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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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二十一話 魔導士は弱っている

 魔王を封印する旅に出てから早三日。


 馬を走らせ魔導士が立てた計画通りに進んでいき、途中では行く手を阻むかのように魔物が姿を現した。




「貴様が勇者か!」

「あ、内臓(モツ)!」

「なんて!?」


「「……」」


「あー……コホン。貴様が勇者か!魔王様には会わせんぞ!」

「何おう、煮込んでくれる!……じゃなくて。わたしが勇者 アレクだ!お前たちを倒して先へ進ませてもらおう!」


 若干、妙なやり取りもあるけれど。


 魔物を瞬殺していく勇者たちに人々は希望を見出だした。




「あ……ありがとうございます、勇者様」

「いーのいーの」

「これ、少ないのですが旅の足しにしてください」

「わぁ……立派な野菜だねぇ。ありがとー!」


 「お礼にもつ鍋をご馳走するよ」と勇者が口走る前に魔導士がひっ捕まえて、二度と魔物を寄せ付けない魔法を掛けたら馬に飛び乗った。


 謙虚で可愛らしく微笑む勇者に人々は好感度を高め、代わりに残虐性を増した魔王たちを目の敵にしていった。




「さあて今日はもつ鍋ですよー」

「……」

「イエーイ!」


 旅の荷物の一つとして持ってきた鍋に、先ほど仕留めたばかりの魔物ともらった野菜を入れてグツグツ煮込んだものを、満面の笑顔で出していく勇者と喜ぶ団長。


「なあ……他の物はないのか」

「何言ってんの。内臓(モツ)と野菜が煮込まれた鍋だよ?栄養満点だよ?」


 これが当たり前だった勇者は怪訝な顔を向けるだけで、黙々と鍋をつついていく。


「そうですよ、レイン様。食べなきゃ魔力も体力も回復しないんですから。それに勇者様がせっかく作ってくれた料理に文句を言うとは何事ですか」


 すでに魔物は美味しいという図式ができてしまっている団長は、出汁がたっぷり染み込んでいる野菜をスープと一緒にすすっていった。


 あれか?私がおかしいのか?いや、そんなことはない。断じて。




 しかし出発してから三日、ほとんど野宿なことにも坊ちゃん育ちの魔導士には(こた)えていた。


 いい加減、風呂に入りたい。魔法で頭から水を被る生活はもう嫌だ……。


「そうだねえ。ふかふかのお布団で、たまにはゆっくりと眠りたいかも」

「そうは言いますけど。お金をたくさん持ってきていても、行きよりも帰りのほうが重要ではないですか。こざっぱりし過ぎて帰るのはあれですが、それなりに身だしなみを整えて帰還しないといけないんですし」


 「そもそも、まだ三日目なんですけど」というとても当たり前なことを突っ込まれたら魔導士は黙るしかない。


 結局、魔導士だけは今日も持ってきた非常食をかじって夕食を済ませる。


 魔法で出した大量の水を三人で頭から被ったら、「今日のノルマは達成!」ということで早々に眠りにつくことにした。


「おやすみー」

「おやすみなさい」

「……うん」


 計画を立てていた時にはまったく気が付かなかった、大問題に直面してしまった魔導士の精神はすでに弱りきっていた。




「……眠れない」


 大きい木の下を囲うように魔法を掛けて安全を確保したけれど。


 地面は当たり前だが柔らかくないし、掛け布団代わりなのはローブだしと不満は次から次へと出てくる。


「すかー……」

「ぐぉー……」

「……」


 寝付きも寝起きもいい二人の寝顔を見て、前から十代に見えないと言われていた魔導士の顔はさらに老け込んだように思える。

 思わず肌を触って、若さが足りない気がすると落ち込んでいった。


 ……おかしい。婚約者もいる私は幸せの絶頂のはずなのに。




 まだ本格的な夏ではないが、これから日中はさらに暑くなって移動距離を稼げなくなるだろう。

 今のうちに走り続け、適度に魔物を倒して町や村を救うという計画がいまさら間違っているとは思わないが……。


「食料を用意したら、魔王のいる城まで飛ぼうかなあ……」


 魔物が邪魔をしなくても、直線距離で片道三ヶ月はかかる道のりの先に魔王が待っている。


 思い描いた場所にひとっ飛びできる魔法は確かに便利だが、今回はさらに二人と馬を連れて行かなければいけないこともあって、できれば使いたくない。


 着いて早々にご飯を腹いっぱい食べれたとしても、魔力の回復までにどのくらい寝込むかわからないということも魔導士が躊躇(ためら)っている原因だったりする。




 いくら勇者が強くても、いくら魔王が封印されたがっていても。


 国一番の大魔導士である自分がラスボスの前で倒れて足を引っ張るなんて、末代までの恥になりそうなことは絶対にしたくない。


 今までも勇者を探すために国中のあちこちに魔王が放った魔物を退治しようと、連絡が来た土地へ飛んだことはあるけれど。

 途中途中で休憩しつつ向かったので、せいぜい五日を一日に短縮するくらいで、片道三ヶ月の道のりを一気に飛んだ経験はない。


 勇者の家へ行く時は体裁も大事だろうと馬車と一緒に飛んだが、アレは半端なく腹が減り過ぎて替え玉したくらいだったしなあと思い出したが、ゴブリンを食べたことは闇に放っておくことにする。


「はー……無理か」


 物理的にも魔力的にも現実ではないと諦めた魔導士は、地図を広げて寝床と真っ当な食事の確保をするべく計画を立て直すことにした。




 魔物が活躍する夜中ではあるが、この辺りの魔物は先ほど全部倒したので魔導士の思考を邪魔するものは誰もいない。


 強いて言うのなら勇者の「おかーさん、おかわりー」という寝言と、団長の激しくなってきたイビキくらいだが、それらもすでに魔法によって音をカットしているので問題はない。


「うーん……。最短距離にばかりこだわりすぎて、人気のあまりない村を通るルートにしすぎたな。あんまり人のいない村を中心に進んでいっても、勇者が助けたっていう噂は広まりにくいよなあ」


 被害を少なくしようという意味でもこのルートに決めたのだが、国中に勇者のことが広まってくれなければ困るのだ。


 そもそも小さい村にしか勇者が立ち寄らないという別な噂が立つこともマズイ。

 そうなるとせっかく勇者が現れても不自然に見えてくるだろう。それは困る。




「よし、こことここ辺りで大きい街に寄るか。普通の食料も確保したいし屋台とかも見たい」


 普段は城から出ない魔導士は、せっかくだからと観光も楽しもうと別な方向に計画を立て直していくことにした。


「やっぱ実際に出てみないとわからないなー」


 いつもなら計画の修正は嫌がる魔導士だが、食べものと寝床が合わないほうが嫌だと気が付いてサッサと切り替えたら早かった。


 ちょっと帰りが遅くなるだろうが、その時は飛んで帰ればいい話だ。

 着いた先は城なのだから、寝込んでも問題がないところもいい。


「ちょうど二日後に魔王と定期報告を設定しといたな。この時に休憩してるって言えばいいか。それにこのくらいの大きめの街で魔物が暴れて、それを勇者が助けたらいい宣伝になるぞー」


 魔導士が寄ると決めた街でもすでに魔物は暴れているはずだが、勇者が助けに行く場所は決まっている。

 ここは勇者たちが通り過ぎたら魔物は撤収する手はずになっているところだったが、残っていた魔物を追い払うだけでも効果は抜群だろう。


 人としてどうかと思う発言もしたが誰も突っ込む人はいないので、そのまま魔導士は旅の計画を修正していった。




 旅の計画を立て直した魔導士は知らない。


 次に行こうと考えた街で、人間に変装した魔王と勇者が会ってしまうなんて。


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