サブタイトル
目が大きい。大きくて、きらきらしている。顔の形は卵形で、小さい。メイクは艶肌で、チークやリップは季節感のある色を選んでいる。しかし決して派手ではなく、はやなか。服は時と場合を考えている。自分の肌の色を汚してしまわない色と、流行りにのらない、小綺麗な服装。
性格はわかわかしくて、前向きだ。目標があり、彼女はそれによって成長する。そして彼女のまわりには人が集まる。笑顔が明るい。コミュニケーションは聞き役に徹して、男の愚痴を聞き、つつみこむ。人々はいやされて、また彼女に会いたいと思う。男は彼女が自分のそばでしあわせそうにしているので、自分が誇らしくなる。
ほかにはなんだろうか。
生まれは関係あるだろうか。多少はあるかもしれない。家族に愛された自信は、ことあるごとに背中をおしてくれるかもしれない。成功を裏付けてくれるかもしれない。あとは、品格も必要だ。自己を主張しすぎない品格が、人に安心感をあたえる。
では男ならどうだろうか。体を鍛えて、心まできたえられていることだろうか。仕事の責任に耐えられる強さがあるだろう。声に落ち着きがあり、女性をもてなすのがうまい。
深瀬はそういう男といえば、そうだ。顔形はどこにでもいてそうな男で、よくはないが、悪くはない。悪くはないのは、車がよくととのえられているとか、雨の日に車から降りてコンビニに行くあいだにも傘をさすとか、そういった小綺麗さが理由だろう。女性をもてなすのも、その気になればうまいだろう。接待がうまくなければならないのだから。
教室はみどり色だ。深瀬の顔にみどりがうつる。それを遠くから、かげがおおうときまで見つめる。たまに、ちらりとでも目が合えば、その日は上機嫌で帰れるであろうが、まったく合うことがない。
三度ほど、ユリは前の席に座って講義を受けてみたことがある。しかし深瀬はため息をついただけで、いつものように腕時計を外して教壇に置くと、視線をまっすぐに向けたまま微塵もそこから視線は動かないようだった。
講義後に深瀬が女子たちに囲まれている輪にユリがくわわってみると、1分も経たないうちにその場からいなくなる。講義の質問に行くと、淡々とこたえて、伏し目がちに立ち去る。何が原因なのかわからないが、ユリは深瀬に嫌われているようだった。