王は勇者に窘められて慌てて箸を引っ込めた。


 つい先日、魔導士に勇者が同じことを突っ込まれたことを知らない魔王に言ってやったと得意そうな顔をする勇者に突っ込む人はいない。


 改めて人攫ひとさらいの目的を話そうかとも思ったが、ウロついていた勇者の足元に転がった男どもを見てこっちも問題なかったことを思い出した魔王は屋台の料理を食べることにした。


「美味しいねぇ」

「……そうだな」


 誰かと食べる食事は美味いんだなと、初めて魔王は気が付いた。




「夕食は宿で出るからいいとして、旅の間の食料を買いだめしといたほうがいいかな」


 眠り始めた魔導士をそのまま宿に残した団長は、調味料や腐りにくい食材をあちこちの店をのぞいて値段を比較していた。


「質がいいのはやっぱ高いな」


 こういうところでは勇者がいると値切れそうだと思いながらメモっていき、あとで一緒に来ようと店の名前も書いていく。


 それでも「きちんとした仕事には、ちゃんと対価を払わなくちゃいけないんだよ」と言っていた言葉も思い出し、世間知らずなのかなんなのかわからない不思議な勇者に首を傾げる団長だった。


「あの両親に育てられればあんな感じになるか」


 妙に素直で信じやすいところは危なっかしいが、勇者は『なんでも斬れる伝説の剣』を持っていなくとも強いのだ。

 危ない人に声を掛けられても、きっと手を出す前に倒されているだろうと確信している団長はそのまま宿に戻ることにした。




 お互いの正体を知らないまま仲良くなった魔王と勇者は、暗くなってきた空を見て宿に帰らなきゃという勇者を送っていくことにした。


「鳥の宿屋の五軒先だったのは覚えているんだけど……」

「それならこっちだ」


 しょっちゅう来ている魔王は場所を把握していたので、そのまま迷子の勇者を無事に宿まで送り届けた。


「ありがとー。わたし、ここには来たばかりだから何もわからなくて」

「オレはまだしばらくいるから、何かあったら声を掛ければいい」

「どうやって?」


 魔法が使えない勇者の喉に魔王が魔法を掛けていった。


「オレの名前を呼べば魔法が発動して声が届くようになる」

「便利だねぇ、わかった。でも、名前はなんていうの?」

「あー……リーデ、いやリディだ」


 誰が聞いているかわからないし、何より知っている者がいたらマズイととっさに縮めた名前を言ってしまった。


「リディ?」

「ああ」


 くりっとした金の瞳を持った勇者が小さく確かめるように魔王の名前を呼ぶ。

 その瞬間に魔法が発動し、次から呼ばれれば会話ができると教えた勇者は微笑んだ。




「ありがとう、リディ。またね!」

「あ、おい。お前の名前はなんだよ!」


 少女の名前を聞いていないと手を伸ばした魔王に勇者は振り返って自分の名前を告げた。


「アリアだよ!」

「アリア!?」


 それは何年も前に勇者と間違って声を掛けた少女の名前と同じだった。


「いや、あっちは兄が勇者で妹のアリアは家に残るって言ってたな」


 それに「アリアなんて名前、この国に何人いると思ってんですか!?」と魔導士に言われたことも思い出した魔王はそのままその他大勢のアリアの一人だと勝手に納得してしまった。


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