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第二の人生 ~女アバターで異世界ロールプレイ~  作者: 暗鬱な曇天
第一章 穢れた祭壇
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第一話 第二の人生

「……ルヴニール!」


 俺の正面に座る、先ほどまで眠りこけていたサラリーマンと思われるスーツ姿の男性が、唐突に立ち上がってそう叫んだ。


 現在の時刻は夜中の十一時過ぎ。

 終電間近のこの時間、ガラガラの車内は疲れきった顔を浮かべたサラリーマン達がポツポツと座っているのみの静かな空間だ。

 ほんの小さな話し声さえもよく響いてしまうだろう。


 ガタンゴトンと電車が揺れる音だけが響く車両に暫しの沈黙が訪れる。


 しばらくしてはっとした様子の彼は、キョロキョロと辺りを見渡して「……すみません」と消え入りそうな声を出してゆっくりと座り、恥ずかしそうに俯いてしまった。


 まあ、彼には少なからず同意できる。

 俺だってここがアレの中だったら、彼と同じく帰還の呪文を唱えてすぐ家に帰れるのに、なんて思う。

 これだけ仕事で疲れた後なら尚更だ。


 そんな事を思いつつ俺はこっそりと周囲を見渡すと、偶然この車両にはアレのプレイヤーばかりだったようで全員が彼の言葉に「その気持ちはわかる」とでも言わんかのように、うんうんと頷いている様子が見受けられた。


 やっぱり皆もそう思うんだな。なんて感心しつつ俺も同様に頷く。

 しかし、既に俯いてしまっている彼には全員が同じ気持ちだなんて事を知る由も無かった。




 VR(仮想現実)の技術が社会に親しみ深い存在になって早十数年。

 当然と言うべきか、各ゲーム会社は皆競いあうようにVRMMORPGの配信、販売を始めた。

 魔法が使える。リアルなグラフィック。空が飛べる。

 それぞれのウリを謳い文句に並べられたそれは何れも飛ぶように売れた。


 しかし、そんな時代にも終わりが訪れる。


 ──セカンド・アース・オンライン。


 通称SEOの登場によって、終止符が打たれたのだ。


 ネット上であるものはこう語る。


『現実で出来てここ(SEO)で出来ないことはない』


 また、あるものはこう語った。


『まさに、第二の人生だ』


 そんな、他を圧倒するようなソレはネットから始まり、ネット内で全て完結している。

 テレビCMや広告等は一切無く、全てのプレイヤーはネットでの噂や口コミから参入し、今もその人口を拡大しつつある。


 当然、『どこの誰が開発した』だの『どこの企業が配信している』など誰も知らない。

 だが、そんなことはプレイヤー達にとってどうでも良いのだ。


 他のものよりも面白い。

 ──ただ、それだけで良い。それだけで充分なのだろう。


 そしてまた、ある言葉がネットに書き込まれる。


 ──自由すぎて何をすれば良いのかわからない。





 しばらくの間を電車に揺られてやっとのことで家にたどり着いた俺は、くたびれた身体で風呂と夕飯を済ませ、自室に置いてあるちゃちなパソコンに繋がれたヘッドギアのようなものを頭に装着した。


 明日から三連休だ。

 じっくり遊んで、ゆっくり休みたい。


 年甲斐もなく胸を踊らせながら、慣れた手つきでパソコンを起動させ、とあるページを開く。


 ─Second Earth Online─


 パソコンの小さな画面にそんな文字が浮かび上がる。


「三日間って言うと……。少なくとも二ヶ月は遊べるな」


 SEOが絶大な人気を誇る理由は、そのクオリティや自由度だけではない。

 どういうシステムなのかは明かされていないが、ゲーム内での体感時間一日が現実世界での一時間に相当するのだ。

 そして社会人達の層をも取り込み、一大ブームと化している。


 俺は画面の文字を確認するとベッドに入り、静かに目を閉じた。



────────

──────

────



 目を覚ますと、微かに揺れるふんわりとしたベッドの上だった。

 窓の外には、晴れ渡るような綺麗な青空に勢いよく過ぎて行く白い雲。

 窓から身を乗り出すと、爽快な空気が通り抜ける。遥か下の方に、城下町や緑に生い茂る森林が霞んで見えた。


 ──帰ってきた。


 そんな実感に思わず身を震わせる。

 最早、俺にとってはこの世界こそが現実であり、本当の人生と言っても過言ではない。

 ネット上で『第二の人生』と呼ばれるのも無理はないだろう。


 ベッドから降りると、ふいに部屋全体が揺れる。

 家具等は全て空間ごと固定されているため、崩れることはない。本当に便利なものだ。


 この世界に自然災害である地震は存在しない。

 なのに何故、この部屋が揺れたのか。


 答えは簡単。


『オオォォォォッ────!!』


 再び部屋が大きく揺れると共に、今度は何かの咆哮が外で轟いている。


 この部屋。いや、家は生き物なのだ。

 厳密に言うとドラゴンのような生物の上に家が乗っている、そんな一風変わった生物である。

 元々はモンスターとして存在していたものを倒した所、持ち家として所有物になったのだ。


「……フフッ。そうか、主の帰還を喜んでくれるか」


 先ほどから大きく揺れる部屋の中でそう口に出しながら、俺は姿見の前に立つ。

 部屋に響いた俺の言葉は、クールな女性の声となっている。


 姿見に写るのは、赤いラインが入った白い軍服に同じく白い軍帽を被り。裏地が赤の白いマントを羽織った紫色の髪が長い女性。

 一番の特徴は両目を隠すように、アイマスクみたいなものをつけている点だろう。

 この目隠しには特に目隠しとしての効果はなく、着けている側から外の世界を見ることは出来る。


 これが、この世界での俺の姿だ。

 俺は口調を変えて女性アバターを使い、この世界では自分のキャラを作って演じる、所謂『ロールプレイング』をしている。

 どうせなら、違う自分をしてみたいと思ったのだ。


 それはそうとこのSEOのアバター作成はとても優秀なもので、勿論、無数にも思えるほどに存在するパターンから選ぶという従来の方法も可能ではある。

 しかしある程度自分の中でイメージが固まっていれば、頭に浮かべた、想像通りのアバターが作成出来るのだ。


 もちろん、服を集めるのは別だが……。


「……ふむ。そう言えば今日はこの世界『初』の、運営からのイベントがあるんだったか……」


 このゲームはリリース開始から今までの数年間、運営がこちらに干渉してきたことはただの一度も無い。

 それが数日ほど前に、メニュー欄の中に存在はしているがサービス開始から今までで一度も開いたことのない『運営からのお知らせ』という項目に、とある文が記されていたのだ。

 内容をまとめると、今日の昼にこの世界での十二時丁度。一大イベントを始めるとの事だ。


 そして「その開幕を一緒に見よう」と、こちらの世界の友と約束をしている。


「……さて、そろそろ出るとしようか」


 俺、いや私は窓から身を乗り出して外に飛び出ると三対の天使のような羽を背に出現させて大空を羽ばたいた。

 清々しい風にマントをたなびかせ、眼下に広がる大地へと降下していく。


 この世界では最初のアバター作成と共に、自分の種族を様々な中から選択することができる。

 メジャーなものだと神族や魔族、エルフに獣人。少し変わったものだと、この世界にモンスターとして存在するモノやそこらの草花等。

 多種多様な種族を選べる中で、私は神族を選んだ。

 当然選んだ種族によって様々な特性が変わるのだが。やはり空を飛ぶ、というのはロマンのひとつだろう。


 羽と言っても背中から直接生えているわけではなく、背中から少し離れた位置に羽が出現している。

 まあ、これがどういう原理で飛べているのかはさっぱりわからない。


 先ほどまで米粒ほどの大きさに見えていた街との距離がある程度近付いてくると、頭の中にシステムボイスが鳴り響いた。



 ────〈アルティエタ〉に移動しました。





 広場では露店を出している商人風の者が忙しなく動いている姿や、知り合いであろう町人達が集まって話をしている姿が見受けられる。

 金属の板を張り合わせたようなプレートメイルを着た西洋の騎士のような姿をした者が四人一組で街中を巡回している。街の治安を見守っているようだ。

 何処からどうみても活気に溢れた中世風の街ではあるが、やはり彼等は人間ではないシステム上の存在である為に、ある一定の決められた会話しか行えない。


 私は進行方向を変え、国の中央にそびえ立つ立派な城へと向かう。


 おそらく、あいつならいつも通りあの場所にいるだろう。

 私は城に近付くといつものように大きな天窓を蹴破って、大広間のような空間に敷かれた高級そうな赤いカーペットに降り立った。

 宙を舞う割れたガラスの破片が、キラキラと光を反射させながらカーペットへと散らばる。


「この私が来たぞ。出迎えろ、アイゼン」


 誰もいない閑散とした大広間に、私の声だけが静かに響き渡った。


 少しして、正面の少々装飾過多に思える豪勢な扉の向こうからどたばたと走るような音が近付いてくる。

 やがて、扉は盛大な音を立てて開かれた。


「……はぁっ、はぁ。い、良いところに来たなシエル」


 息を切らせながら部屋へ飛び込んできた銀髪で逆立つようなオールバックの男はアイゼン=ノワール。お互いに本名は知らない。

 彼も私と同じくロールプレイングをしているらしく、普段ならもっと威厳のあるやつなのだが。

 よほど慌てているのか額に大きな汗を垂らし、息を切らせて肩で呼吸をしている姿には威厳の欠片も見当たらなかった。


「……少し落ち着くと良い。私が来たのだ、もう慌てる必要などない。違うか?」


「あ、ああ。そ、そうだな」


 彼は私の提案を受け入れてその場で大きく深呼吸をし、胸を上下させる。

 少しすると先ほどまで荒かった彼の呼吸も落ち着き、溢れ出るように流れていた汗も止まった。


「……それで、どうしたというのだ?」


 私が自身の長い髪を弄ばせながらそう訊ねると、彼は息を捲し立てて「大変なことが起こった」と語り始めた。


 どうも話をまとめると、百匹規模のモンスターの群れがこの街へ押し寄せているらしい。

 そう語る彼の表情は焦りと安堵が入り交じったものであった。


「そこで、だ! 至急、お前に向かって貰いたい」


 彼は唐突に私の肩に手を置くと、顔を近付けてそう息巻く。


「……まあ、一応は友であるお前の頼みだ。引き受けよう」


「おお! 行ってくれるか! それなら早速だが────」









「俺達が今ここで死のうとも、国がある限りペナルティはない! 行くぞお前達!」


 場を取り仕切るリーダーのような、一番良い装備を着けている男が大きな声で周囲の鼓舞をしている様子が見られる。

 周囲にいる騎士のような見た目の男達もそれに応えるように声をあげてモンスターの群れへ飛び込んでいくが、誰がどう見ても明らかな劣勢だ。


「……さて、どうしたものか」


 上空で戦況を眺めていた私は今、少々困っている。

 おそらく味方と思わしき者とモンスター共がそこかしこで戦っている、謂わば混線状態に陥っているため、この場を一掃することが出来ないのだ。


 いっそのこと味方側の奴らが全員死ぬまで見ておこうか。

 どうせいつも通り城で復活するだろう。


 この世界で死ぬと、所持しているアイテムを全て失うというペナルティがある。

 しかし国に何らかの形で仕えている場合、個人はペナルティを受けない。そしてその代わりに、一人死ぬごとに国の予算からある一定のゲーム内通貨が差し引かれる。

 そして国の予算が一定を下回り、国として成り立たないようになると、それがプレイヤーが立ち上げた国であればマップ上から消えさってしまうのだ。


 ここにいるプレイヤー達は皆、国を守る為に戦っていることから、国に仕えているのだと考えられる。

 この人数分を差し引かれると、アイゼンの国にとってはそれなりの痛手だ。

 だから、彼は私を派遣したのだろう。


 そうなると、この状況を傍観しているわけにもいかないみたいだ。


「……聞け、雑兵共! ひとつの位置に固まるのだ!」


 私は軽くため息を吐くと、声を張り上げて戦闘中の騎士達に命令を出す。

 私の声を聞いた騎士達は困惑しつつもリーダーを中心に、一ヶ所へと固まった。


 私はその頭上に位置し、モンスターの数を把握するために耳を澄ませる。


 ──聴覚スキルEX。


 耳に入るのは風のざわめきに、木々の葉がこすれる音。金属の鎧がぶつかりあう音。

 そして、モンスター特有の敵意を剥き出しにした冷たい音だ。


 敵の数はざっと二百。

 アイゼンからは百匹規模だと聞いたのだがな。


 私は剣を鞘から抜く。

 バチバチと弾けるような音を放つ紫色の雷光が、黒銀の刀身を纏うように駆け抜けた。


 ──剣術スキルEX×範囲攻撃スキルEX×必中スキルEX。


 ──エネミー:ロックオン。


 ────王刃斬オーバーキル


 何もない空間を斬るように私は空中で一回転し、剣を鞘へと収める。

 その動作から少し遅れて、百匹以上居た全てのモンスターが横凪ぎに両断されたかのように真っ二つになり、やがて光の欠片となって霧散した。


「……フン、退屈しのぎにもならんな」


 私はそれだけを呟くと、羽ばたいて城へと飛んだ。









「ハッハッハ。今でこそ良い装備が揃ってはいるが、お前も最初は初期装備で選べるアイマスクを着けていたからなぁ……」


「……フッ。なに、そのおかげで聴覚スキルが成長したのだ。今ではあの頃の不便さに感謝している──」


 紅茶が注がれた小さなカップが二人分並ぶテーブルを挟み、私と向かい合うようにソファへと座るアイゼンは、自身の髭を指で撫でながら笑っている。


 現在、私達は昔話に花を咲かせながら、イベントの時を待っていた。

 時間にすれば、その時までは後一時間ほど。


「──アイゼンよ。ロールプレイングをする上ではやはり、外見と言うのは重要だ。と、私はそう思うわけだ」


「ああ、それには私も同感だ。しかしシエル、口調や立ち振舞い、そして名前も──」



 いつの間にか昔話から、ロールプレイングに関しての談義に切り替わっていた私達の会話は白熱し、完全に時間を忘れていた。

 彼とは偶然同じ時間に開始し、偶然同じスタート地点から始まったという、チュートリアル時代からの腐れ縁なのだ。

 話がよく弾むのも当然だろう。

 そしてお互いにこの世界ではロールプレイングをしているとなれば尚更だ。



 そんな私達に時間を思い出させたのは、窓をすり抜けて入ってきた二匹の白い鳩だった。

 鳩はそれぞれ私とアイゼンに一枚の白い封筒を落とすと、天井をすり抜けて空へと羽ばたいていった。


 私は赤い蝋で封蝋されたそれを手に取る。

 おそらく、壁抜けなどと言うほとんどバグに近い行為が行われた時点で、これは間違いなく運営からのものだろう。


 正面にいるアイゼンと顔を見合わせてお互いに頷くと、私達は封を切った。



 瞬間。

 視界が暗闇に包まれ、周囲の音が何一つ聞こえなくなった。


 ──────

 ────


 ただ今をもって、この世界と君達の世界は切り離される。

 よって、君達にはこの世界の永住権を与えよう。

 受け取ることを選択すれば、この世界が現実となり、元の世界には戻れない。

 受け取らないことを選択したなら、二度と、この世界には干渉できない。

 選ぶのは君達だ。

 私は、ただ、与えるだけ。


 ────

 ──────


 頭の中にそんな文字が浮かび上がったと同時、目の前に先ほどの封を切られた封筒が現れる。


 直感的にわかった。いや、刷り込まれたと言うべきだろうか。

 永住権を受け取るのならば、中身を取り出せば良いのだ。


 私。いや、俺は迷うことなくそれを開き、中のものを取り出した。


 ──君には永住権を与えよう。


 中にはそう書かれた白いカードのようなものが入っていた。


 やがて目の前を覆っていた暗闇が晴れると、目の前には心配そうな、少し泣きそうにも見える渋いおっさんの顔が映り込む。アイゼンだ。


「どうした、随分と近いみたいだが」


 私がそう口を開いて机に置かれたカップを手に取ると、彼は安心したような表情を微かに浮かべて、元々座っていたソファに腰かけて俯く。

 そして、少しの沈黙の後に彼は口を開く。


「……シエル。すまないが私の一人言を聞いては貰えないだろうか」


「……フッ。一人言に許可は必要あるまい」


 私の返事に彼は少し微笑むように「……そうだな」と呟いて、俯いたまま話を続けた。


「私にはな、妻と娘がいる──」


 ──────

 ────


 現実ではしがないサラリーマンをしていたんだ。

 会社では常に隅の方。所謂、窓際族と呼ばれるものだな。

 給料こそ貰っていたが、会社に私の居場所は無かった。

 そして、それは家に帰っても同じだった。


 そんな私は、居場所を求めるようにこの世界へとたどり着いた。

 そこでお前と出会い、冒険をして、やがては国を立ち上げて王として誰かに必要とされるようになった。

 正直、嬉しかったんだ。

 私はな、この世界を手放したくなかったんだ。


 ────

 ──────


「わ、私は現実の家族を捨て置いて……。この世界に残る選択を────」


 私は彼の口の前で自身の人差し指を立て、徐々に声が震えを帯びてきた彼の言葉を遮った。


「……ひとつ、私の友の話をしよう」


 最初は驚いたような表情でこちらを見ていた彼も、私が口を開いたことにより落ち着きを取り戻したのか、既に中身の冷えきったテーブルの小さなカップに手を伸ばす。

 彼の大きな手に掴まれた小さなカップはより一層小さく見えるものだ。


「私には、この世界で初めて出来た……、今では旧い仲の友人がいる」


 私は一息つくように言葉を止めて再びカップに手を伸ばし、中の液体で喉を潤す。

 正面に座るアイゼンは、無言のままカップの中身を一息に飲み干し、ゆっくりとテーブルの上にそれを置いた。


「……そいつも、向こうの世界ではしがないサラリーマンなのかもしれない。だが、ここがSEOの世界である以上、そんなものは関係ない」


 彼と同じくカップの中身を全て飲み干した私も、静かにそれをテーブルへと置く。


「そいつはこの世界では、私の友であり、この国の王であり……。ただの、アイゼン=ノワールという名の個人なのだからな」


 話を終えた私は、そっとテーブルの上に置いてあるポットを手に取り、自身のカップにその中身を注ぎ入れた。


 少しの沈黙の後、アイゼンはゆっくりと口を開いて言葉を静かに漏らした。


「……シエル。少し、泣いても良いだろうか……?」


「知らん。泣くなら勝手に泣け。……まあ、私の膝程度なら貸してやらんこともない」


 その言葉を聞いた彼は静かに私の隣に座ると、私の膝を枕にするように倒れこみ涙を流し始める。

 私はその頭の上に右手をそっと置き、空いた左手を使って静かに紅茶を嗜んだ。







「ちなみに、私は元々男だ。お前のことは良き友としてしか見ていない」


「……初耳なんだが」


「だから言ったろう、『ロールプレイング』だと」

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