ほいほい3
シリーズ第三弾です。よろしくお願い致します。
――前回のあらすじ――
座敷さんは『お出かけ』を覚えた!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
先日、ポイントを利用すれば外で遊び回れる事に味を占めた座敷さんは、『ポイントを貯める』と言う我慢が出来ず、最終的にいつもの姿で外出を始めてしまった。
しかも、ポイントが貯まったら即使い込んで、コンビニでお菓子を買うという体たらく……。
正直、頭が痛い……。
――そんなある日の事。
「ぶぁあっぁぁぁぁぁぁあぁん! 家っ主さーん!」
――ドッスドッスドスッ!
アパートの階段を何かが駆け上がる音がする。
まあ、正体は分かるんだけどね……。
「うるっせぇ!」
「あ、すいません! いつもいつも、本当にすいません」
毎度の如く、下の住人から苦情の声が上がるので、条件反射で謝っておく。
「家主さん!」
その時、部屋のドアが勢いよく開く。
「座敷さん、もうちょっと静かに……!」
「あ、すいません……」
座敷さんはソロソロと部屋に上がり込み、僕の顔を見るとその巨体を震わせて、静かに「エグエグ」とすすり泣きを始めた。
「で? どうしたんですか? 座敷さん」
「うっ、うっ、家主さん……。こ、子供達が、酷いんです! いじめるんです!」
そして、座敷さん、再び大泣き……。
「うるせぇっつってんだろ! さっさと泣き止め、元気出せよ!」
「あ、すいません、すいませ、ん……って優しい!」
下の人……、本当は怒ってないんじゃないだろうか?
「ふぅ……。それで? また子供に絡まれて、蹴られでもしましたか?」
泣きじゃくる座敷さんを宥めつつ、何が有ったのかを聞いてみる。
「ち、違うんです。蹴られはしなかったんだけど……。あの子供達……わ、私の事を見て……」
「もしかして、また「おっさん」とか言われましたか?」
首を横に振る座敷さん。
「じゃあ――」
「――ぉうって……」
「? 何ですって?」
「私の事……『覇王』って言って、跪くんです!」
それだけを言うと、再び「エグエグ」と泣き出す座敷さん。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「つまり、子供達は特に蹴ったり、罵ったりはしなかったけど、座敷さんの事を『覇王』と呼んで家来の様に振る舞いだした、と?」
僕の掻い摘んだ説明にコクリと座敷さんは頷く。話を聞く限り、いじめられているというよりかは、敬われてるって感じがするけど……。
それは駄目なのか聞いてみると「私、女の子なのに……」と言う事らしい。
と言う事で今日は、座敷さんの為に女の子らしさの特訓だ!
――十分後――
「と言う訳で、僕の家で預かってる子が女の子らしくなりたいらしいんだけど……何か良いアイディアない?」
取り敢えず、数少ない女友達に「女の子らしくってどうしたら良いの?」と言う電話を掛けてみた。
『平日の真っ昼間から……学生さんは暇で良いですね! ボク、今仕事中なんだけど? ただでさえ、出張中の先輩の分まで仕事しないといけないのに……』
何だかんだと、ぶつくさ言いながらも友達はメールで色々と教えてくれた。何やら、会社の先輩とかにも意見を聞いてくれたらしい。
「と、言う事で座敷さん!」
「はい!」
僕はメールに書かれた内容の一つ目を読み上げる――。
「まず、女の子らしい女の子は、フワフワしている子が多い! らしいです」
「フワフワ……ですか?」
「そうです! なので、フワフワしてみましょう!」
――十分後――
「何やかんやで、こう……イイ感じに?」
「違う……と思う、それフワッとした事言ってるだけじゃない?」
――二十分後――
「これで……どうですか?」
「違う! それ、空に浮かんでるだけ! フワフワじゃない! プカプカだ……って凄いな!」
――三時間後――
「ファッファッファ!」
「え、うん、何かもう良いんじゃない?」
「え、本当ですか? ファファしてますか?」
疲れた僕は、力無く頷く……。
取り敢えず、今日はこの位にしようと言う事になり、僕は明日に備えてメールを読み返す。
――翌日――
「さて、座敷さん! 女の子養成講座、二日目です!」
「はいっ! コーチ!」
うむ、良い返事だ……。
僕は座敷さんに続けての課題を発表する。
「えー、女の子らしい女の子は明るくて、赤色が好きな感じ、らしいです」
「あ、私、赤色は好きです!」
ならば、後は明るさか……。
「明るさって、今のままじゃダメなんですか?」
座敷さんがその巨躯をモジモジさせ、こちらを見つめる。
「うん……多分、子供達に虐められても一笑にふせる位、明るくなれって事なんじゃない?」
「――ぅ、頑張ります!」
座敷さんはそう言うと、両手を腰の横で握り、踏ん張るポーズを取る……。気合は十分か!
――三十分後――
「ファッファッファ!」
「……凄ぇ! 輝いてるよ、座敷さん……ルクス的に……!」
本当にどうやったのか、座敷さん、全身からオーラみたいなモノ出してるし……。
「コーチ……私、今なら真の女の子になれる気がします! 次、次いって下さい!」
「――フッ、僕の指導は厳しいよ?」
「望むところです!」
僕は内容を自分なりに纏め、印刷したメールを読み上げる。
「女の子らしい女の子は、忍耐強く、相手の考えの先を行き、目に力があり、後、良い足してる、らしい」
「分かりました! やってやりますよぉ!」
――そして――
「よく頑張ったね、座敷さん……。僕が教えられることは、もう無い!」
「はい……コーチ! これで、これであの子供達に「ギャフン」と言わせてやれます!」
自信に満ちた顔で、座敷さんは部屋を出ていった……。
――三時間後――
「ぶぁあっぁぁぁぁぁぁあぁん! 家っ主さーん!」
座敷さんが泣き戻ってきた。
「どうだったの?」
「エグッ……エグ……」
泣きじゃくりながら、座敷さんは結果を教えてくれた。
子供達の元へリベンジしに言った、座敷さんは特訓したことを忠実に再現したらしい……。
まずは、明るく輝き、次に赤が好きと言うアピールをするために、子供達の前でトマトをかじる。
そして、忍耐強さをアピールするために、子供達のパンチを受け止め、途中で相手の考えの先を行くためにリアルで「残像だ!」を実行し、目に力を込めて気合を入れ、健脚をアピールするために空き地に転がっていた石を蹴り砕く。
そして最後に、ファファしている事を見せるために大声で言ったらしい――「ファーファッファ!」と。
「そしたら……そしたら「確かに『覇王』なんかじゃない」って、そう言って――」
座敷さんは、その時の事を思い出したのか、再び涙をぽろぽろと零して言った。
「「貴方様は『世紀末覇者』だ」って言って、土下座しだしたんです!」
そのまま、座敷さんは泣き崩れ、布団にこもってしまった。
僕はそんな座敷さんのは言った布団を見ながら呟く――。
「やっぱりなぁ……」
僕と世紀末覇者の同居生活はまだまだ続く――
「私、『世紀末覇者』なんかじゃないもん! 女の子だもん!」
――訂正。
僕と座敷さんの同居生活はまだまだ続く――
十話くらい書けたら、いっそのこと長編にしようかと思います。