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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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十六話 勇者は王女様と食事をする

「団長、出発が近くなったから打ち合わせをしたいんだが」

「えっ!?」

「ん?」


 いつものように声を掛けただけなのに、団長が驚愕した顔でピャッと飛びそうな勢いで振り返った。


「ああ。騎士団の仕事もあったな。では夕食の時にでも勇者と一緒にこれからの話をすることにしよう」

「え!?」

「??」


 旅に出るのは勇者と魔導士、それに騎士団の団長だということはすでに誰でも知っている決定事項だ。


 あの勇者と旅に出られるなんてと喜んでいたミーハーな団長だったのに、今は視線をかなりさ迷わせて挙動不審とはどういうことだろうか。


「今日では都合が悪いのか?しかし二日後に出ようと思っているのだが」

「あ、そ、そうですね……かしこまりました」

「ああ、よろしく」


 シャラシャラと相変わらず豪奢な装飾をつけている魔導士だが、ローブは出掛ける時にしか被らない。

 なのでニコリと微笑んだ顔を見せただけなのに、明らかに団長の顔が引きつった。




「なあ、私の顔に何かついてるか?」


 夕食を一緒に摂ることは了承してくれたが、逃げるように走り去った不自然な団長が気になった魔導士は勇者に尋ねた。


 中庭で素振りをしていたところを遮られた勇者は、それでも剣を置いて律儀に魔導士の頭の上から足の先までじっくりと見て答えていく。


「今日も暑くるしいなあ、重くないのかなあとは思うけど。最初の頃より増えた飾り以外に変なところはないと思うよ」

「変て言うな」


 国一番の大魔導士と呼ばれていてもまだ十代のレインなので、他とは違うということを知らしめるために飾り付けているのだと勇者に説明をしていく。


「指輪もそうだが、この装飾にも意味があってしていることだ」

「ふぅん」


 自分の装備にも何かしらの魔法を掛けてくれた魔導士だから、意味のないことではないとは思っていた勇者はアッサリと頷いた。


「細かいことの手際はいいと思ってるけど、普段は鈍くさいもんね」

「鈍くさいと言うな」


 「失礼だぞ」と(たしな)められるが、鈍くさいことは事実なんだから仕方がない。

 だからこそ防御を中心とした魔法が掛かった物をたくさん身に着けているのだけれど、そんなことは脇にでも置いておく。


「そうだ。団長にも言っておいたから、今日の夕食で最終的な打ち合わせをするぞ」

「はーい」


 最初からキッチリ計画を立て、魔王にまで封印への道のりを説明した魔導士の言葉を反対する者は誰もいない。

 しかし素直すぎる勇者と他の者よりも甲斐甲斐しく接する魔導士を見つめる周りの視線には怪しい光を秘めていた。




「ねえ貴方」

「はい?」


 魔導士が自分の仕事をしに離れてから、素振りを再開した勇者に王女様が声を掛けてきた。


 城に入る時にしたように、すぐに剣をしまって脇に置き、片膝をついて頭を下げた勇者に王女様は手を振っていく。


「それじゃあ話しにくいわ。……そうね、もうすぐお昼だからわたくしと一緒にいただいてくださる?」

「かしこまりました」


 今まで話し掛けられたことがないので怪訝に思いつつも、もうすぐ出発するからかなとアッサリ頷いた勇者はもう少しいい服に着替えたら、迎えに来た王女様の侍女に連れられて部屋へと案内をされていく。




 扉から入ったから室内のはずなのに、開け放たれた正面の窓には地続きで庭園が広がっていた。


「わぁ……綺麗なお庭ですね」

「今の季節は花が一番見事なのよ。そちらに用意させたからいただきましょう」

「かしこまりました」


 勇者の証である二本の剣はそのまま腰に収まっている。

 チラリと見咎(みとが)めるような視線を向けられたが、勇者にしか扱えないこの剣は、他の者は触れることすらできないという話だ。


 そもそものほほんとしてはいるが、実家は常に魔物がウロついていたこともあって勇者に隙はない。

 団長ですらアッサリと倒したことも知られているので、この場で剣を取り上げるようなことをする人は誰もいなかった。




 王女様との昼食にも魔物は並べられない。

 これはこれで美味しいけど、実家の味が恋しくなってきたなあと思いながらも食べていく勇者に王女様が微笑みを向けてきた。


「……それで、貴方」

「はい、なんでしょうか」


 そもそも何か訊きたいことがあったから声を掛けてきたのだったと思い出し、カトラリーを置いて王女様に向き直る。


「レイン様とはどのような関係なのかしら?」

「は?」


 近所にいるのはお年寄りばかりで、初めて会ったと言える年の近い人間が魔導士でもある勇者にとって、王女様の言葉に含まれている意味を読み取ることはできなかった。


 けれどそこは勇者なので、のほほんとそのままを告げた。


「勇者と魔導士です」

「それは知っているわ」


 「あ、コイツ意味わかってねーわ」と気付いた王女様は、もっと具体的な質問内容にとっとと切り替えることにした。


「貴方とレイン様について、将来をお約束した関係だという噂を聞いたのよ」

「将来を約束した関係……?」


 これでも直接的に言ったと思っている王女様は、それでも本当の意味を理解していない勇者の次の言葉に固まった。


「ああ、わたしが旅に出ている間と帰ってきてからの保証を両親とした契約のことですね。はい、約束して契約に判を押してあります」

「なんですって!?」

「?」


 保証とは勇者がいない間に実家で魔物狩りをしてくれる騎士を派遣することと、勇者を借りるためのお金を出すことだ。

 公にしてはいないみたいだけど、婚約者なのだから当然知っていると思っていた勇者は王女様の取り乱しように逆に首を傾げた。


「知らないんですか?」

「知りませんよ、そんなこと!最大級の裏切りですわっ」

「裏切り??」


 勇者に対する補償金を払っているのは国で、旅と同じく魔導士は計画を立てただけのはずなのに。

 王女様の言い方だと、まるでレイン個人が雇っているような話になっている。


 「おかしいなあ」とさらに怪訝な顔をする勇者を放って、王女様は控えていた侍女に命令を下していった。


「今すぐここにレイン様を呼んでちょうだい!」


 国王様(おとうさん)にも聞いてないのかな?としか思ってない勇者は、残りの昼食もおいしくいただいていく。


 「いつも食べていた魔物みたいな歯応えはあんまりないけど、これはこれで美味しいな」と思いながら。


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