二十三話 勇者たちは街に降り立つ
「あの……勇者様?」
「なにー?」
街の手前で着替えた一行の中でも、今まで知らなかった団長は勇者の格好を見て固まった。
一つにまとめていた長い髪は下ろし、肩当てなどの目に見える鎧はサイズが合わないので外している。
金の瞳はそのままだが、この国で勇者と魔王しか持っていないことを知っている者は限られているのでそのままだ。
「あの、勇者様。それは自前ですか?」
ヒラヒラと広がる裾をつまんだ勇者に顔を引きつらせた団長は恐る恐る尋ねていった。
「そうだよー。あ、名前も”アリア”にしてね」
「女だったんですか!?」
団長が指している先にはサラシから解き放たれた二つの山があった。
「あれ、言わなかったか?」
「聞いていませんっ」
「ほらー旅に出てからにしようって言ったじゃん」
「そうだったな。じゃあ、そういうことで」
女だってわかったからこの話はもう終わりとばかりに魔導士が手を振って、早速、賑やかな街に入ろうと足を向けたら首根っこを捕まれた。
「どういうことか説明してください!」
「それは宿を取ってからだ。ここでは誰が聞いているかわからないからな」
もっともなことを言われた団長はすぐに手を離したが、それでも思い直してもう一度、魔導士をとっつかまえた。
「いやいやいや、レイン様。その格好は別な意味でヤバイですよ!?」
お互いの手荷物を確認したはずの勇者も頷いて、魔導士は無理矢理服を着替えさせられた。
「どこがヤバイ格好だったんだよ」
自分のセンスに絶対の自信がある魔導士は、もっと地味にされた服をつまみながらブチブチと文句を言っていく。
「当たり前じゃん。全部の服を確認したからいいかと思ったのに、最悪な組み合わせすぎるよ」
茶色の髪に合わせた勇者の服は、生成りのワンピースと鎧代わりのコルセット。
靴は焦げ茶の編み上げブーツで装飾は最低限。
それでも腰には二本の剣が差さっているが、違和感がないように剣ごと布で包んでいる。
さらに籠バッグを持っているので、どこかの店の娘のような格好だ。
「どういうセンスをしたら青と赤と黄色の上下を選ぶんですか。目立たないようにと言ったでしょうがッ」
騎士団の紋章が入っている鎧を外した団長は、それでも体格と腰に差している剣の形のもので冒険家と間違われるだろうが見事に人ごみにまぎれている地味さだ。
「全身青のほうが変じゃないのかよ」
やっぱりお気に召さない魔導士は不機嫌そうにまだ文句を言い続ける。
「微妙に色味が違うでしょ。そっちのほうが王女様も惚れ直すカッコよさだよ」
「それなら……まあ」
王女様のことを出したら素直に黙った魔導士を放っておくことにした二人は、サクサクとこれからの行動を話していくことにした。
「とりあえず宿を探して荷物と馬を預けましょう。街を見るのはその後です」
「それがいいね。あとさあ、二人の名前はどうするの?」
「普段から団長としか呼ばれていませんから、自分は本名のザイルで大丈夫だと思います」
「わかったー。じゃあわたしはアリアね」
「……」
早く街を見たい魔導士はつまらなさそうな顔で二人のやり取りを見ていたが、ここでも一番問題なのは自分だということに気付いていない。
くるっと二人が顔を向けてきても、「出発か?」としか思わなかった。
「まだ行けないよ。で……レインはどうするの?」
「何が」
「聞いていなかったんですか、名前ですよ」
「レインでいいだろうが」
「あのねえ。散々自分で『大魔導士 レイン』て名乗っておいて、呼べるわけないじゃん」
呆れた溜息を吐かれてやっと気が付いた魔導士だったが、それでもとっさに名前など出てこない。
「”おい”とか”ねえ”とか呼ぶだけにして、名前なんて別に決めなくてもいいだろう」
「このでっかい街でそう呼ばれて、レイン様は自分のことだと気付くのですか?」
「無理だな」
もう一度、先ほどよりも深い溜息を吐かれた魔導士は、とっとと街に行きたいので仕方なく考えることにした。
「じゃあ、”レイク”」
「似てるから却下」
「”リイン”」
「もっとちゃんと考えてください!」
「それ女性の名前でしょう!」と団長に突っ込まれた魔導士は、もう少し真面目に考えることにした。
「あー……じゃあ、”ジェイン”」
「んー近い気もするけど……」
「一番マシな気がします」
「じゃあコレで決定」とやっと立ち上がった勇者一行は、馬を引いて街に繰り出すことにした。




