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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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十三話 城への襲撃

 魔物の活動が活発な時間帯は大体、夜だ。


 魔導士に言われて、魔王は律儀に城へ手練れを送り込んだ。




「おい……なんか近付いてこないか?」


 キィキィと耳に響く不快な声。


 明らかに普通ではないとわかる体格のものたち。


 日が暮れたと同時に、国の中央に向かって大量の魔物が襲ってきた。




「うわぁぁぁ!!」


 城下では魔物の集団によって黒くなった空に恐怖の声をあげる人たちでひっくり返っていた。


「きゃあああぁぁっ!」


 こちらに向かってきているという事実を確認した城の中でも逃げ場を探して走り回る人たちで騒然としていた。


 そんな中、来ると知っていた(・・・・・・・・)三人は、平然と装備をつけ直していそいそと準備を始めた。




「魔王って真面目だよねー」


 できたばかりの新品の肩当てをつけた勇者が、のんびりと上空を見ながら呟いた。


「それでもいつもみたいに『何日後に行く』という予告はしなかったんだから、他の人たちは巻き込まれまいと逃げまくっているけどな」


 勇者が装飾をつけすぎだと突っ込んだら「見た目は大事!」と言って、さらにゴテゴテと着飾った魔導士がシャラシャラとローブについた装飾を鳴らしながら杖をつかんだ。


「まあ日にちまで指定したら、ただの避難訓練ですからね」


 諦めたら適応するのが早かった団長も、自身の愛刀を腰に下げて腕を回していく。


「じゃあまあ、サクッと斬りますか」


 一番小柄な勇者が呟き、久しぶりに手加減をしなくてもいい相手に金の瞳を輝かせる。


「ついでに細切れにした魔物が再生できるか実験するか」

「それはいいですね。魔物にできたら人間にもできるかもしれませんし」


 団長は冒険の仲間になったことで細切れは逃れた。

 しかしその代わり、必死に逃げたやり合いをお気に召した勇者に毎日のようにこの間の気迫で対応しろと無茶振りをされていた。


 おかげで非常識な勇者と魔導士にも慣れ、腕もどんどん上がっていった。




 その頃、上空では魔物たちも打ち合わせの最終確認をしていた。


「えーと、勇者を出せと言えばいいんだよな?」

「そうっすね」

「台詞間違うなよ。『魔王様を倒すという勇者 アレクを差し出せ!』だからな」

「『差し出さなければ城下の人間を根絶やしにする!』だっけ」


 この台詞もまたスケジュールの鬼である魔導士が考えたのだが、そんなことをこの場の魔物は誰も知らない。


「しっかし急に『適度に人間を襲っとけ』から『国全体を恐怖に(おとし)めろ!』なんて、魔王様どうしたのかな?」

「自分を倒せる勇者が現れたからだろ?実際、俺らの仲間も何人ヤられたか……」


 どちらかというと食料として倒しただけなんだけど、そんなこともここにいる魔物たちは知らない。


 そんな魔物たちに騎士団の団長が声を掛けてきた。




「何用だ、魔物!」


 「あ、これ台詞言う前フリじゃね?」と空気を読んだ魔物たちは、そのまま下に向かって先ほどの台詞を告げていった。


 もちろん台詞を言う魔物にはあらかじめ、声が増幅される魔法が掛かっている。


「んんっ……よし。魔王様を倒すという不届き者、勇者 アレクを差し出せ!」


 「よし、言えた!」とこっそり仲間たちと親指らしき指を立てた魔物は微笑み合った。


「差し出さないと言ったらどうするつもりだ!?」


 「お、こいつもなかなかやるなあ」と感心しながらも、次のとっておきの台詞を高らかに宣言をした。


「……もちろん、差し出さなければ城下の人間を根絶やしにしてやるわ!」


 ついでにイヤミな感じで高笑いまでして、魔物たちの気分は最高潮に盛り上がっていた。




 「決まったな!」「イエーイ!」とかいうやり取りをしつつ下を見たら、小柄な少年が抜いた剣先をこちらに向けて応戦の言葉を投げ掛ける。


「わたしが勇者 アレクだ。全員、相手になってやる!」


 「え、なんかちっちゃくね?」「大丈夫か?」と不安になった魔物たち相手に一歩も引かず、むしろ城の壁を駆け上がって両刀を抜いた。




 魔王と同じ金の瞳は相変わらず輝いている。


 一瞬で間合いを詰めた勇者に驚く間もなく魔物たちは次々と斬り刻まれていった。


「くあー……コレコレ!」


 骨までぶった斬る久しぶりの感触に歓喜しながら、勇者は次々と撃ち落とす勢いで空中を駆け巡り剣を振るっていく。




「さて、旅の前の肩慣らしにさせてもらうか」


 コキッと首を鳴らした団長は、翼のある魔物の背から落とされた魔物を見つけてほくそ笑む。




「ふむ。やはり開戦の台詞は大切だな」


 その二人から一歩下がっていた魔導士は、自分の立てた計画通りに事が進んでいることに満足をしながら、万が一にでも城の外に魔物が逃げないように囲う魔法を発動させた。




「勇者様!」

「勇者様が戦ってくださっているわ!」


 空を見上げていた人々は、空を駆け巡り魔物を華麗に倒していく勇者に希望を見た。




「いやっほーう!実家に送ったら喜ぶぞー」


 出稼ぎだと言われた言葉を真面目に受け取って、調理しやすいようにそれぞれの魔物に合わせて斬り方を変えていることを知っているのは魔導士だけ。


「なんで私がこんなことを……」


 囲う魔法を発動させたら暇なので、打ち合わせ通りに勇者が落としていく魔物だったものを律儀に袋に詰めていく魔導士。


「ちょっ……もう少し俺にも残してくださいよ!」


 飛べない魔物を乗せている別な魔物から落とすことになっているはずが、勇者がまとめて斬り刻んでしまうので団長の出番がなくなっていった。


 そんなやり取りももちろん他の人には聴こえないので、空中で魔物を倒す勇者と地上で残りに止めを刺す団長という風にしか見えなかった。




「はあ……いっぱい斬った」


 一通り斬った勇者は木の上に止まり、中ボスクラスと対峙していた。


「なかなかやるな、勇者よ」


 しかし声を掛けてきた相手を見た勇者は初めてピタリと動きを止めた。


「どっかで見たことがあるような……なんだっけ、トロール?違うな」


 不敵に微笑む魔物に、首を傾げながら考え込む勇者の呟く言葉が聴こえなければ、他の者とは明らかに違う雰囲気を(まと)った目の前の魔物に対して思案しているように見えることだろう。


「先ほどまでの勢いはどうした、勇者 アレクよ」

「あ、わかった。極上ステーキ!!」

「なんて!?」


 ポンと手を叩き満面の笑みを浮かべた勇者は、目の前の中ボスが一回だけ食べたことのある極上ステーキ肉だったことを思い出した。


「ここで会ったが百年目!」

「……」


 なんか変なことを言われた気がするけど。


 剣を構え直した勇者が爛々と金の瞳を輝かせ、さらにヨダレを垂らしそうな勢いで見つめていることも気になるけれど。


「……フッ。ではお相手願おうか―――勇者 アレク!」




 ―――この日、城へ襲撃してきた魔物たちは一晩待たずに壊滅させられた。


 これがのちの英雄たちの、最初の戦いとして民衆の間に瞬く間に広まっていった。




「いやあー大量大量!」


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