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臓器狩り

「薄暮の町にはクリス財団の医療部門が来ている」

「クリス財団だと」

「そう。知っているとは思うが、クリス財団は東側にも影響力を持つ巨大組織だ。とりわけバイオ部門は主産業で、そこの医療部門と言えば連盟でも一二を競う力を持っている。しかも代替臓器の組織培養技術はあそこの売りだ」

 クリス財団は逸早く家畜に人の臓器を作らせるための臓器牧場を作ったと言う。

「ほとんどの臓器を豚や牛に作らせて、家畜由来の組織は食糧に回すという方法で無駄を省く経営を目指したんだ。ところが」

 いよいよ臓器の産生が軌道に乗ろうとした時に、家畜の間に疫病が蔓延した。全ての家畜は処分され、新たに導入された家畜も別の疫病に冒された。現在、厳重な管理の下での産生再開を進めているらしいが、クリス財団も慎重に慎重を期して未だに詳細を明らかにはしていない。そうこうしている間に登場したのがペレットだと言う。

 カハクは吐き捨てるように言った。

「きな臭い話さ。巷じゃ疫病の発生はペレットの仕業だと噂されてるが、証拠がない」

「代替臓器を産生されたんじゃ、商売が上がったり、ということか」

「そういうことだろうな。そうこうしている間に奇妙なことが起こり始めた」

 最初は街道沿いの宿場で、行方不明になる子供が増え始め、それがやがて両極やトワイライトゾーンにも広がって行った。

「まさか」

 六蔵の目付きが鋭くなる。カハクが頷く。

「六蔵が考えている通りだろうな。子供はペレットに誘拐されていたんだ。理由は言わなくても分かるだろう」

「臓器摘出か……」

「臓器狩り、と我々は呼んでるよ。子供の新鮮な臓器が狙われた」

 被害が社員の子供にも及ぶに至って、遂に企業側も立ち上がった。

「で、どうなった?」

「どうにもならない」

 企業側はペレットに対し、施設の公開を要求したが、あえなく拒否される。

「肉屋の施設は私有地だからな。完璧な証拠がなければどうにもならん」

 東銀河連邦は未開拓惑星の運営には直接手を出さない。出してしまえばそこには税金が投入され、以後の管理を全て行う必要が出てくるからだ。そこまでするほどの利用価値がタイカンにはなく、あくまでも企業が自発的に運営している体裁を維持したいのだ。

 企業側は私兵を差し向けて実力行使に出た。東銀河連邦が動かざるを得ない証拠を掴むためだ。ところがペレットには企業側を上回る強力な私兵が雇われていた。

「プロの傭兵組織だ。企業側の私兵は全く歯が立たなかった」

 企業側は仕方なく、ペレットの企業私有地内での活動を禁じた。しかし、臓器を求める人間は後を絶たず、そうした人間の手引きもあって、子供の行方不明もなくならない。

「そこで企業側は十六歳以下の子供にマーカー処理を施した」

 特殊な蛍光色素を注射したのだと言う。もしも移植臓器から蛍光反応が出れば、動かぬ証拠になるからだ。

「効果はあったのか?」

 力なく笑いながらカハクは言った。

「無駄だった。命が助かるのに正直に申し出て、せっかく手に入れた臓器を証拠として提出する人間はいない。医者を買収してでも隠し通すのさ」

 さらに、どうやら企業側はペレットと裏約束をしたらしいと言う。

「裏約束?」

「子供が行方不明になるのは変わらなかったが、企業正社員の子供は被害に遭わなくなった。どういうことだか分かるか?」

「ペレットの活動に目を瞑る変わりに、社員の家族に手を出すなってことか」

「おそらくな」

 企業側は、社員の子息だけにマーカー処理を続けていると言う。

「間違って攫っても、蛍光試験をして陽性なら無傷で親元に戻すってことだ」

 その頃からペレットは陰で肉屋と呼ばれるようになったとカハクは言った。

「この子はペレットから逃げてきたと言うのか?」

「そう。そして、貴重な生き証人だ。東銀河連邦が未開拓惑星に半年に一度送り込む自由運営監察官に証言すれば、さすがの連邦本部も調査をしないわけには行かなくなる」

 カハクの目に力が込められた。六蔵はそれを受け流して尋ねた。

「次の監査はいつなんだ?」

「半月後だ」

 トワイライトゾーンで監査が行われることになっていうと言う。

「六蔵はどこへ行く? この街道ならトワイライトゾーンではないのか?」

「小僧を連れて行けというのならお断りだ」

「なぜだ!?」

 カハクが気色ばんだ。

「俺は旅の途中だ。自分のことで手一杯なんだよ。それに、小僧の話も聞かずに勝手に決めるな」

「くそっ! お前にはこの星の人間の苦しみが分からんのだ」

「分かるわけがないだろう。甘ったれるな」

「なんだと!」

 カハクがベッドから立ち上がって六蔵のポロシャツの胸を掴む。

 六蔵は平然とカハクを睨み、手を振り解こうともしない。

「もういっぺん言ってみろ」

「自分達の星だろう。自分達で何とかしろ」

 カハクの顔が見る見る紅潮し、空いている手が六蔵の頬を打った。六蔵は目を逸らすことなくカハクを見つめたままだ。やがてカハクは歯軋りをして手を離すと、今度はガックリと肩を落とし、そのまま床に膝をついて、四つ這いの姿勢になった。六蔵は驚いて声を掛けた。

「お、おい。どうした?」

 顔を落としたままのカハクが搾り出すように言った。

「頼む。この少年を薄暮の街へ連れて行ってやってくれ」

「ばか。やめろ」

「六蔵。お前は…… いえ、あなたは肉屋の私兵からこの子を救えるだけの力があるのでしょう。勝手な頼みだと言うことは分かっています。本来なら私が連れて行くのが筋です。でも、私にはあの私兵からこの子を護るだけの力がない……」

 急にしおらしく、言葉も女っぽくなったカハクに六蔵はままおろおろと声を掛けた。

「立てよ。顔を上げろ」

「私の娘も、攫われたの」

「んっ?」

「五歳になったばかりでした」

「肉屋に、か?」

「そうです。もう六年前のこと。風土病で死んだ恋人との間に生まれた子だったの」

 当時はまだ社員以外にも蛍光マーカーがサービスされていたと言う。カハクは自分の娘に医者として遺伝子マーカーも施した。

「私はその頃トワイライトゾーンにいた。娘が攫われても、患者は毎日やってきた。休むわけにはいかなかった…… 心のどこかで娘を諦めかけた頃、企業が有する病院の移植手術に応援で呼ばれた。そこで、手にした腎臓から……」

 カハクの声が嗚咽に変わった。

「娘の遺伝子マークが出たのか……」

 カハクががくがくと首を縦に振った。

 企業は何もしてくれなかったと言う。腎臓を買ったのは幹部社員の妻だったのだと泣きながらカハクは話した。それからカハクはトワイライトゾーンを離れた。少しでもペレットに近い場所で生活し、証拠を得られないかとこの宿場に来たと言う。

「六蔵」

 突然カハクが顔を上げ、よろよろと立ち上がった。

「お願い!」

 そう叫ぶと徐に短白衣を脱いだ。下は下着と見紛う露出度の大きなタンクトップと股下まで切り詰めた麻のパンツ姿だ。

「な、なにを」

 カハクはタンクトップの肩紐を外した。そこだけ白い豊満な胸が露になった。

「六蔵、六蔵……」

 カハクは名前を呼びながら六蔵に抱きついた。

「ば、ばか! なにやってんだ! 離れろ!」

 六蔵は引き剥がそうとするが、カハクは六蔵の頭をしっかり抱き、六蔵の顔を自分の胸に押し付ける。

「私の身体を好きにしていいから……だから、お願い!」

「ふぐ、ふが」

 胸の谷間に顔を埋めた六蔵は声が出ない。秘めやかな香りが鼻腔を満たしたその時、

「こら! 六蔵! 何をしておる」

 木樽から怒りを含んだ声が来た。

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