ロールプレイ
「そうと決まれば早速作戦会議だ!」
「ちょっと、あんた興奮すんのはいいけど、うちら訓練から帰ってきて2時間もこうしてるのよ?私いい加減お風呂入りたいんだけど!」
皆の参加表明に焚き付けられますます意気昂るサハに対し、即座にアティーテが静止を入れた。
「俺もいい加減疲れた。もう話は済んだんだ。終わってもいいだろ。」
元々さっさと部屋に戻るつもりだったアシュもここぞとばかりにアティーテに加勢する。
気づけば時刻はもう既に午後8時を回っていた。話の内容が内容だっただけに忘れていたが、俺も流石にお腹が空いている。今日の訓練が終わったのは6時半頃だったから、もうかれこれ1時間半の長話だ。流石にみんなの顔も疲弊を隠しきれない様子だった。
「おーっとと、ちょっと待ってくれよお前ら〜!分かった、休憩を取ろう。1時間くらい取るから、各自風呂なり夕飯なり済ませて、それからここに再集合しよう、な?」
「は、1時間!?あんた女のお風呂舐めてんじゃないわよ、ご飯も食べるなら最低2時間!」
「そもそもこれ以上にまだ話すことあんのかよ?今日やらなきゃダメなんか?」
「分かった分かった、じゃあ今から2時間後、10時くらいにここ集合!絶対!こーゆーのは決めたその日にやらないとダメなものなの!!」
アティーテとアシュはまだゴタゴタ言ってたが、結局そのまま2時間の休憩としてその場は一時解散となった。
俺も2階の自室に戻り、風呂と食事をさっさと済ませることにした。
ここでの食事は簡単にいって二パターンある。学食と自炊だ。基本的に、下級生組(特にC ,D組)らにはエーカンテ内で食事が支給される学食形式で、俺たち年長組(A組とB組の数人)は自炊することが多い。
と言うのも、この星では正式に社会で働けるようになるのがそれくらいの年齢なのだ。俺たちA組にとっては日々の訓練こそが生業であり、その稼ぎを毎月エーカンテからお小遣いとして配給されている。だからみんな、自分で自分の食事を買う余裕ができるって訳だ。ちなみに、もし金銭に十分余裕があるのなら食どころか住居だって、エーカンテ所属の寮じゃない一般アパートにすることも可能だ。尤も、そんなとこに小遣いはたくやつなんてどこにも居ないのだが。
俺は食事は口に入ればなんでも同じと思うタイプ。だから特にこだわりも無く、いつも御用達の冷凍食材で腹を満たし、食後の栄養補給サプリメントで健康を保つ。
満腹中枢がしみじみと満たされていくのを感じながら疲れた体に身を任せ、そのままベットにダイブした。
「(一回部屋帰っちゃうともう一度下降りるの億劫になるな…)」
俺の場合シャワーも食事もアティーテみたいにバカ長くかかるわけじゃないから、全て済ませた今でも集合時間までまだ1時間も余ってる。
「(それにしてもアイツ張り切ってたなぁ…。ここを脱出…か。アイツ一ヶ月も前からそんなこと考えてたのか…)」
スマホを片手にダラダラとSNSを見張る。だが、その内容が一切頭に入ってこない。それどころか、指先が冷たい画面をなぞるその感覚の方に意識が向き、またその心地がとても良い。
「(なんか今日一日で急に話変わっちまったなぁ〜。明日からどうなるんだろ…)」
瞼が重たくなってくる。スマホを持つ手を上げているのもしんどくなって、重力に従って力なく振り落ちた。
今日一日で起きた目まぐるしい変化に振り回され、頭も体も疲弊している。そんな体躯をフカフカのベッドが優しく支え、背中にたまる温もりと食後の血圧上昇が合わさり全身にこの上ない幸福感を与える。
「(まずい…このまま1時間も布団の上でぬくぬくとしてたら絶対落ちる…)」
既に危うい意識をなんとか脳内に戻し込み、甘い誘惑に唇を噛みながら無理やり体を起こし上げた。
「(ここに居ると絶対寝るな…。先に下降りてみんな待ってるか。)」
俺は一足早くラウンジに戻ることにした。
一番乗り…かと思いきや、ソファーには既に人影があった。風呂上がりの長い綺麗なブロンド髪を結いもせずにただ風にたなびかせるその後ろ姿は一見すると美人な女性に見えてしまうほどだ。
「あら、シャンティさん。もう食事と入浴は済ませたのですか?」
「おう、ってかそれはこっちのセリフだ。ニル、お前いつからここに居たんだ?」
「私もついさっき降りてきたばかりですよ。少し考え事をしたいなと思いまして。」
ニルは何か考え事をするとき、ラウンジかどこか自室以外の場所でするという習慣がある。彼曰く、自室だと考えがまとまらないのだとか。
「それってさっきの話についてのことか?」
「はい…。お恥ずかしながら、サハさんについていくとは言ったものの漠然な心配というか、不安がありまして…。」
「恥ずかしいことなんてないさ。まだアイツ、なんも芯の入った説明してないんだ。不安に思って当然だろ。」
「いえいえ、サハさんに不安感を抱いているのでは無いのです。サハさんが何事も実行できる能力があるのは理解していますし、その力を信用しています。不安なのは、私がその中でどのような役割を担えるか、といいますか…。」
「なーに、お前は俺らとは違って頭がいいじゃねぇか。それだけで立派な仕事だろ。それこそ、たとえ何かトラブルがあってもお前がいれば安心だって俺思ってるぜ?」
ニルはいえいえと謙遜しながら柔らかに笑って見せた。
「まぁ、まだそもそも俺たちの今後がどうなるのか全く決まってねぇ。というか、それについて話し合うためにこうしてあと30分もここで待ってんだ。アイツのイメージする計画の全貌が掴めれば、多少は不安感も取り除けるさ。」
「そうだといいですが…。」
こいつも不安に思うことがあるんだな、と俺は素直にそう思った。
「シャンティさん、シャンティさんは先程のサハさんのお話、率直にどう受け取りました…?その…先輩方の逝因に関しての部分です。サハさんのお話中、シャンティさんも何か考え込んでいる様子でしたので…。」
「どうってそうだな…。驚いたさ。先輩方の死因も、先生方の苦悩も、そりゃあ全てが信じられない、受け入れ難い話だ。でもまぁ、自分なりに納得はしたつもりだな。」
「そうですか、さすがシャンティさんですね…。私はまだ少し考えてしまいます。この戦争の中で、どうやって生きていくのが誰のためになるのか、その生き様の価値は如何程なのか…と。」
「後めたいか?使命から目を逸らして逃げるってのは。まぁ、きっと大丈夫さ。自分の生き様なんて、生きてるうちに決まるもんじゃねぇんじゃねぇの?きっと死んでから誰かが是非をつけてくれるさ。」
こんなこと、俺が言えることじゃない。言いながらそう思った。
はなから真剣に生きることを諦めている俺に『きっと大丈夫さ』なんて、そんな無責任な事言えるはずもないのに。
そう一人思うシャンティに反して、ニルの顔からは余分な力が抜け、軽い穏やかな表情を浮かべていた。
そうしてしばらくしていると次にルシャが降りてきた。それからサハ、リタ、アシュが次々に合流し、一番最後、約束の2時間ギリギリ手前に、まだ乾き切っていない髪の毛を無理くり束ねながら降りてくるアティーテの姿が現れた。
「やっぱ3時間取って貰えばよかった〜。全然ゆっくりできなかったわ〜。」
「お前馬鹿か、あと1時間も遅かったら11時だぞ。そんな時間から会議なんてしてたまるかよ。」
「まぁまぁまぁ、とりあえず!今日は記念すべき第一回目の会議、張り切っていきましょーー!!」
相変わらずの盛り上がりを見せる二人に割って入ったサハの声は、夕飯でエネルギーを十分補填してきたのだろう、煩わしいほど元気に満ち溢れていた。
「は、張り切りましょう…う…!!」
「ルシャさん、テンション感無理に合わせなくても大丈夫だと思いますよ。」
「いや、最高だぞルシャ、その意気だ!!」
休憩を取ったのはやはり正解だったようだ。みんな、先と比べて活き活きとしているように思う。
「おいルシャ、こいつにその気にさせるようなことすんなよ〜。下手に煽てると今夜寝れなくなるぞー。」
「いや、その点は安心してくれシャンティ!今日はみんなの今後の役割を発表するだけで終わらすつもりだから!」
「役割……?」
「そう!俺は今日の日のために、全員分の役割を考えてきたんだ!というか、俺が計画練ってる中であれが必要だな〜とか、考えなきゃな〜とか思ってた課題をざっくり六等分したんだ!」
「なるほど?お前にしては準備がいいじゃねぇか。好きなやつ選ぶ感じか?」
「いや、もう決めてきた!」
「…は?」
「いやだから、みんなの役割決めてきたんだ!ああ、とはいっても全然強制じゃないし交換オッケー!ただ、俺がこいつにこの仕事合いそうだな〜って思ったのをみんな分当てはめていった訳でさ、さっきの休憩中にもちょびっと調整したし、みんなに気に入ってもらえる自信あるぜ!」
「はぁ…。」
相変わらずのこのマイペース具合に誰一人として突っ込む気力すら湧かない様子だった。
「じゃ、発表するぞ!
まずはニル、お前には算監士をしてもらいたい!ここを出るまでにどれほどの食糧、エネルギー、物資などを集めておく必要があるか、そしてそれらの補給はどれほどの頻度でどれくらい必要か…みたいな物資の勘定及び調律を任せたい。」
「なるほど…すなわち計算係ですね…?全員分の食料と物資…欲を言えば栄養管理とか物資の再利用性とかも考えられますね…。サハさんありがとうございます、この役割なら私も楽しんで取り組めそうです!」
そう勇むニルの顔からは既に不安の色が消え褪せており、若干の興奮すらうかがえた。
その様子を見て満足そうな笑みを浮かべるサハは次のターゲットの方に顔を向ける。
「次にルシャ、お前は収情士、つまりは情報収集係だ。主に重大な仕事は二つ、ドーラム政府の宇宙渡航におけるセキュリティー調査と、できるだけ多くの惑星データを集めることだ。とりあえずまずはセキュリティ調査から始めてもらって、もしそれでセキュリティー的に逃亡に優位な方角とかがあれば好都合、その方角の惑星データをなるべく沢山収集、そして宇宙船にダウンロードしておいてほしい。」
「じ、情報収集ですか…。や、やってみないとどんな感じか分からないけど、せ、精一杯頑張ります…!」
「おう、頼んだぞ!ここを出た後の行き先は基本お前の集めた惑星データを元に決める予定だ。お前のデータによって俺たちの行先が決まる、超重要な役割だ!…とは言っても力みすぎるなよ、行き詰まったら俺ら誰にでもすぐ相談してくれ!」
少し怯えた表情に見えたルシャだったが、それは同時にこの役割を受け持つ決意を表明するものでもあった。
「そして次はリタ。お前はアティーテとペアになって…」
「おいちょっと待った、なんでリタとアティーテがペアなんだ。それじゃリタが可哀想じゃねぇか。」
「は?あんたそれどーゆー意味よ?」
「はいはいはいストッーープ、アシュ、この二人をペアに選んだのには理由があるんだ。ゴホン、改めまして、リタとアティーテには食糧調達、その管理をしてほしい。まずは食糧の確保だ。これに関しては地道に進めるしかないから、明日からでも毎日ちょびちょび訓練後かなんかに食料を宇宙船に備蓄し始めてほしいんだ。ニルの計算で食料必要数が分かり次第、それが集めるゴールになるだろう。そしてお前らをこの役割に選んだ理由、それはお前ら二人は料理ができるからだ!実はここを出たあと、食糧の在庫を管理しつつ日々の料理を担当してほしいなって思ってるんだ。贅沢な話だが、旅の途中でお前らの飯食えたらテンション上がるな…ってな。ま、これに関しては完全に未来の話だし嫌だったら降りてもらっても構わない。」
「なるほどね〜確かに私とリタちゃんくらいだもんね〜うちらでちゃんと自炊してんの」
「食材の調達も料理も他の頭使う仕事と比べたら簡単な方だよね。サハさん、ありがとう!僕、アティーテさんと頑張るよ!」
料理の腕を褒められてまんざらでもないアティーテに、優しいお兄ちゃん的な存在のサハから頼られて息巻くリタ。
そんな弟を見てむすっと不貞腐れた顔を向けるアシュを見つけ、サハはそれを次の標的にした。
「そしてアシュ、お前は収具士だ。ここを旅立つにおいて必要なもの、また、あったら嬉しいものとかを手配、管理して欲しい。」
「は?なんだよそれ、急に曖昧すぎだろ。何すんのか全くわかんねぇし。」
「要するに機材、日用品諸々を揃えて欲しいんだ。例えば簡単な話で言うと、冷蔵庫とかか?船内で長いこと生活するんだから食器とか、洗濯機とかも必要だろ?その辺もろもろって俺らの宇宙船には付属してないから自分たちで買わなきゃならねぇんだ。」
「けっ、なんだよ、俺は日用雑貨収集とかいう雑用かよ。なんか一人だけのんびり宇宙逃亡感ねぇ仕事だなそりゃ。」
「いや、そうでもないんじゃないか?お前の役割ってつまり、ここを旅立つ上で生活に必要な最低限の施設を人数分揃えるってことだろ?それって宇宙で生き延びるイメージをしっかり持たないとできない仕事なんじゃねぇか?」
「そうだよお兄ちゃん、お兄ちゃんの仕事によっては僕たちがどんな料理作れるかも変わってくるってことだし、一番生活するのに重要な仕事だよ!」
俺とリタがそう所見を述べると、サハも説明を続けた。
「そう言うことだ、アシュ。特に、この仕事をお前に任せたいと思った理由の一つにお前の柔軟性がある。例えば俺らが個々の仕事をしている時に、あれが必要、これが足りないって思ったとするだろ?そんな時にお前がそれらをすぐに集められるかどうかとか、何か代替品はないかとかって柔軟に対応して欲しいんだ。」
「ちっ、思ったよりも面倒い仕事じゃねぇか。でもまぁ分かった。その仕事引き受けてやる。ただし、お前の仕事はこれよりももっと面倒いことなんだろうなぁ、サハ?自分だけ楽な仕事とかだったらぶっ殺すぞ。」
「そういえばサハさんの役割ってなんなのでしょうか?」
「ん、俺か?俺は先生から宇宙旅行ティップスを盗み取る係だ!既にたくさん持ってるサバイバル知識をマックスまで聞き出して、みんなに共有するんだ!」
「はぁ!?なんだよそのクソ役職!」
「え、あんたそれ本気で言ってんの?私あんたのことだからてっきり『俺はリーダーだ!』とか言うんだと思ってたわ〜。」
「わ、私もそう思っていました…。」
「いや、リーダーは俺じゃなくてシャンティだ!」
「あ!?!?俺がなんだって!?」
油断していた。まさかここで俺の名前が上がるなんて思ってもいなかった。
ついさっきまで、この調子だと俺は『お前は長期の予定を立てる策定師だ!』とか言われるのかなーなどと漠然な心構えをしていた挙げ句のこの仕打ちだ。想定の遥か外側から放り込まれた自分の役職に言葉が出てこない。
「い、いや、そーなるとは思ったんだけどね…?でも真面目に、この中にリーダーに合う人材がお前くらいしかいねぇんだよ、シャンティ。」
サハが明らかに説得モードに移ったのを察知したシャンティは自分には拒否の選択肢などないのだろうと悟り始めていた。
「それがな?リタ、ルシャ、ニルは一応年下だからリーダーなんて役任せるのは大変だと思うし、女子のアティーテに俺たち男がリーダーを任せるのも不甲斐ないだろ?アシュに関してはリタを贔屓してチームに不和を与えかねないから不適切と判断した。そして俺なんだが、シャンティ、わかるだろ…?」
分かるもんか!とぶった斬ってやれればよかったのだが、残念ながら俺はこいつの言わんとすることを痛感していた。サハは自分のことにまっしぐらになると歯止めが効かなくなってしまう。普段のどうでもいい衝動的暴走なら勝手にしろと放置してればいいが、チームワーク、その中でもリーダーを務めると言ったらそうは問屋が卸さない。こいつをリーダーなんてした日にゃそりゃあ今日みたいな"突然の閃き"でそれまで積み上げてきた物を崩しかねん。
さらに癪に触るのがサハ以外のメンツを除外した理由の正当性だ。
悔しいけど、やはりあいつにしてはこの計画はよく考えられていると認めざるを得ない。リタ、ルシャ、ニルは年下だしまだいいが、同年代組のアティーテとアシュの説明までバッチリときた。
かと言って俺がリーダーに向いてる訳じゃないのだが、その理由を必死に探すもせいぜい不真面目無気力くらいのもので、こんなのじゃ他のメンバーに擦りつけられる訳もない。
「シャンティ、今の感じだとまるで俺が消去法でお前に決めたみたいな言い方になっちまったが、元々俺はお前にこのチームのリーダーになって欲しかったんだ。
お前は昔から状況を俯瞰して論理的に見ることが得意だろ?特に数学とか物理みたいに、必要な情報を十分に与えられた中で課題を解決するって場面だと秀才ニルすら上回る。それでいて更に、お前は潜在的な可能性、リスクを計算することにも長けている。いつも俺がお前になんか提案しても、2秒もせずに理にかなった反論してくるしな。お前はきっと、物事を多角的に見るのが得意なんだ。そんな論理的かつ批判的思考力ってのは、みんなからの意見を一つにまとめ上げなきゃならないリーダーとして、これ以上ない素質だと思うんだ。」
こいつは時々、思っているよりも人を見ているなと思う。
確かに、俺は数学や物理は比較的好みだ。だが、それは理論や背景倫理に惹かれている訳では決してない。ただ単に、与えられた情報のみで問題を解くというパズル的要素が好きなのだ。目の前にある情報をうまいこと組み合わせるだけで答えを導けるからその場凌ぎでなんとかなる分、ヘタな暗記系科目と比べて楽に点が取れる。
俺的にはこれはあまり望むべき学習態度じゃないと理解しているからなるべく隠していたのだが、それでもサハにバレていたとは。いつもヘラヘラしてマイペースでいるせいか、このように時々急に洞察力ある一面を見せつけられると、その意外性に動揺を隠せない。
「なに、リーダーだからって全部お前に丸投げするわけじゃあねぇ。他の役割もそうだが、この役割決めはあくまでこれからの計画の中でメインの仕事としてそれらを担当するってだけであって、それのみをこなしていれば良いって訳じゃねぇ。あらゆる決め事や提案はみんなで共有して議論し、あらゆる難題はこの場のみんなで対処する、それが俺が提示したい俺たちの掟だ。だからシャンティ、俺はお前に先導者になれって言ってるんじゃない。もっとラフな、例えばそうだな、"情報まとめ係"的な役割を担って欲しいだけなんだ。」
こいつは地味に頭がいい。特にこういった、人を説得する際に誘惑する言葉のチョイスには磨きがかかっている。それなら俺でもできるんじゃないか、役に立てるんじゃないかと思わせてくる。
俺は全くもってリーダーなんてするタチじゃない。そもそも俺は自分自身にすら責任感がないのだ。リーダーシップのかけらもない。
しかし、かと言って他に何ができるのだろうか。せっかくサハが提示してくれたこの役職をできないと一蹴した場合、その後俺には一体何が残っているのだろう。
その時、先ほどとは違う方角から声が飛んできた。
「別にいいんじゃねぇの?サハリーダーよりは100倍マシだろ。シャンティならみんなも気軽に意見できるだろうしな。」
「そうですね。私はサハさんもリーダーとしての素質はあると思いますけど、シャンティさんがリーダーを務めてくださったら安心できます!」
「そうね、いいじゃん、あんたリーダーで。どうせサハはリーダーじゃなくてもどっかで出しゃばってくるんだしさ。」
皆の視線が一気に俺に集中する。
俺はこの、全員が俺を見つめている瞬間が嫌いだ。何だか過度に期待を寄せられている気がする。その期待に応えなければ即座にみんなから幻滅されてしまう気がする。まるで俺たちの先生のように、いとも簡単に、身勝手に。
だけどこの時この瞬間だけは少し違った。その理由は全く分からない。しかし、俺の心はその重圧に屈していなかった。
なぜかこの瞬間、俺はリーダーをやってみたいと心が動いていたのだ。俺がこんな面倒そうで大変そうでそうで荷が重いことこの上無いこの仕事を受け入れようとしているのか…?全くどうかしている。いつもの俺なら即拒絶だ。今も脳では断固拒絶の意思は固く、拒否する理由を模索している。しかし体の奥底で、思考とは裏腹に、この現状を楽しんでいる自分がいた。鼓動の高まりが聞こえる。全身に血液が目まぐるしく循環するその流れを感じる。俺は、リーダーという役職をやってみたいのだろうか…?
「(みんな俺の返事を待っている。早く答えを出さねば。期待されている。見られている。怖い。下手なリスクを取りたくない。
…だけど。それでも…。せっかく与えられた機会だ。この気を逃せばきっと二度とこんな選択訪れないだろう。それなら、それならば…。)」
彼は刹那の瞬間乖離する思考と衝動の狭間で覚悟を決めた。
「分かった。リーダー、やってみるよ。」
「いやみんなもこう言ってるんだしお願いだから…って、え!?!?やってくれるのか!?!?」
「は?なんだよそれ、そんなんだったら…」
「いやいやいや俺が悪かった嘘嘘ごめんごめん、でもほんとにいいのか!?!?マジでありがとう…!!俺、お前とならマジ無敵だからよ!!」
こうして、かれこれ1時間ほど続いた役割開示も、ようやっと終わりが見えてきた。
各々、自分の役割について妄想を膨らませ、あるものは心を躍らせ、あるものは不安がった。
そんなそれぞれの思いを胸のうちに、彼らのロールプレイはドーラム脱出計画をスムーズに進める一つの要因となったのだった。
〜ドーラム豆知識その6〜
エーカンテでの生活はざっくり分けて下級生と上級生とで別れているぞ!エーカンテの1階は半分が下級生組の寮になっていて、大きな1部屋に川の字に並んだ人数分のベットでみんな仲良く寝るんだ。授業も食事も睡眠も全部エーカンテ内で完結しているから、小さい子供たちは一日をほぼ孤児院内で過ごすぞ!
上級組に進級すると別館の寮に住むことになり、それは下級生にとっては憧れの生活なんだ!




