二十四話 魔王は退屈していた
勇者たちが計画にあったルートから外れて、大きな街に向かっている頃。
魔王は魔導士への定期報告もまだだし各地の魔物から届けられる被害状況も変わりナシで退屈していた。
ガサガサと魔導士に言われて書いた『スムーズな魔王の封印の仕方』の紙を見ながら指を折って、まだ出発してから三日しか経っていないことに愕然とする。
【マジかよ……】
すでに待つことに飽きた魔王は、副将的な魔物に城を頼んでちょっと出掛けることにした。
【ちょっと出てくる】
「魔王様、お供もつけずにどちらへ?」
【もうすぐ勇者が寄るって街の近くで偵察だ】
「かしこまりました」
魔王がそう言って度々、人間の住む街に下りていることは知っている。
ただ退屈だからなんだけど、きっと何か意味があってしていることなんだろうと信じて疑わない魔物は恭しく見送るだけだ。
魔王が人間っぽい格好をして街に向かうところを見送った副将は、街の近くにいる魔物に伝令をした。
「魔王様の出かけている間、邪魔をしないように」
こうして街にまだいた魔物はすぐさま撤収していった。
勇者が近くの村を助けたのはそんな時。
「……」
青の上下のツナギっぽい服に身を包んだ魔導士は、イライラと組んだ腕の上で指を叩いて仏頂面を向けていた。
「ダメダメ。それじゃあ向こうの鳥の宿屋のほうがまだ融通が利いたね」
「何おう!?そもそもお嬢ちゃんは旅の者だろうが。大人しくこの金額にしておきな」
「じゃあ、この話はナシね」
「ちょーーっと待った!」
先ほどから金額と部屋の質、さらには食事についても交渉していた勇者は訳知り顔で主人とやり合っていた。
その様子は騎士団に向かって値段を吊り上げ、搾り取れるだけぶん取った母親そのものだったが、部屋の質と食事についてはぜひとも頑張ってほしい魔導士はそっと顔を逸らすことにした。
それでも待ちくたびれて足まで慣らし始めた魔導士を団長が窘める。
勇者は女性になったことで、さらにほわほわしたのんきな雰囲気が強調されていた。
けれどその後ろにはガタイがよく目つきの鋭い団長と、不機嫌丸出しだがツナギの服だけでもイイトコの坊ちゃんだという雰囲気の魔導士によって、只者ではないと判断した主人は背を向けた勇者を思わず捕まえてしまった。
「……ぃよし、お嬢ちゃん。いいだろう」
「じゃあこの条件で三日くらいお願いね!」
「ああ、仕方が……いや待て、さっきより値段変わってんだけど!?」
しかし勇者はサッと素早く身を翻して、宿屋の主人の拇印を押した契約書を魔導士に渡していく。
「部屋の鍵ちょーだい」と満面の笑みを向けて小首を傾げる勇者に宿屋の主人は苦い顔を向けるだけしかできなかった。
「ギリギリのところを攻めやがって……」
「まいどー」
「こっちの台詞取んなっ!」
勇者たちがそんなやり取りをしている時、魔王はのんきに屋台を楽しんでいた。
「うめぇな、これ!」
こうしてたまに街に降り立って、人間の作る食事を食べていた魔王は満足そうに頷いていく。
だから国を支配していると言っても、そこまで追い詰めたりはしていなかったのだ。
だってこの美味い飯たちが食えなくなるほうが損失だ。
交渉により破格で上等な部屋を二つも確保した勇者たちは、それぞれの部屋に入って荷物をほどいていった。
「あー……ベッドサイコー」
「レイン……じゃなくてジェイン!靴は脱ぐ!ほこりを落とす!自分の荷物は自分で管理!」
「うるせぇな、休ませろよ」
すっかりやさぐれた魔導士はベッドの上で大の字になって、久しぶりのふかふかな布団を堪能していた。
「じゃあジェインはそのまま留守番していてください。自分とゆ……アリアは屋台冷やかしてくるんで」
「今すぐ行こう」
「……片付けてからです!」
仁王立ちで睨み付ける団長の気迫に負けた魔導士は、渋々鞄の中身を開けて整理し始めた。
「遅かったけど、体調でも崩した?」
「ジェインが片付けないでベッドにダイブしたからです」
「あー……お坊ちゃまには野宿って経験したことなさそうだもんね」
「お坊ちゃま言うな」
自覚はあるし、慣れていないせいで街に寄ることになったのだが魔導士は脇に置いておくことにした。
そんな魔導士をとっとと無視して、ようやく勇者たちは楽しそうな人混みの中に入ることにした。




