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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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プロローグ~始まりの声~

 魔王に支配されてからすでに二百年―――この世界はずっと混沌としていた。


 魔物は定期的に町を襲い、冒険者たちは魔法や己の身体で立ち向かっていく日々。


 これはそんな世界を終わらせようと立ち上がった勇者と魔導士のお話。






【―――よ】


「ん……」


【目覚めよ―――】


「ええぇ、まだ眠い……」


【さあ、目覚めるがいい 勇者よ】


「すかー……」


【……聞いてる?】







 自分を倒すことができるという、この世界で唯一人の勇者にしか届かない声を掛け続けて百年以上。

 魔王 リーデリッヒュはやっと探し続けた勇者を見つけ、そうして魔力が満ちやすい夜に声を掛ける。


 眠ると声が頭に響いて、すっかり寝不足の勇者と呼ばれた子は不機嫌な声で会話をしていった。




【……なあ、お前が勇者のはずなんだけど】


「えー知らないよ。そもそもわたし、女の子だよ?」


【でも『なんでも斬れる』っていう伝説の剣を持ってるんだろ?】


 「じゃあ勇者じゃん。オレを倒しに来いよ」と気楽に言う魔王と名乗るヘンな人。


「わたしが勇者だとして、なんで倒されたいの?」


 毎日毎晩、頭に鳴り響く声を無視するのも面倒くさくなったので試しに話し掛けたら、アッサリと回線が繋がったかのように会話が出来たのは助かったけれど。


 そう尋ねた勇者の言葉にしばらく間を空けた魔王は、城かどこかの椅子の上で顎を撫でながら考え込んでいるのかもしれない。


【魔王を長くやり過ぎて飽きたっていうのもあるが、やっと勇者が産まれたんだ。そうするとオレは倒される運命ってことになるだろ?】


「そうなの?」


 二百年も支配し続けてきたんだから、寿命が尽きるまで頑張れよとか思うけど。

 当の魔王にその気はなく、「早く勇者来ねえかなあ」とか思っていたらしい。




「でもわたし、剣は持っているけど近所に魔物は出ないから倒したことないよ。それに魔法は使えないから、そっちまで行く前にフツーに死ぬと思う」


【なんだと!?】


「こればっかりはしょうがないよね」


 誰でも使える簡単な、火をおこしたり水を出したりとかすらできない。


 その代わりなのか、納屋に置いてあったこの『なんでも斬れる剣』は持った瞬間から使いこなせるようになったけれど。


【じゃあ魔導士も必要だな】


「その前にもっと根本的な問題があるよ」


【なんだ?】


 やっと勇者を見つけた魔王だが、声が届くというだけで見た目も何も知らなかった。


 だから勇者が次に言った言葉で、人間と魔物の違いが嫌と言うほどわかってしまった。




「あのね、わたしまだ十歳なの」


【……ダメじゃねーか】


「うん」


 いくら剣が使えても、十歳で旅に出るには過酷すぎる。


【はー、それなら仕方がないな】


 わかってくれたのかと布団を被り直した勇者に、魔王がぽつりと呟いた。


【よし。オレは国で一番の魔導士にも声が届くように特訓しとくから、お前はそれまで剣の腕を磨いて一撃でオレを倒せるようになっていろ】


「はあ!?」


 始めから一方的に話し掛けてきた魔王は、さらに理不尽なことを勇者に告げて通信を切ってしまった。


「えぇー……果てしなく面倒くさいんだけど」


 そもそも最初に【勇者よ】って言われた翌朝、母親に言ったらなんて返ってきたのか知らないからそんなことを言うんだ。






「おかーさーん!わたし勇者なんだってー!」

「寝言は寝て言え」

「いやいや。この剣はなんでも斬れるでしょ?勇者にしか扱えないからなんだって、で、わたしは使えているでしょう?」


 必死に昨夜の声の人が言った言葉を話して、なんとか自分の正体を知ってもらおうと頑張る娘に、ものすごーく面倒くさそうな顔をして母親は言い切った。


「あんたが勇者だとして、今すぐ腹いっぱいのご馳走が出てくるのかい?」

「うーん、無理!」

「じゃあこの話はナシね」

「はーい」


 「面倒くさいから二度と言うな」と言い含められ、「あんたがその剣で斬るのは野菜と肉だよ」と絞められたばかりの鳥と採ってきたばかりの野菜をドサッと籠いっぱいに手渡された。


「じゃああれは夢だったのかあ……ちぇ」

「新しい詐欺なんじゃないか」

「そうかも」


 こうしてまだ十歳の勇者は聞かなかったことにして、いつも通りの毎日を過ごそうと決めたのだ。

 この日から声も響かなくなったので、夜が眠れたことも幸いした。


 つまりすっかり忘れてしまった。


 自分が勇者だということも、この剣を扱えるという意味も。






 十歳の勇者がいつも通りの暮らしをしている時、国の中枢に近い場所にいたこの国一番の魔導士はうなされていた。


【……い、おーい】


「うーん……うーん……」


【おーい、聴こえてるかー】


「うるせぇぇ……」


 いつからかわからないが、寝ようとすると頭に男の人の呼ぶ声が響くようになったのだ。

 うるさくて眠れるわけがない。




「うーん……うーん……」


【あ、やっと繋がった】


「うーん……うー……ん?」


【南の外れに勇者がいるから、お前ソイツと一緒に魔王オレを倒しに来いよ】


「なんて!?」


 ガバッと起き上がった魔導士は、寝ぼけながらも今の言葉を思い返して頭を抱えた。


「ええとつまり、勇者が産まれたってこと?」


 それでなんで一緒に魔王を倒しに行かないといけないんだよ。


「新手の詐欺かな?」


 しかしこの日から声が響かなくなったので、久しぶりにたっぷりと寝ようと布団を被り直す。


 つまり魔導士もすっかりこの言葉を忘れてしまった。






 こうして魔導士にも声を掛けた魔王は、早く来ないかなあといつになくウキウキしながらその時を待っていた。


 ―――まさか魔導士も信じていなくて、さらに「なんかそこらへんの村にいる少女」という漠然としたヒントしかない中で勇者を探さないといけなくて、最初に声を掛けてから五年も経ってしまうとは思わなかったけれど。





【……遅いな。やっぱり日にちを指定しとけばよかったか?】


 すっかり自分に声を掛けてくれていた人を忘れていた勇者は、そのまま十四歳になっていた。


「そういえば最近静かだなあ」


 やっぱりあれは夢だったんだな。

 だって魔物は相変わらず出ないし、仲間だという魔導士だって探しに来ないもんね。


「詐欺も新しくなったんだなあ」


 こんな田舎にまで声を掛けてくるなんて、怖い怖い。




「レイン様、北の地域に魔物の集団が現れたそうです」

「すぐに向かう」


 魔導士だという証拠のゴツイ杖を持ち、豪華な装飾のほどこされたローブをまとって詠唱を唱える。

 一瞬で思い描いた場所へ移動が出来るのはいいけれど、色々と無理をしている反動なのか半端なく腹が減る。


「お待ちしておりました、レイン様。……まずはお食事をどうぞ」

「いただきます」


 ムシャムシャと用意された食事をいただきながら、そういや何年か前に勇者がどうとかいう夢を見たな。


 自分を魔王と名乗るなんて暇人だよなあ。


「よし食った、ごちそうさまでした」


 とりあえずサクッと魔物を片付けるか。


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