テンプレが発生さえしない
俺は門番と二人で街の中を歩く。
街は俺の想定していた街ではなかった。
窓にはガラスが入っており、街行く人の服装はかなりハイカラだ。むしろ現代に近いものがある。
若い女がミニスカートを履いて俺たちとすれ違うが、俺がガン見していたら女に睨まれてしまった。
それに対して俺の服装は、上下黒でサイドにラインが入ったジャージだ。
建物はコンクリートこそ無いものの、レンガ造り、漆喰のようなものが塗られた壁、ログハウスのような建物、木造だが気密性が高そうな建物など様々だ。4,5階建ての建物さえある。
街の大通りには屋台が並び、どうみてもお好み焼きにしか見えないもの、かき氷、肉を串に刺して焼いたもの、たこ焼きのようなものまである。
(鉄板や、かき氷機、たこ焼き鉄板まであるとなると、鋳造技術があるってことだ。こりゃ知識チートは完全に潰れたな。俺、金持ちになれんのかな?)
マヨネーズの作り方は覚えているが、既に屋台で使われてるようだった。それ以上の技術となるとスポーツジムで働いていた俺には到底無理だ。
俺は気になることを、歩きながら門番に聞いてみる。
「えっと、迷い人は結構来るの?・・・・・・ですか?」
「はははっ、気を使わんでよいぞ。普通に話せ」
「あ、ありがとう・・・迷い人はどのくらい珍しいの?」
「そうだな。大体1つの国に10年に1人ぐらいは来てるんじゃないか?」
「そんなに!?」
「何人いるかはわからんが、そこまで珍しいわけじゃない」
「そうなんだ・・・、迷い人はみんな強いのかな?」
「そうだな、噂では神のように強い者、強くはないが豊富な知識を持ってる者、豊富な魔法を持ってる者、色々いる。だが一般の平民のような能力しか持ってない迷い人もいるそうだ」
(俺やんけ・・・・・・)
俺があからさまに落ち込んでいると、
「まあ、気を落とすな。ここもそんなに悪いところではないぞ?楽しんでいきろ」
「・・・そうですね」
続けて門番が話題を変える。
「この大陸はグランセプト大陸と言う。そしてこの大陸ではグランセプト語が主に使われている。だがこの世界共通語と呼ばれているのはサンスクリーン共通語だ。今お前が話してるな」
気づかなかったわけじゃない。ここでは日本語をサンスクリーン共通語と呼んでるようだ。そして街の看板とかも日本語で書かれている。漢字はかなり少な目だが。
多分過去に来た日本人が、このサンスクリーン共通語と言うのを作ったのだろう。
「何故言葉が2つあるんです?」
「この大陸は人間とドワーフが主に住んでいる。グランセプト語は元々ドワーフの言葉だった。そして近年はドワーフが職人や商売で多く進出してきている。だから住民はグランセプト語が主だ。だが、貴族のほとんどはサンスクリーン共通語を話すし、サンスクリーン共通語を話せん奴も居ないだろう」
(ならサンスクリーン共通語だけで良いじゃん!って思うけど、地球に英語や他の言葉があるのと同じかな?いや、方言に近いか?)
そんな話をしている間に城のような場所についた。ここが領主様が住んでるんだろう。
門番は城の兵士に説明すると、兵士は驚いた表情を浮かべた。若干嬉しそうにも見える。
一旦待合室のような場所に通され、5分もすると迎えが来た。
そして、今は領主様の前に来ている。
「良く来た。私はジャスティン=ルーデンバーグ伯爵である」
◇
◇
◇
◇
◇
「・・・・・・本当にそれだけなのか?」
「はい・・・ですが、ほら!」
俺は謁見室の壁に向かって、豆粒ぐらいの小さな小石をラケットで打つ。小石は壁に当たると、パンと音を立てて砕けた。
「普通に小石を投げるより数倍の威力で打てますよ?!」
俺はなんとか雇ってもらおうと、必死にアピールする。
伯爵は困った顔をして、参謀のようなじいさんの顔を見た。
じいさんは、
「はい、確かに、ステータスは並みの兵士ほど、成長促進はCで、AやBほど大きな効果は望めません。ラケットと言うスキルは初めて見ましたが・・・・・・」
じいさんは鑑定を持ってるのだろう。
(この程度じゃお話にならないってか?!くそっ!こっちは今日の飯代もないんだぞ?・・・普通、貴族は日本人を囲いたがるんじゃないのかよ!)
「あっ!俺、勇者を選びし者って称号を持ってます!勇者に選びましょうか!?」
「ほう、面白い」
伯爵はじいさんの顔を見ると、じいさんは手を叩いた。すると奥から子供を連れたメイドがやって来た。メイドは爆乳だった。
「この子は私の息子だ。この子を勇者に出来るのか?」
「えーと、俺は選ぶだけと言うか・・・・・・き、君は勇者だ!」
俺は子供を指を刺し、叫んでみた。
じいさんは黙って首を振る。
「ジョージ様に勇者の称号は付いてません。それに何の魔力も動いてません」
「・・・」
「・・・」
伯爵は怒ってると言うより、ガッカリと呆れが入り交じった顔だ。
「もうよい、下がりなさい」
「ま、待ってください!俺、来たばかりで!」
「才能が無いものに用はない」
俺のところに兵士がやって来て、俺を謁見室から出そうとする。
「か、勝手にここに連れてきたくせに!こんな扱いなのかよ!っひ!」
俺が文句を言うと、兵士は抜剣して俺に向けてきた。
「待て」
伯爵が兵士を止めた。
「この程度で殺したとあっては、領主としての信用に関わる。それに手ぶらで放り出しても、何を風潮されるかわからん」
俺は支度金が貰えるのかと、喜んだ。
(まあ、安泰生活は無理だったけど、装備を整えられれば夢の異世界ライフがスタートだ。これでなんとかなるだろ)
するとじいさんが、何かを俺に向かって山なりに投げた。
チャリリーン・・・
それは100円玉のような銀貨2枚だった。
「それだけあれば安宿に泊まれるだろう、今晩の安飯も食えるか?それを持ってとっとと出てけ!!!!!」
伯爵は興味をなくした顔で俺を罵り、謁見室から出ていった。
俺はムカつくから銀貨を投げ返そうと拾うが・・・
(・・・これがなかったら飯も食えない・・・・・・くそっ!バカにしやがって!くそっ!くそっ!!!!!)
俺は目に涙を貯めながら銀貨2枚を握りしめ、領主の城を後にした。