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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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十四話 騎士たちは勇者の両親に弟子入りした

「久しぶりの極上ステーキ!」


「「乾ー杯(かんぱーい)!!」」


「……」


 まだ未成年の勇者は水で、成人している団長はビールで乾杯をした。


 目の前でジュウジュウと焼き上がっているのは中ボス……もとい極上ステーキだ。




「うわぁぁぁ……肉汁が滴ってるぅぅぅ」


 分厚く切った肉をつまんで、炭の上にじゅわっと落ちた脂が辺りにいい香りを漂わせている。

 しかし匂いが漏れたら色々とヤバイと学習をした勇者は、魔導士によって魔法で囲ってもらった中でバーベキューをしていた。


「戦いのあとの肉とビールは最高ですね!」


 「ッカー!」とか言いながら豪快に酒と魔物だったものをガツガツと食べている団長。


「……食うのか」


 勇者とは別な意味で「うわぁぁぁ……」と顔を歪めながら呟いた魔導士の言葉は二人の耳に入っていない。




「でもこれで旅の間の食料事情は約束されたようなものだよね」


 丁寧にナイフとフォークで切り分けて、ミディアムレアのステーキをほおばって満面の笑みを浮かべながら勇者が言う。


「ええ。今まで無益にただ倒していたことが惜しいと思うくらいの味です……うっま!」


 しみじみと団長が呟いていく。

 「もったいなかった……」とかも聞こえた気がしたけど魔導士は無視をすることにした。


 いくら美味しくてもいい香りでも、魔物は魔物だ。

 食べ物じゃない。


 ……ということをこの二人に言ってももう無理なんだろうなあと魔導士は遠い目をしながら諦めた。




「あらまあ。なんかいっぱい食料が届いたよ、父ちゃん」


 馬車から大量に積まれた荷物が運び込まれた勇者の実家で、母親が瞳を真ん丸くして呆然としていた。


「手紙も入ってるよ、母ちゃん」


 『お城に大量の食料が来たから斬り刻んでおいたよ!食べてねー』


「ああ、なるほど。じゃあこっちの骨ごと斬られているのは出汁として使えばいいってことか」


 ゴロッと(かたまり)が入ってる袋をつかんだ母親は大鍋に水と一緒に入れて煮込み始めた。


「こっちは燻製(くんせい)にしようかな」


 薄くスライスされた肉を網の上に並べた父親は煙で(いぶ)し始めた。


 そんな二人を呆然と見つめる騎士たちは、『城に大量の魔物が現れたけど勇者たち三人が全滅させました』という内容の手紙を二度見、いや三度見した。




「……そもそも食料が来たってなんだよ」

「普通に調理してるな」

「いい香りだな……」


 ぐーきゅるるる……


 報告とは別に団長からの手紙に書いてあった「魔物をただ倒すだけじゃもったいないぞ!」という言葉の意味を理解した。


「魔物の斬り方をやけに細かく指示するなあと思ってたんだよね」

「そっかあ、魔物って美味しいんだ」

「へえぇぇ……」


 ぐーっと鳴るお腹とふんわりと漂ってくる食欲をそそる香り。


「……食べる?」


「……食べてみる?」


「……」


 こうして勇者の実家に来て一ヶ月目、ようやく騎士たちは魔物を食べてみることにした。




「どうやって食べるのが美味いんだ?」

「それなー」


 なんせ城からあまり出たことがない坊ちゃん騎士たちは調理方法も最低限しか知らなかった。


「父ちゃん。畑から野菜採ってきて」

「はいよ。今日は鍋だなー」


「……」


 手慣れた様子で届いた様々な魔物を調理していく勇者の両親たちは、絶対にどうやって食べれば一番美味しいかを知っているはずだと確信した。




「あのー……すみません」

「なんだい、鍋ならやらないよ」

「いえ、いりません。そちらはいりませんが、調理方法を教えてくれませんか?」


 先ほど倒した魔物を二匹ほど母親の前に掲げた騎士たちを値踏みするようにジロッと睨んだ母親は、いつでもやっぱり母親だった。


「ん」

「“ん“?」


 無言で手のひらを差し出す勇者の母親が何を要求しているのかわからない騎士たちは首を傾げた。


 察しの悪い騎士を睨み付け、差し出した手のひらの親指と人差し指をわかるように丸くした。


「いくらで?」

「は?」

「まさかタダで美味しくいただけるとでも思ってんのかい?」

「っ……すみません!」




 おかしい。


 だって我々は国王様のいる城を守っている騎士の中でも選ばれた騎士なのだ。


 そんな自分たちに向ける視線は尊敬や羨望、少しの嫉妬くらいなものだったはずだ。


「ほら、いくら出すんだい?」

「ええと……」


 なのにこの母親は、「タダで教えてもらおうなんざ図々しい」と見下した視線を向けるだけだった。


「あ、あの……いくらくらいが相場なんでしょうか?」


 魔導士もだが基本的に坊ちゃんしかいない中央の、さらに温室育ちとも言える騎士たちは訊いてはいけない人に尋ねてしまった。




 「こいつらもイイカモだな」とほくそ笑んだ母親は、それでも根こそぎではなくギリギリのところを見極めて金額を言った。


 払えない額ではない。しかしちょーっとだけ高い。


「わかりました。よろしくお願いします!」


 しかしそんなことを知らない騎士たちは支払った。


 だってさっきからいい香りがしまくっているんだもん。早く食べたくて仕方がない。


 気前よく支払ってくれたばかりか「今後ともご指導よろしくお願いします!」と頭を下げられては、さすがにちょっとだけ後ろめたい。


 まあもらえるもんはもらうけども。


「アレクが送ってきたのは二人では食べきれない量だからね。一食くらいはおごってやるよ」

「いいんですか?」

「ありがとうございます!」




 「まずその食料を処理してきな」と父親のいる小屋へ行くように言われた騎士たちは、野菜を採っていた父親から下ごしらえを教えてもらうことになった。


「チイッ……手際が悪いな」

「すみません!」

「そこは骨ごと斬って三日間煮込むとトロットロになるんだよ」

「骨ごと斬れません!でも食べたいです!」


 意外とスパルタな父親によって、剣しか持ったことがなかった騎士たちはクワやノコギリの使い方から教わるようになった。


「そうだ、押すんじゃなくて引くんだ!」

「はいっ!」




「うーん?」


 両親からお礼と近況の手紙を受け取った勇者は中を見て首を傾げた。


「おとーさんが張り切ってるのはいいけど、おかーさんはおかーさんだなあ」




「うーん……」


 勇者の実家にいる騎士たちからの定期報告書を見ていた団長は首を傾げた。


「魔物が美味しいってことが伝わったのはいいけど、なんか方向おかしくね?」




「だから!魔物は!食べ物じゃねぇぇぇっっっ!!!」


 「基本だろーがぁっ!」と盛大に突っ込んだ魔導士の言葉は誰の耳にも届いていない。


 ……もー本当に、こいつらヤダ……。


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