九話 勇者 アレクの誕生秘話
「そういうわけなんで、城に行ってもすぐに旅には出られません」
起き上がった大魔導士 レインはそう言って、昨夜魔王と立て直した計画を勇者一家に話していこうと起きてから書き直したスケジュールを広げていった。
しかし話す前に母親に突っ込まれた。
「それも大事なのはわかるけど、やっぱり勇者は男のほうがいいんじゃないかい?」
「え、そうですか?」
むしろ二百年目にして現れたんだから、『勇者は少女』って意外性もあっていいと思っていたんだけど。
「“勇者 アレク“と“勇者 アリア“。どっちのゴロがいいかって話だよ」
「そっち!?」
「あー確かに……。それならアレクに一票かな」
勇者本人も頷いて、ゴロが悪いと広まりにくいとまで言われては魔導士も頷くしかない。
浸透させるには呼びやすい名前のほうがいいというのはわかる。
“勇者 アレク“、“勇者 アリア“……うーん、アレクのほうがしっくりくるな。
「魔王にもさあ、双子の兄とか誤魔化して男の勇者が行くってことにできないかな?」
魔王とこれからのスケジュールを考えていた魔導士と同じく、勇者一家も色々と話し合っていたらしい。
魔導士が考えていなかった別なことを民衆目線で突っ込んでくれた。
「でも魔王と繋がれるのは勇者だけなんですよ?」
「そんなん勇者だからこそ守られてて繋げられず、同じ血を分けた妹に間違って繋がれたとかなんとか誤魔化せるだろ?」
「あー……なるほど」
姿が見えないことを逆手にとって、でも連絡手段はそのままで。
「そうするとその妹も旅に出なくちゃいけなくなりますよ」
「それを考えるのはそっちの仕事だろ」
まあ自分が魔王と繋がっているから、これからはこっちとだけ連絡してと言えばいいけれど。
しかしそれだと旅の途中で魔王に話し掛けられるのは魔導士だけになり、寝不足になる確率が跳ね上がるということだ。
「勇者な兄と魔王と繋がった妹は、双子パワーでお互いの状況がわかるとかすればいいですかね」
「一般人でも魔法を使える人はいるしね」
「でもわたし、魔法は使えないって言っちゃったよ?」
「そこで双子パワーだよ」
とても真面目な顔で、自分が何を言っているのかわかっているのだろうか、この魔導士は。
双子パワーってなんやねんと突っ込みそうになった勇者だが、「それでいいんじゃない」という母親の言葉でアッサリ決まり、次の話にサクサクと進むことにした。
「しかし男か……確かに城にいるお偉方の中には、勇者は絶対に男だろうと反対する老害はいましたね」
「そういうヤツを納得させるのに時間を掛けるより、誤魔化したほうがお互い楽だろ?」
だって魔王は【早く来い】ってうるさいし、城にいるジジイどもは「お前の嫁を探しているのか?」とか余計な詮索をされてハゲ頭に向かって何度魔法をぶっ放したくなったかわからない。
「わたしもいちいち説明するの面倒だし、そもそもわたしと貴方だけしか魔王には呼ばれてないでしょ?年の近い男女の二人旅だと色々と問題があるんじゃないの?」
「あーあー……確かに」
事後処理が面倒なことも嫌だが、これ以上自分を煩わせることは少ないほうがいい。
「そっちがそれでいいなら男ってことにしますけど」
「いいよー」
「行くって決めたんなら面倒なことは少ない方が早く帰ってこれるしね」
「じゃあそういうことで」と、改めてここに『勇者 アレク』が誕生した。




