医療ドラマあるあると期待の新人-1
「病院に一人はいる天才外科医」
「周囲から煙たがられている看護師」
「外で喫煙をしているやる気のない薬剤師」
「無理難題をとばす沢山の患者」
医療ドラマではあるあるの話だろう。事あるごとにあれはフィクションだから実際そんなにコテコテではないだろう、そんな型破りな医師がいるわけがないだろうと思っていた。
実際に医療人になって現場に出てみると……意外とそうでもなかった。お局様はどこにだっている。外での喫煙も日常茶飯事だし、優しいけど一風変わった人が多い。どうにも胃がキリキリする。
それに病院に必ず天才的な技能を持つ医師がいるかと問われれば、それは怪しい。医者も含めて医療従事者はシフト制なのだから。
「わたし、この病院に馴染んでいけるのだろうか……」
私が病院薬剤師になって3カ月が経過したが、未だにこの環境には慣れることができていない。齢二十四にして早くも人間関係で頭を悩ませることになるとは思わなかった。現に私は監査台で処方薬を監査しているが、ちらほらと耳がいらない仕事をするのだ。
「ちょっと誰よ! ベルソムラのシート斜めに切ったの!」
「この薬は苦いから他の薬にしてもらうことはできませんか? 子どもが吐き戻してしまうので」
「緊急入院の持参薬、誰か手空いてる人いたら頼むー」
「あー、俺そろそろ休憩だから、ナシになった一包化の振り分けしといてくれ」
と、いつもなにかと騒がしい上に、有事の際に備えて聞き耳は立てておかなければならない。
「おーい、聞いてるのか? 空井」
肩にポンと手を乗せられてようやく気がついた。
「え、あ、すみません齋藤さん。考え事をしていました」
「じゃあ、そういうことだから。これ、頼んだよ」
そう言うと齋藤さんは社食の方へ去っていく。残された一包化シートと判別記号のついた錠剤の数々に、私は頭を悩ませた。
一包化シートの中身を振り分けた後、ようやく私は昼食にありつくことができた。今日のお昼はコンビニで購入したおにぎりとポテサラだ。海苔を巻かなくていいタイプのおにぎりと、プラスチックのボウル容器に白いポテトサラダがギッシリ詰まったやつ。
昼食を食べる瞬間こそ、医療ドラマあるあるが脳裏を過ぎってしまう。
例えば救急医の軽食がコンビニ産のおにぎりだったり、レンチンできるパック食だったりする。あの話はフィクションではなく、どうやら本当のことらしい。
救急医の人たち曰く、いつどんな時に救急車がやって来ても対応できるように、とのことだ。逆を言えば、カップ麺のような置いておくとまずくなるものはあまり買わないそう。
昼食を食べる瞬間こそ、少しだけテレビドラマで見た医師の気持ちが分かる気がする。こんな時間に追われていれば、食べたいものも食べれない。比較的美味しくてマシなやつを選ぶほかないのだ。
「空井さん、休憩終わったらこっちの監査お願い! お昼どきにちょっとなだれ込んだみたいで」
「は、はーい」
私は監査台まで戻ると、三つくらい縦に詰まれた籠がツーセット。合わせて六人分。監査するものが沢山あって私は悲しかった。ひとつずつ、原因疾患や検査値を処方薬に照らし合わせていく。払い出された薬剤も一緒に確認する。
「この組み合わせなら大丈夫かな」
私は処方箋に記された薬剤名の端にレ点をつけた。
***
薬剤師のお仕事は大きく分けて三つ。調剤・監査・服薬指導だ。でも、病院で勤務する場合はその限りではない。
「あ、ちょうどよかった。今日さ、7C病棟の子が急遽、早退することになっちゃって。空井さんまだ7Cに上がったことないよね。今日だけ代理をお願いできる? こっちの作業は私がやっておくから」
「分かりました。7Cって確か……血液でしたっけ?」
「そうよ。じゃあ詳しくは7Cの看護師から聞いてちょうだいね」
「了解です。すぐに病棟へ上がりますね」
7階のC病棟、略して7C。血液のがんで入院している患者がほとんどである。いよいよ本格的に医療ドラマみたくなってきた。私は内心ガッツポーズだ。医療人との連携には不安が残るが、私は元気。
7C病棟へ上がり、まずはナースステーションへ。7Cの看護師から患者の引き継ぎをしてもらった。
まずは患者ひとりひとりのカルテを確認して、すぐにベッドサイドへ赴く。使っている薬の効果を確認したり、あとは顔や足元を見て副作用を評価したり。
「あ、薬剤師さん。この痛み止めなんだけど、どうにか飲みやすくならないかな。錠剤が大きくてたくさん水を飲んじゃうんだよ」
「それなら貼り薬に変えられるか先生に提案してみますねー」
「ありがとうね」
スクラブのポケットからメモ帳を取り出し、患者の名前と一緒に「貼り薬」と書き殴る。そして私は隣のベッドへ移り、次々と患者の体調を確認していった。
すべてチェックが終わったら、病室から席を外す。すると誰かと肩がぶつかりそうになった。
「あなた! 急いでるからそこをどいて!!」
白衣姿の女性が廊下を走っている。その先では看護師の慌てた声と、ナースコールが聞こえた。




