十七話 魔導士は王女様に詰め寄られる
「さあ、説明してちょうだい」
「はあ……」
今日の昼食は勇者と一緒ではないからと、久しぶりに本を読みながらダラダラと食事をしていた魔導士だった。
そんな彼の元へ王女様の侍女が迎えに来て、無理矢理首根っこをひっ捕まえたら王女様の前に連れていかれたというわけだ。
そこにはのんびりとお茶とお菓子を食べている勇者と、腕を組んで仏頂面の王女様が待ち構えていた。
そして冒頭の言葉を向けられたというわけだが、説明をされないまま引きずられてきたので何を話せばいいのかわからない魔導士は、怪訝な顔を向けるだけだった。
「私は何を説明すればいいのでしょうか?」
「まあ!知らばっくれるというわけね!?」
「うーん……」
プリプリと怒り続ける王女様にこれ以上訊くのを諦めた魔導士は、「美味しいねぇ」とケーキをほおばっている勇者に顔を向けた。
「何があったんだ?」
「はほへへ」
「……食べ終わってからでいい」
なんだか深刻な空気だったので、ケーキをほおばったまま口を開いたら「きちんと飲み込んでから話しなさい」と窘められてしまった。
いつものように素直に頷いた勇者はモグモグとケーキを食べて紅茶を飲んで、魔導士に向き直ったらさっきの話を伝えていく。
「ほへほほふはへ……ごくん。……あのねえ、わたしを旅に出すって決まった時におかーさんと契約の話をしてたでしょ?」
「ああ」
最初に考えていた金額よりも倍以上に釣り上げられたが、何年掛かるかわからない魔王を封印する旅に出るのだ。
やはり妥当だと思っている魔導士は首を傾げてさらに尋ねる。
「安すぎるというクレームか?しかしすでに了承してくれたし、何より判も押しただろう?」
さらに言うなら上層部にも説明済みで、きちんと支払いも始まっている。
特に不自由を言うようなことを向こうにいる騎士たちからも聞いてないから、何かあったのかと尋ねたらそっちじゃないと言われてしまった。
「違う違う。その契約内容を王女様は知らなかったんだって」
「それはそうだろう。関係ないからな」
「なんですって!?」
これは勇者の貸し出し契約なのだから、お金を出す立場でも許可を得なければいけない相手でもないからそう言っただけなのに。
さらに目を釣り上げて詰め寄ってくるとはどういうことだろうか……。
王女様はサラサラのまっすぐな紅い髪に、弧を描くような見事な睫毛の下にはパッチリなオレンジ色の瞳。
もちろん国一番の美貌を持ち、求婚者は後を断たない。
そんな王女様が眉間を寄せ、ものすごーく不機嫌な顔を勇者と魔導士に見せているのだ。
レア中のレアな表情だが、美人すぎてとても迫力がある。
本気で怒った母親とは別な意味で直感的に怖いと感じた勇者は、思わず腰に差している剣に手を伸ばした。
そんな王女様に睨まれている魔導士はブロンドの髪に少し黒みがかった深緑の瞳で静かに見返している。
……ついでに間に挟まれた形になった勇者は平凡だ。
茶色の髪は長いままだが、父親と同じのんきな雰囲気。
唯一違うと言えるのは、この国で他に魔王しか持っていないとされる金の瞳だけ。
「貴女のお父上である国王様とも話がついている契約にいまさら異議を唱えるとは、私の考えた契約に何か不備でもあった……ということでしょうか?」
城にいる者なら誰でも知っている。魔導士に関わったことのある他の者でも知っている。
この魔導士は自分が立てた計画を崩されることと、決めたことを後からグダグダと文句を言われることを最も嫌うということを。
ひたった静かに尋ねる声に見つめる深緑の瞳に、いつもの優しさは欠片もない。
代わりにあるのは「邪魔をするな」という気迫だけ。
滅多に否定されたことのない王女様には十分な効果があったようで、いつもと違う様子の魔導士に息を飲んで一歩下がった。
「……いいえ。ただ公式に発表されていないとはいえ、わたくしは貴方の婚約者でしょう?国に関することでもあるのですから、話してくださってもよいのではないかと思っただけですわ」
お互いに割り切った婚約だと思っていた魔導士は、王女様からの意外な言葉に訳がわからなくて怪訝な顔を向けるだけだった。
そんな二人を見比べていた勇者は剣から手を離し、とっても単純なことを言い放つ。
「ねえ、もしかして王女様はわたしに嫉妬しているの?」
「は?」
「レインって鈍くさいだけじゃなくて、鈍いんだね」
「え?」
「はーやれやれ」と呆れた勇者が首を振って、王女様の侍女もうんうんと頷いていった。
「あのね、わたし出発の準備をするから後は二人で話し合ってね」
「じゃあねー」と部屋から出ていった勇者についていくように侍女も部屋から下がっていった。
わたしが痴話喧嘩に巻き込まれるなんて、都会って不思議なところだなあ。




