158.7センチⅣ
「ーーーッ!!」
下からかちあげるような弾道で飛んできた光の奔流を声にならないうめきをあげながら受け止める高広。だが一秒にも満たない時間の後、ドンッ!という大きな音と共に高広の体が後ろに吹き飛ばされる。1.8mくらいの高さまで上昇した高広は空中で体を捻り、地面に着地。後ろ向きのままテンポ宙を一回、バク転を二回したところでようやく、しかしそれでも最後のバク転の後2mほど滑りながら静止した。
「あっっっっぶねぇだろ!今日のはほんたに死ぬかと思ったわこの怪物!!」
「うるさいわね、現に無事なんだからいいじゃない。」
周りのお前もな、という声が聞こえてきそうな高広の言葉に整然と返すエマ。
周りがガヤガヤとなにもなかったかのように練習を続けているのは、いまや日常と化したこの光景に誰も興味がないからだろう。そう、これが高広が超実の授業を受けたくない最もたる理由であった。
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時は4月まで遡る。
始めての超実の授業に来た高広は、チャイムと共に姿を見せた小日向に顔をしかめつつも、割と楽しみな気持ちで授業を受けていた。そしていよいよ振弾の実践に入ったところで事件は起きた。
「う〜ん、まぁしゃーないからキャッチボールでもしとくか。じゃあお前ら二人組になって相手に振弾ぶつけてみろ。受ける側は自分の超振で相殺な。」
最初は10mほど離れた的に振弾を当てる授業だったのだが、最初の一人が予想外の強さの振弾を放ち、的があっさり損壊。代わりもないということで振弾のキャッチボールをすることになった、のはいいのだが…
「よ、よーし、行くぞエマ」
「ほら、早くしなさいよ。」
そうして高広が放った振弾は、人が歩くくらいのスピードで進み始めた。そしてエマの元にたどり着いた途端、エマの超振にやられ消滅する。
「チッ」
「ねぇ今舌打ちしたよねぇ!俺の貧弱な振弾がそんなに嫌か!」
涙目になりながら訴える高広を半眼で睨みつつ、エマは自分の振弾の用意をしはじめる。
「あんたふざけてるんじゃないでしょうねぇ」
「ふざけたような威力で悪かったな!」
そう言いながら高広も、エマの振弾を受け止める用意を始める。
「そこまで言うんだから、もちろんお前はすんごい振弾を見せてくれるんだろ?」
煽るような高広の言葉にエマはさらに目を細めつつ、どこか期待するような目で言う。
「ちゃんと受け止めてよね」
そしてエマが手を前に出した瞬間、
ゴッ!!
エマの手から光の帯が、そう、振弾とは呼ぶにはあまりにも球然としてない、極太のレーザービームのような振弾が発せられた。
「うゎっ!」
振弾が自分の領域に入った瞬間に、自分ではこれを止めきれないと悟り、しかしここで避ければ後ろにいる生徒に当たってしまうと考えた高広は、振弾を受け止めた瞬間、
後ろにぶっ飛んだ。
「えっ…」
しかし驚愕の顔を見せたのはエマであった。なぜなら彼女の振弾が高広がいた所で消滅したからである。
一方、5mほど吹っ飛ばされた高広はふっ、ほっ、よいしょっという掛け声と共に、背中をぐいっと反らせ片手で地面を叩き、着地。そして勢いのまま後ろに跳躍、そのまま空中で二回転して一人の生徒を飛び越えながら地面に降り立った。
まわりが、エマの振弾、高広のアクロバットに唖然とする中、エマは憮然とした表情で
「ちょっと、なんであんた無事なのよ」
と言い放った。
「ちょっとまてそのセリフはおかしい!」
本気でエマが自分をどうしたいのかわからなくなってきた高広。エマが続ける。
「なんであたしの振弾が消えたの?向こうの校舎が壊れるくらいの気持ちで打ったつもりよ」
「訂正する気も無しか…つかそんなものを人に向けるな!」
流石に校舎を壊すというのは冗談だとは思うが、その疑問ももっともである。高広はため息をつきつつ説明を始める。
「超振は結局のところ振動だろ?振動は進行方向に物があったらそれを避けるように進む。
それなら体の前に、ろうとみたいな形の超振の壁を作ればどうなるか。もちろん振動は周りに逃げて霧散する。まぁそれでもいなしきれなかった分だけであんだけ吹っ飛ばされたんだけどな…」
壁を越えてきた超振を自分の体で受け止めたのだが打ち消し切るのに苦労した。というかあそこまで高密度の振弾だとせいぜい半分くらいの威力にしかできない。結果あそこまでふきとばされてしまったわけだが。
まぁ道場にいたあいつの振弾を毎日受けてきたらこれくらいはできるようになっちゃうんだなぁ…
高広はもう一度大きなため息をつくと、もう一度、エマに向かって振弾を打ってみた。エマまで届かなかった。
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「どうしてこうなった…」
4月のことを思い出し頭を抱える高広。それからというものエマの相手は高広にしか務まらないとクラス全員に判断され、毎授業エマの振弾を受け続けているのである。しかもコントロールの授業では、上下左右に波打つように迫ってくるので余計にたちが悪い。これさえなければ楽しい授業なんだろうなぁ。実際周りもワイワイと振弾を打ち合ってる。対してこっちはサンドバッグだ。
「ほーらどんどんやるわよー」
「わっちょっ、タイムタイム!」
「問答無用!」
次弾に吹き飛ばされながら高広は今日も、早くチャイムがなることを祈っていた。