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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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十話 勇者は出発する

「次に魔王に声を掛けられたら口裏合わせてくださいよ」

「はーい」


 それにしても自分と年があまり変わらない少女と、何年掛かるかわからない魔王退治の旅に出なくちゃいけないとは……。


「わたしの場合はこの剣があったからだけど、そっちは大魔導士になってたからしょうがないんじゃない?」

「なりたくてなったんじゃないんですけどね」


 たまたま(・・・・)魔力を他の人よりも多く持っていたってだけで。

 たまたま(・・・・)王族と関わりの深い家に産まれたってだけで。


 どれも自分から選んだというよりは、周りに流された結果だったりする。


「あ、じゃあもしかして婚約者とかいるの?」

「ええまあ……その王家(ゆかり)の女性です」


 ってゆーか王女様です。


 これもたまたま(・・・・)年が近いからってことで選ばれただけだ。


 ついでに魔王を倒す旅から無事に帰ってこれたらそのまま結婚だし、帰ってこれなかったら予備の婚約者候補から選ぶらしい。


 なんとも事務的な結婚だけど、そういうものとしてお互い割り切ってるからサッパリしたものだ。




「ひゃー婚約者!知らない世界だ」

「あ、そうか。ついでにあんた、婿連れて帰ってきな」


 近所に住んでる人はいるけどかなり離れているし年寄りばかりだし、このままここにいても結婚は望めないことに両親は気が付いた。


 気が付いたついでに娘に無茶振りを言っていく。けれど素直な娘は一つ返事で頷いた。


「わかったー」

「強くないと困るね。……食料を見ただけで倒れるとか論外だよ」

「そうだね」

「基本だね」


「……」


 それは誰のことだと訊かなくても、じっとこちらを三人が見つめるので魔導士はそっと視線を逸らした。


「婚約者がいるなら、余計にアリアはアレクのほうがいいだろうね。余計な誤解をされると旅立つ前に闇に葬られそうだ」


 「女性の嫉妬は怖いからねえ」と父親が訳知り顔で頷いていく。


「そういうもんですかね」


 よくわからない魔導士は首を傾げたが、余計な波風は立てないほうが無難だということは経験上知っていたので頷くことにした。




「じゃあここの守りを頼んでからじゃないと危ないんで、騎士団が来たら交代でお城へ向かわせていただきますね」

「はーい」


 手紙を書こうとする魔導士に、母親がじとっとした視線を向けてきた。


「つまりあんたはまだ居座るってことだね?」

「え……と、はい。そうなりますね」


 同じくじとっと見つめる父親も追加で言っていった。


「ウチは働かざる者、食うべからずなんだよね」

「ええと……もちろん宿泊代は支払いますよ」


 娘を借りている間に払われる補償金が書かれた紙を取り出して、魔導士が新しい項目を付け足していく。


「あんたが寝込んでる間、あのトンコツ風スープは高値がついたんだよ」

「ゴブリンが!?」


 城の近くの宿泊相場を書き込もうとした魔導士の横で、トントンとテーブルを叩いた母親がさらに上乗せしろと言っていった。




「ところで騎士団の宿泊も食事の面倒も見なくていいって言われたけど、動物は主にアリアが倒してたから手伝ってもらわないと困るよ」

「そ……れはもちろん、です。アリアさんの代わりとして騎士団を配置するのですから」


 「あれ、もしかして辺境の警備をするより大変なんじゃね?」とか思ったけど、それは騎士団がやることだからと魔導士は無視をすることにした。


「じゃあ、こんなもんでいいですかね」

「細かい部分は来たヤツがどの程度、使えるかにもよるね」


 モノによっては追加、もしくは問答無用で交代させられるということを言外に匂わせた母親が、パシッと紙を叩いて息を吐いた。


「使えないのにウロウロされても迷惑なだけだからね」

「……そうですね」


 そいつらも魔物を食べさせられるのかなあとか思って顔が引きつるけれど、それより魔王を退治しにいかなくちゃいけない自分のほうがヤバかったと気付いたので、こっちも無視することにした。


 そうして騎士団から命を受けた三人の騎士たちが配置についたのはさらに三日後。




【えーと。オレを退治したほうがいいという風に持っていくためには、魔物をただ暴れさせるだけじゃダメなんだよな】


 魔導士に言われた言葉を書き留めた、『スムーズに魔王が封印されるための手引き書』を見ながら勇者が動きやすいように魔王も命令を変えていった。


 そのために国がさらに混乱して、「打倒、魔王!」の空気になってくれたのはいいけれど。


 この計画を立てて各地を混乱に追い詰めた元凶は魔導士だと知っている人はどこにもいない。


【よし、今日のノルマ達成!】


 魔導士に言われた計画表に丸をつけながら、魔王は城で勇者を待っていた。


【早く来ねえかなあ……】


 そういや姿は見えないんだよな。


 せめて髪の色とか瞳の色とか訊いておけば良かったかな……いや、会うまでのお楽しみにしようとウキウキしている魔王は知らない。


 旅立ってから様子見に降りた街で、勇者としてではなく、ただの通りすがりとして会った少女と恋に落ちるなんて。


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