夢現
「お母さんの名前ね、こんな話があるの」
「どんなお話?」
五歳になる娘を残してしまう不安が、心のどこかにあった。
「それはね、短い命でも、最後まで一生懸命光っていてほしいって話」
私は少し得意げに話す。
キィッと音がして、拓さんが部屋に入ってくる。
「…本来なら私はもう、天国へ逝っていても、おかしくない体なの」
拓さんが私の隣に腰掛ける。
「あなたと出会えたこと、そして、紅葉を産めたことは、キセキなのよ」
「…急にどうしたんだ?」
静かに拓さんが問う。
私は少し話をずらして答える。
「あのね、昔母に聞かされた話が二つあるの。」
拓さんは紅葉の頭をなでながら聞いた。
「へぇ、どんな話?」
私はまた、得意げに話す。
「それはね、私の名前の由来と、お月様のお話」
「おつきさま?」
紅葉が私を見上げて尋ねる。
「そうよ、お月様。紅葉は好き?」
「うん!大好き!」
無邪気な紅葉をみて、つい口元がほころぶ。
「お月様に、目を閉じて心の中で、たった一つの叶えてほしい願い事を言うのよ」
「…すてきだな」
拓さんが微笑みながら言う。
私もうれしくて、一緒に微笑む。
「そうね。このお話がとても大好きでね。…じゃぁ、今から語ってあげる!よぉく、聞いててね!」
そして、私は語りだす。
月と太陽の、小さな物語を。