継母ははやく娘を嫁に出したい。
誘拐同然で王宮に連れて来られて、早10年。あと30年は死なないんじゃない?と思われた王があっけなく死んだ。私が何かしたんじゃないか、呪いでもかけたんじゃ?と思っているそこの貴女!やつは呪いすら跳ね返すぐらい健康だったんだから!私のフルパワーを出して練った体の中からジワジワと腐り落ちる、それはもう想像を絶する苦痛でもって死ぬ呪いすら跳ね退けたんだから!!え?私の実力が足りないんじゃないか?って?!バカを言いなさい。私はね、これでも魔術師の中で一、二を争うほどの実力の持ち主!!将来有望だったのよ………。だったのよ………(泣)
あいつ(王)にこんなところに連れて来られるまではね………
今からおよそ10年前。当時私はまだ穢れを知らない、世間知らずのお嬢様だったのよ。あ”?誰だ今、誰それって言った奴。糸車に指を刺すと、永遠の眠りに就く呪いに掛けるぞコラ!言っとくけど、百発百中なんだからね!!
じゃなくて、そう、10年前私は魔法学院の卒業試験の準備に追われていたんだった。あ、申し遅れました。私はマリー。超美少女天才魔術師才色兼備のマリーです。よろしく!卒業試験なんて、私の実力からすれば、1位突破間違いなし。もちろん将来は約束されたも同然!全魔術師秩序局の理事になる日も近いわね。でも、保険は掛けておくべきじゃない?私の実力が確かなのはもちろんだけど、でも人生突然何が起こるか分からないじゃない?だからエリーさんや、ケルト、ジル、エミリーが激しい腹痛でトイレから出れなくなってもおかしくない。全然、おかしくない。酷い偶然が起こっても、全くおかしくない!!
ということで、私は森に激・腹痛草を取りにやってきていた。この激・腹痛草は森の奥、魔獣が生息している瘴気の濃い地域にしか生息していない。濃い瘴気を吸って育ってきた激・腹痛草の薬、ゲキフクツーを飲んだ日には、3日間はトイレから一歩も出れないこと請け合いだ。これで私の未来は決まったも同然!ケケケケケッ
と息まいてたのはここまででした。やっぱり天は見いているんですね、罰が下りました。まさか、魔獣がうようよしている所に、魔術師以外のそれも普通の人間がいるなんて思いもしなかった。だからいつも被っている顔が隠れるローブも身につけていなかった。
初めてヤツを見た時、一瞬息が止まった。
ブロンドの髪、この森の瘴気よりも深い闇の色の目、襲ってくる魔獣を次々と切り捨てていく度に降りかかる血の雨にも無表情な、冷酷そうな整った顔。どこか、人形のような―――――――
私って、面食いだったのであまりの美男っぷりに腰を抜かしてしまった。油断したのが悪かった。突如ヤツは私を見て、無感動な瞳に光を宿すと、そのまま私を米俵を担ぐみたいにして王宮に連れ去った。そう、コイツはメルトル国、この国の王だったのだ。
私は訳が分からないまま王宮に拉致監禁され、当然魔法学校の卒業試験にも出席できなかった。ジ・エンドオブ私の輝かしい未来。さらば、エリート街道を突き進む私。いや、私だっておとなしく捕まってたわけじゃないんだよ?魔法を使って逃げようとすれば、ヤツ(名はヒョウガ)が現れ首根っこを掴まれる。なら体を張って、壁ずたいに逃げようとすれば、ヤツが現れ網を投げられ生け捕りにされる。
逃げようとすればするほど、お仕置きと称したR18禁の世界。…無理。ヤツの体力は並みじゃない。だって朝から私は逃亡を図り、ヤツは執務中に関わらず鬼ごっこ開始。夜には執務を完ぺきにこなし、私が逃げられないように抱き枕にされて就寝。いったい貴様は人類ですか?!何様?!
どうやら意味が分からないけど、私はコイツに執着されたみたいです。逃亡を図る私を見ても、家臣の皆様は生温かい目でみてくるだけだし!っていうか、明らかに出どころのあやしい人物を、野放しにしていていいんですか?!と言いたい。安全管理はどうなってるの?誰か、この小動物みたいな可愛い私を、逃がしてくれる勇気ある騎士とかいないの?!児童虐待で、訴えるわよ!!
物理的に逃亡が無理だと分かった私は、持ち前の優秀な頭脳を使うことに決めた。私の得意分野、呪術でヤツを殺していまえばいいのだ~~~~(某青いタヌキ風)
で、その材料集めの時、城の奥まった瘴気の強い倉庫で、私は義娘と出会ったのだ。彼女は、それはそれは可愛らしかった。面食いな私は、思わず撫でくりまわして頬ずりしてハァハァ言いながら舐めまわしたく……これじゃ変態だ。その子がカワイ過ぎる幼児だったので、天使だと思った割と本気で。
柔らかいはちみつを溶かしたような金色の髪、シミ一つない真っ白い肌、もちもちした薔薇いろのほっぺ、フリルを基調とした清楚系なお洋服。完璧!4,5歳くらいかな~?あまりに可愛過ぎて、なんでこんな子供が一人で、こんな濃い瘴気のなかにいるのか、とか普通死なない?とか疑問にも思わなかった。はい。普通の人間の子供じゃ、一分もしないうちに死にます。変ですよね。この時気がついておけばよかったーーーーーー!!
迷子だと思った私はひとまず呪殺を後にして、可愛い天使ちゃんを親の元に送り届けてあげようと思った。数少ない私の善行です。お母さんの所に連れていってあげるね~、というと天使ちゃんは、お母様は天国に行ってるので、お父様しかいない。というではありませんかっ!つまり天使ちゃんは、本物の天使ちゃん?!よしよし、今お父様の所に連れていってあげるからね、悲しむことはないんだよ私が天使ちゃんのお母様の代わりにはなれないけど、お友達になってあげる(下心満載ハァハァ)と胡散臭い笑顔で天使ちゃんに言うと、彼女は、じゃあずっと一緒にいてくれる?とチワワのようなつぶらな瞳で私を見上げてきた。も、もちろん頷かなければ廃るというわけでハイ。即答で、いいよ、と答えた。答えてしまったんだーーーーーーーーーーーーーー!!!ううっ(号泣)
彼女はヒョウガの子供だった、というオチがありました。しかも、天使は彼女じゃなくて彼でした。ヒョウガは自分の子供に興味がないらしく、今まで放置だった。王妃は天使を生んで間もなく死んでしまったらしい。そして、一人もうけただけで王宮にいた女はみんな実家に帰したのだとか。ネグレクトか!!
事情を知ってしまった以上見て見ぬふりは出来ないので、ヒョウガを正座されて叱りつけたけど、それでも大切なのはお前だけ、全ての執着もお前だけ、とドヤ顔で言われた。反省の色全くなし、。それに全然嬉しくない上に、貴様に私拉致監禁されてるよね?被害者と加害者の関係で、それ以外の関係性はないよね?いいよ!私が天使ちゃん(本名ジリオリル)の継母になるわよ!と今日まで至る。
あれほど毎日強力な呪術をかけても死ななかったヒョウガが、餅を喉に詰まらせてなくなった。死に顔も、美男でした。正直、あんなに毎日構われてたヤツが死んだのは少しだけ寂しい……す、少しだけなんだからね!だってヒョウガを殺すのは、私だけだと思ってたのに。全然、涙なんか出てないんだから!!
それから三カ月が経って、少しづつ気持ちの整理が付いてきた。ヒョウガが亡くなって哀しかったけど、いつまでもこの国に留まることは出来ない。私は天下一品の不審者だ。ヒョウガが私を気に入ったから、ある日突然この王宮に住むことを許された。でもそのヒョウガはもういない。ヒョウガの弟は、王位継承に動き出していると聞いた。だったら私のやることは一つしかない。ジリオリルを嫁に出して、私はここを去る。ジリオリルももう14歳。嫁ぐとしてもいい年頃だ。とても美しく成長したので、貰い手は引く手数多だろう。……性別さえ分からなければ。
私の育て方が悪かったのか、なんなのかジリオリルは何故か男の娘として成長してしまった。今では立派なお姫様だ。元の性別を知っている古株の家臣でさえ、最近はジリオリルのことを、姫、じいちゃまですぞ~とか言っている。イタイね。
ジリオリル自身、王位継承なんて、興味ない、と言っていた。じゃあもう嫁に出すしかないな、と。安泰な爵位持ちの金持ちジジイに嫁いで、家を乗っ取ってしまいなさい、とアドバイスしておいた。
今私は何をやっているのかと言うと、大きな鍋に様々な材料(蝙蝠の眼、トカゲのシッポなど)を入れ、これまた大きな木べらで中身をかきまぜている。所謂惚れ薬だ。これを飲んだら一発で相手は恋の奴隷。『ああ、一生貴女だけのM奴隷にしてください薬』だ。今日がジリオリルの決戦の日。今日を逃したらもう後はない。私は黒いローブを被って、ビンに薬を詰め込んだ。籐のカゴにワインと一緒に詰めて部屋を出た。
今日ジリオリルは、70代独身後継者なしの公爵家に招待されている。目的はただ一つ!ジリオリルと既成事実を作ること。そうすればエロジジイは後継者候補に連なる。そういうことだ。ただし、私と言う邪魔者がいるのでそうは問屋が卸さない。公爵、ジリオリルの奴隷になって頂きます!
私は今目くらましの魔法を使い、パーティー会場にお邪魔しています。これで一般人には私の姿は見えません。ではでは、公爵にそっと近づいてこの薬を混入させなければ。くれぐれも、ジリオリルに感ずかれないように、慎重に、そーっと、そーっと、出来た!と思ったら、目線の合うはずのないジリオリルと眼が合ってしまいました。ヤバイッ!最初は驚いてい目を見張っていたジリオリルが(今日もドレスがとてもよく似合う)次第に眦を釣り上げていく。うわわわわわっ
怒っている。マジで怒っている。激おこぷんぷん丸だ。私は逃げる!さよなら!!達者でね、ジリオリル~最後のあいさつも出来ない継母なんて、すぐに忘れなさいよ~御免!!
どこをどうやって走ってきたか覚えてない。気がついた時、初めてヒョウガと会った、激・腹痛草が自生している所にいた。息が上がって上手く呼吸できない。あまりに苦しくて、草はらに仰向けで倒れ込んだ。夜になると、さらに瘴気が増すこの場所。でも私は全然怖くない。闇が優しく私を包み込んでくれる。それにこの激・腹痛草煎じるとかなり強い下剤になるけど、花はとても美しいのだ。白い風船のような花で、夜になると袋の部分が淡く光る。
後ろの方から、荒く息を弾ませた声が聞こえた。振り向いて、見てみると襲いかかってくる魔獣を斬り倒しながら近づいてくるジリオリルの姿があった。いつものお姫様姿ではなく、ちゃんとした男の王族のみに許された服を着ている。
無常に斬りつけている姿が、ヒョウガと重なった。
「マリー、どういうつもりですか?」
声は氷のように冷たい。剣についた血のりを払って私の前に来る。
「どういうことって、どういう意味?」
私は一歩下がる。
「カサドラル公爵邸でのことです。公爵に一服盛ろうとしましたね、それも惚れ薬」
また一歩ジリオリルが近づく。
「…私はただ、貴女をいい所のお嫁に……」
ジリオリルが魔獣の血で汚れた手を私の頬に這わす。もう一歩も後ろに進めない。捕まったらダメなのに。
「私は女ではない。そして、貴女を愛していると言った。継母とは見たことは一度もないと。でも貴女が逃げるから。だから傍にいられるなら女の私でもいいと思った。けれど、こんなことを仕出かすのならもう遠慮はしない。」
愛してる――その言葉とともに、私は強く抱きしめられた。
なんでも、ジリオリルは初めて会った時から私が好きだったそうな。なんで城の瘴気が強い所にいたかというと、ヒョウガの弟に誘拐されジワジワと瘴気に蝕まれて殺されそうになっていたんだって。でも先天的に魔力が備わっていたジリオリルは、生きていたってわけ。そこに、私が来た、と。
ヒョウガが生きていた時から、ジリオリルとヒョウガは激しい戦闘を繰り広げていたんだとか。私の取り合いで。まっっっったく嬉しくない。
で、ヒョウガが亡くなって私が帰ろうとしてると察知したジリオリルは、自分に後見人を作るため公爵に近づいたのだとか。カサドラルはエロジジイではなかった、と名誉のために訂正しておく。ゴメンなさい。惚れ薬の行方は分からない。もしかしてジリオリルが回収してたりして。私に使おうとしたりして(ゾッ)
ヒョウガの弟は、ジリオリルとの後継者争いに負けで、領地で謹慎処分となった。ジリオリルは男に戻ったのだ。国民もすんなり受け入れた。いいのかそれで?!
私と言えば、まだこの国に残っている。まだヒョウガの喪も明けてないしね。べ、別に離れがたいんじゃないんだから!
で今。ジリオリルがまたお姫様に戻って見えるのは、気のせいですか?
「マリー。貴女がまだ父を思っているのは知っていますわ。だから、まずこの姿で距離を詰めていって、貴女が逃げられないようにしたいと思います。この姿に弱いのは、知っていてよ。そして馴れたら、貴女は私の嫁にします」
って訳分からん。理論成立してないよ!無茶苦茶なところは父親そっくりだな!っていうか、べ、別にヒョウガのことなんてす、好きじゃなか「じゃあ私と今すぐ結婚でいいですね?」いえ大好きでした!無理だし!父親とその息子と結婚なんて、倫理に反してるよ!無理無理!!
「愛してます」
うわあぁぁぁぁあ、蕩けそうな美貌で言うのは止めて~私は面食いなの~無理なのに、力が抜けていく~~だれか、この無節操、強引お姫様を嫁に貰ってください!もれなく国もついてくるよ!




