小説虎の穴 第31回 『人形の家』
第三十一回課題
『藪の中』的多元視点(芥川龍之介の『藪の中』のように複数の人物の視点で書いた小説
『人形の家』 あべせつ
《Aくんの答え》
ぼくが今朝、学校に来て教室に入った時には、もうこわれてたんです。マリエちゃんが泣いていてBくんとCくんがお互いに「お前がやったんだろう」と言い合いをしていました。でも二人とも「ぼくじゃない」と言ってましたけど。
Dくんは「きっとBくんがやったんだぜ」って。え?なぜそう思うのかは、ぼくにはわからないです。
《Dくんの答え》
だって・・・。マリエちゃんの人形の家が金賞を取ったとき、Bくんはすごい悔しがってて。「マリエちゃんのさえなきゃ、ぼくのロボットが一番だったのに」って。だから、ぼくはBくんがやったのかなと思ったんです。
あ、はい。Bくんがこわしたところを見てたんじゃないです。ごめんなさい。
《ミカちゃんの答え》
はい。今週わたしは日直のお当番なので、みんなが来る前に登校するようにしています。今朝も一番乗りでした。わたしが来た時にはもうお人形のお家はこわされてたんです。
え?風で落ちてこわれたんじゃないと思います。だってマリエちゃんのお家は大きいから棚の後ろのほうにおいてあったんですけど、その前に並べて置いてあった他の作品はひとつも落ちてないんです。
マリエちゃんのだけが床に落とされてて。それに踏みつぶしたみたいに上靴のあとが幾つもついてました。大きい靴あとだったので、男の子の足跡だと思いました。
昨日の放課後ですか?
わたしが帰るときに、まだ教室にいたのはマリエちゃんとBくんとCくんでした。
《Bくんの答え》
ぼくじゃありません。確かにマリエちゃんのに負けたのは悔しかったです。
でも先生。マリエちゃんのはお父さんに手伝ってもらってるんですよ。自分ひとりで作ったんじゃないんです。それなのに金賞なんて卑怯だと思ったんです。それで悔しくて、ついそんなことを言ってしまったんですけど・・・。
でもだからって、踏んづけて壊したりなんてしてません。
ぼくは、そんな卑怯者じゃありません。それにマリエちゃんのが無くなったからって、ぼくのが金賞になるわけじゃないですし。
昨日の放課後ですか?
掃除当番を終わってから、すぐに帰りました。
マリエちゃんとCくんですか?
ぼくと一緒に掃除当番でしたよ。
でもぼくは塾に行かなくちゃいけないので、掃除を済ませたらすぐ先に一人で帰りました。二人がいつ帰ったのかは知りません。ぼくが帰るときには、人形の家はちゃんと飾ってありましたから、ぼくが帰ったあとで誰かがこわしたんだと思うんです。
え?上靴の底ですか?今朝下ろしたばかりなのでキレイですよ。昨日書道の時間に墨をこぼしたので新しい上靴に変えたところなんです。
《Cくんの答え》
ぼくは絶対Bくんだと思ってるんです。
あいつ、級長だからっていつも自分が一番じゃないと気にいらないんです。
マリエちゃんのが金賞で自分のが銀賞だと明日の参観日に親にバレるのがイヤで、マリエちゃんのを壊したにちがいないんです。
先生、あいつはいつも優等生してるけど、本当は腹黒いイヤなやつなんです。だからあいつに仲のいい友達なんて一人もいないんです。
昨日の放課後ですか?
ぼくとマリエちゃんは掃除当番でした。Bくんもそうなんですけど、塾があるからって最後まで掃除せずに途中で先に帰ったんです。ぼくとマリエちゃんは最後までやって一緒に帰りました。
その時には人形の家はちゃんとありましたよ。たぶん、あいつが今朝早くに来てやったんだと思うんです。
上靴の底ですか?
汚いですけど、これが何か?
《マリエちゃんの答え》
わたしが自分で壊したんです。掃除をしてたら落としちゃって。わたしが落としたところは誰も見ていないと思います。あわてて棚にもどしましたから。
え?Cくんと一緒にですか?
あ…はい。でもBくんも最後まで一緒に掃除していました。Bくんだけ途中で先に帰ったりなんてしていません。Bくんは真面目で、そんなウソをつくような人じゃありません。だから級長さんをしているんだし。むしろCくんのほうがちょっと・・・。
Cくんとですか?ええでもCくんとは一緒に帰ったと言っても、校門までなんですよ。
そこで別れたので、その後Cくんがどこに行ったとかは知りません。 完