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安寧求むる君たちへ  作者: 形而上ロマンティスト
第二章:惑星イルシャー

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17/17

ゲイン

 気がつくと、窓の外からは眩しい朝日が室内にキラキラと差し込み、活動準備段階の脳に眩しい刺激を網膜越しに与えてきた。

 ドアの向こうからはいつも通りの音がする。

 いつもと変わらない、朝の音。


 私は昨晩着替えもせずに寝てしまったらしい。

 それでも今朝布団の中に収まっていたのは、無意識のうちに自分で潜り込んだからなのか、それともお母さんがそうしてくれたのか。


 ベッドから身を起こし、姿そのままドアノブに手をかけた。

 私は少しだけドアを開けることを躊躇した。

 昨日のことがまだ残っていたから。

 もしも目覚めた今が夢なら、まだ覚めたくなかった。


 それでも私はドアを開くと、廊下の向こうから朝食のいい香りがした。

 今日はベーコンを焼いてくれているらしい。

 フライパンの上で肉が焼ける香ばしい匂いが私の鼻をつつく。


「お母さん…おはよう…」


 私はぎこちない普段を装った。


「あらルシャ、おはよう。」


 キッチンの壁越しにそう返事が返ってきた。

 まるで何事もなかったかのように清々しい声。

 だけどそれは同時にすごく優しかった。


 食卓の上に朝ごはんが並んでいく。

 ベーコンに卵、そこに焼きたてのトーストが加わる。

 バターがその上を悠々と流れ、鮮やかな光沢を少し焦げて鈍い色のトーストに与えた。

 昨日晩ご飯を食べそびれたことを思い出した。



「ルシャ、お話があるの。」


 向かいに座るお母さんが言った。

 なんだか怖くて、顔が見れなかった。


「昨日はごめんね…。私…取り乱しちゃって。でもね、ルシャに知って欲しくなかったのよ。お兄ちゃんがあんな状態だってこと。」


 なんて返せばいいのか分からない。

 私はただずっと齧り後のついたトーストを見つめていた。

 

「病院の人から聞いたんだけど、あの後皆さんから色々聞かされたんだって?本当は私の役割のはずなのにね…。ごめんね…。」


 お母さんの息を吸い込む音が聞こえた。

 時計の針がカチと鳴る。


「お父さんね、前の軍令で居なくなっちゃったの。骨の一部も手には入らないんだって。お兄ちゃんもね、長いことずーっと目を覚ましてないの。今の技術じゃ難しいんだって。」


 私は手に持っていたトーストを皿に置いて、代わりに水を手に取った。

 おかしいな、さっきまでお腹、空いてたのに。


「ずっと隠しててごめんなさい。ルシャ、二人のこと好きだったから…受け入れられないかと思って…。」


「お母さんが謝らなくて…いいよ…。」


 もう一度水を飲んだ。

 潤せど潤せど、渇いた喉からは言葉がうまく出てこない。


「私ね、ルシャにまで居なくなって欲しくなくて…こんなこと、押し付けちゃダメだって分かってるけど…それでも…あなたまで先に行っちゃったら私…」


「居なくならないよ、わたs」


「居なくなるじゃない!!!」


 耳を劈く音がした。

 私は思わず顔を上げた。


「もうこの星はダメなのよ…誰彼構わず戦争に送られる!あなたも、あなたの友達も!!あらゆる凡人は宇宙に駆り出されて跡形も残らず宇宙の塵にされるの!!!どうして気づかないの!?」


 目の焦点が合っていない。

 気が動転して、現実が見れてないんだ。


「お母さん、落ち着い…」


「ルシャ!!!お願い!!!お願いだから、医者になって!!!徴兵されない職業について、私の元からいなくならないって約束して!!!!お願いします、お願いしますから……!!」


 お母さんは乱暴に席を立ち、地面に手をついて土下座した。

 私の前で土下座した。


「お願いだから…お願いするから…!!!」


「…やめて…お母さん…やめて……」

 

 

 可哀想なお母さん。

 ずっと一人で抱え込んでたんだね。

 本音を我が子にすら言えないまま、ずっとお母さんを演じていたんだね。



 お母さんから提案された私の趣味は、全て徴兵から免れるための可能性作りだった。

 ドーラム政府の方針で、娯楽系の仕事だけは徴兵から免除されるんだって。

 人には楽しみが必要だから、モチベーションが必要だからだって。

 

 私はその提案全てを棒に振るった。

 せっかくのお母さんのお願い。

 悲痛なまでに我が子を守ろうとする母親の願い。

 私はそれを無碍にしたんだ。

 私の、能力が足りなかったから。




 それからのことはあまり覚えてない。

 勉強で忙しかったから。

 受験用に培ったテクニックも公式も、何もかもがその場しのぎで、周囲とは何十歩も遅れをとってて。

 それでも私は頑張った。

 お母さんの最後のお願いを叶えるために。

 尊敬するお母さんをもうこれ以上苦しませないために。


 お母さん、少しずつ安定してきてたの。

 毎日頑張る私をサポートしてくれて、少しずつ自然に笑えるようになってきて。

 

 それを壊したのは紛れもなく私。



 卒業式の日だった。

 その日、お母さんは式に現れなかった。

 式を終えて私は一人で家に帰った。


 ドアを開けると、中は静かだった。 

 最初、本当に誰も居ないかと思った。

 お母さん、どっか行っちゃったのかなって。


 そしたら


「……してどうしてどうして…」


 消え入るようなその声が私の耳に届くようになるまで、それほど時間は掛からなかった。

 

「どうしてこうなったのきっと私の協力不足ね私が教えてあげればよかったかもいやもっと早くからやらせていればこんなことにはそもそもこんなのあの子には無理だったのよもっと簡単なものを無理矢理にでもやらせていればいや駄目よ私そんなこと母親がやることじゃないお父さんにも叱られちゃうわでも居ないじゃないあの人はもう私一人しかいないじゃない一人でどうすればいいのどうすればよかったのよ一人の植物を抱えていやもしかしたら二人になるかもしれないしどうすればいいのよ私はどうすればいいの一人で生きていくのだって大変なのにどうして荷物を二つもああダメだ私母親失格だわそんな言い方ないじゃないもはや人間失格よもう私に生きる価値なんてないんだわさっさとみんなと同じところに行ってしまえば楽ないやだめだそれじゃジェシュタはどうなるの誰も身内がいない中一人ずっとベッドの上なんて可哀想だわでも私だって可哀想なのになんであの子だけそうあの子だからよ大切な子だもの私より大切なのあの子はなんでなんで子供は私より大事なの私はどうなってもいいの私はこれからずっとこうして生きていくのねそんなの耐えられないああ私がダメなんだわきっと私が……」


 お母さんの周りには一枚の封筒が散らばっていた。

 その中身は見ないでも分かった。


 私はお母さんが落ち着くまで、ずっと側で聞いていた。

 お母さんを刺激しないように隠れてだけど、ずーっとずーっと側で聴いていた。

 

 思考がそのまま声に漏れ、収束しない思考の螺旋をただひたすら唱え続けるお母さん。

 その声が少しずつ掠れてきて、だんだん何を言っているのかも分からなくなってきた。 

 


 ほとんど音がしなくなるまで、どれほど時間が経ったのだろう。

 私も泣いてたから時間感覚なんて無くなってた。


 ふと気がついて後ろを振り返ると、お母さんは床に倒れていた。

 唇は乾いて色を失い、涙の後でぐしゃぐしゃの顔は今もまだぐったりとして正気のしの字すら感じられない。


 私はお婆ちゃんに連絡した。

 お母さんの状態が危ないって。

 それでもう一つ言った。

 お母さんを入院させてあげてって。


 私はクッションと毛布を一枚持ってきて、お母さんに楽な体制になってもらった。

 お母さんの近くにお水とお薬を置いて、少しだけ散らかったお部屋を綺麗にした。

 自室に戻って遺書を書いた。

 雀の涙くらいしかない私の全財産を文鎮代わりにして、そこに置いた。


 私はお母さんを壊しちゃった。

 たくさん手段は与えてくれたのに、何一つ上手く使えなかった。

 私は失敗したんだ。

 何一つ成し遂げないまま、最後の親孝行すらできなかった。

 周りの人をたくさん尊敬してみたけど、やっぱり私じゃ駄目だったみたい。


 ねぇお父さん、私は誰を尊敬すればよかったのかな…。




「パーパちゃん、パーパちゃんって尊敬って言葉知ってる?」


 パラの群生地から拠点に戻る途中。

 私はパーパちゃんにそう尋ねた。


「そんけー?分からん!何それ、ウシャ!」


「尊敬ってのはね、魔法なの。そうすることで、勇気や希望を与えてくれる、前向きになれる魔法なの。」


「すごい!すごい!なんか分からんけど多分すごい!」


「あはは、そうだね。パーパちゃんにも、この子のこれが凄い!とか、あの子のあれが凄い!とかって思うこと、あるでしょ?そんな子のことを敬って、自分もそうなりたいと思うことが尊敬なの。」


「おお!じゃあパーパ、ウシャ尊敬してる?」


「うーんと、私じゃなくてもっとほら、例えばシャンティさんとか。グループのリーダーでかっこいいでしょ?」


 私はこのグループの中じゃ一番の役立たずだ。

 男の子のみんなは今だって狩りに出ていってくれてるし、アティーテさんやリタちゃんはお料理ができる。ニルさんだってさっきの採集の時知識がすごかったし、きっと今頃どれが食に適しているのか精査している頃だろう。


 私はいつも木偶の坊。

 でも、それでもいいの。

 私はみんなより劣ってる。だけどだからこそ、みんなを尊敬して人一倍頑張るの。

 そうすればきっと今度こそ、みんなの役に立てるはずだから。


「うん!シャンティ、凄い!パーパ、尊敬!尊敬する!」


 なんて無邪気なパーパちゃん。

 きっと、これが正しい尊敬の仕方なんだ。

 醜い私の尊敬とは違う。こんなにも透明な尊敬。

 パーパちゃん、私、あなたのことも尊敬しているよ。

 



===

「ねぇねぇアティーテさん、これ、ちょっと味見してみて!」


 ルシャを残して拠点に戻ってきた四人は各々、探検の収穫を扱った料理を試みていた。

 リタは何故か嬉しそうに、今できたばかりの液体をアティーテに差し出した。


「ちょっと何これ真っ白じゃない〜、あんたこれどっから絞り出したのよ〜?」


 そう言ってアティーテは恐る恐るその白色の溶液を口にする。


「ん、美味しい!これなんかのフルーツから搾ったの〜?舌触りもサラサラで変な匂いもないし、味は程よく甘くてすっごく美味しい!リタ、あんたよくこんなの見つけたわね〜。」


「えへへ〜、そうでしょ〜?」


「リタ、これ何から取ったか教えて!ニルにもっといっぱい取ってきて貰うわ!」


「え〜、多分元の素材知ったらアティーテさん、これ飲めなくなると思うよ〜」


「何もったいぶってんのよ〜、なんでもいいからさっさと見せなさい!」


 するとリタは隣にいたアスヤーに目配せした。

 アスヤーは顔を顰め、恐る恐るアティーテに真実を告げる。


「そ、その…アティーテさん…、これ、リタさんがこれをすり潰したもので…」


「ぎゃああああ‼︎‼︎」


 見覚えのある木製の器に蠢く楕円。

 その悲鳴は昨日のものと寸分違わず森中に鳴り響いた。


「だから言ったのに〜あはは!」


「ばっかじゃないのあんた!?アシュが帰ってきたら言いつけてやるわっ!」


「えええ…なんでよ〜…!」


「まぁまぁアティーテさん、リタさんはこれでもパタンブーカの卵を美味しく、それでいて見た目的にも抵抗なくいただけるようにしてくれたんです。これは素晴らしいことですよ?」


「何よニルまで…、まぁそれもそうなんだけどさぁ〜…」


 そんな話をしている四人のもとに、何やら草木をかき分けるガサゴソ音が近づいてきた。

 すると


「たっだいまーーーー!!!」


「バカ、あんま叫ぶな、ウルセェだろ。」


「あんなことがあっても元気があるのはいいことだね〜、うんうん。」


 何やら馴染みの深い賑やかな音が雑草の森から姿を現した。

 さらにそれとは真反対の方向からも何かが近づいてくる音がする。


「でもパーパ、ウシャも尊敬する!」


「うーん、あ、パーパちゃんほら見て、もうみんな揃っているみたいですよ。」


 そこには一人と一匹の姿が。

 そうして、数時間前に散り散りとなったみんなが遂に合流を果たしたのだった。



「あれ、なんでルシャだけ別行動なんだ?!ってかルシャ、お前のバッグパンパンじゃねぇか!」


「いや待って、それを言うならあんた達の方が凄いでしょ!?なんか見た目ボロボロだし…ってかそれより何よそのでっかい獣は!?」


 狩ってきた獲物であろう肉片をそれぞれ分担して持って帰ってくる数人の中、一際大きな巨獣を解体もせずそのまま背に担ぐ一人の少年の姿がそこにあった。


「誰か助けてくれ…俺もう歩けん」


「シャンティさん!!」


 時はすでにお昼を回っていた。



 数時間ぶりの合流に各々が成果を共有する。

 ドーラムで作戦会議を何度も行った経験が功をなし、この時の情報の整理も澱みなく進んだ。


「…まず俺たちは予定通り船に戻ったんだ。そこにある湖を監視しててよ、そしたらこれっくらいのキモイ鹿が現れてよ、そいつら捕まえようとしたらシャンティが危なくなってそれで…」


「ちょっと誰かサハ以外に喋らせなさい、意味がわからん。」


「えぇ…そんなぁ…!」


「だな、俺が説明する。鹿ってのは見た目の話だ。そいつは俺らにとっての普遍的な鹿サイズなんだが目が特徴的で…」


 彼らは通称鹿二匹の捕獲を試みる。

 しかし攻撃をギリギリのところで躱されたシャンティは彼らの反撃をくらい、常識を超えた速度で迫り来る鹿に危うく命を落としかけた。

 そこに現れたのは通称クマ、奴は元々鹿を狙っていたようで、シャンティ一直線になっている獲物を横から攫ったのだ。

 クマの荒々しい捕食現場に一時心を乱されるも、サハの素早い判断と正確な行動、それに追随するシャンティの援護により見事捕食中の奴を仕留めたのだった。

 遂に安心したのも束の間、アシュの後ろから新たな巨体が突然姿を現し今度こそ絶体絶命かと思ったその時。


「先生が一瞬で二体目のクマの両腕を切り落としたんだ。」


「なんと…!さすが先生です…!」


「いや〜、あれは危なかったね〜ちょっとでも遅れてたらアシュのポタージュができるとこだったよ〜あっはは〜」


「…冗談じゃねぇ。でも確かにあの瞬間は先生に救われた。とは言うけどよ、先生は先生で意味わかんねぇぜ?あの巨体をナイフ一本で切り裂いたんだ。」


「それでもこっちの重力の感じに慣れてなくてちょっと苦戦したんだけどね〜?本当はかっこよくパシュンと首を跳ねる予定だったんだけどさ〜。」


「せ、先生ってそんなに強かったんだ…。お、お兄ちゃんを助けてくれて、あ、ありがとうございます…!」


「いえいえ〜、そんなにビビらないでくれると嬉しいな。安心してくれ、君たちを宇宙の果てまで守ることが俺の役目だ。あ、でもそれはそうとして、君たちの危なっかしさもこれで痛感した。いい機会だし、実践ありきのナイフ、光銃、体術をお前らに伝授することにしよう。」


「おお!それは有り難いです!」


「え〜、それって私も入ってる〜?男どもだけでいいじゃーん」


「い、いやアティーテさん、わ、私たちも知っておいた方が…」


「そうだぞ!いつ獣に襲われるかわかんねぇんだ。自分の身は自分で守れるようになっといた方がいいからな!」


「話を戻すぞ。今言ったのが俺たちが体験したことだ。そしてこれらがその末の戦利品。食べられるか吟味してから試してみよう。」


「その役目、私にお任せください!」


「お!いいじゃん!で、そっちはどーだったのさ!」


「そうですね、それではこちらのグループの発表といたしましょうか、アティーテさん?」


「そうね!私たちは予定通りあんた達と反対側の森を散策したわ。アスヤー君の案内も受けながら、目につく植物や木のみ、きのこは全部採集したわよ!」


「そしてその過程で、パラというラズベリーに似た食感のフルーツを見つけたんです。するとパーパちゃんがパラの群生地帯を知っているということでして…」


「なるほど、それでルシャが一人そこに赴いた訳か?」


「そ、そうです!」


「でも一人じゃ危なかったんじゃねぇか?大丈夫だったかルシャ?」


「は、はい、き、基本的には大丈夫でした…。」


「なんだよその基本的にって。大丈夫だったならそう言えば…」


「パーパ、チクチク虫追い払った!!ウシャ、チクチクしようとしてたから、パーパ、腕ブン回して退治した!!」


「パーパ、それってもしかしてブリンガに遭遇したのかい!?ルシャさん、本当にどこも怪我は無いんですか?!」


「は、はい…」


「アスヤーくん、そのブリンガってのはなんなんだい?」


「彼らは群れで行動する羽虫の一種です。基本的にはこちらが危害を加えない限り安全なのですが、もし誤って危害を加えてしまうと大変なことになります。彼らの腹部には細い針が付いていて、それに刺されてしまうとその動物は皆、抜け殻になってしまうんです。」


「抜け殻…?」


「はい、まるで内部が液状化したかのようにドロドロに溶けてしまうんです。次第に皮膚にも侵食が広がっていき、ある時栓が抜けるように一気に破裂するんです。」


「げぇ…なんでこの星の動物ってそうやり方がグロいのばっかなのよ…」


「おいルシャ、お前本当に大丈夫なんか!?」


「は、はい…パ、パーパちゃんが全部一瞬で薙ぎ払ってくれたので…」


「なんだそれ、このちんちくりんがか?」


「パーパ、凄いもん!こーやって、ブンブンするの!」


「ほぉ〜、これは驚いた。こんなの俺たちも簡単にみじん切りにされちゃうね〜。ナイフ術を覚えるいいきっかけじゃないかい?」


「皆さんすみません、僕がもっと早く説明しておくべきでした…。パーパ含むパットラ族の子達は、この森のなかで1、2を争うほど強いんです。」


「すっげぇー!こんなちっちぇのにあの猛獣らより強いんかよ!」


「まぁ今のぶん回しを見れば説得力はあるな。広範囲攻撃だし威力も桁違い。先端なんか早すぎてソニックブーム起こしてるしな…」


「なぁ、それでルシャ、お目当てのパラとやらは手に入ったのか?」


「は、はい!パーパちゃんの案内してくれたところは本当にパラがいっぱいあって、これでもそのほんの一部なんです…!」


 そう言ってルシャは今にもはち切れそうなカバンを開いて見せた。


「なんと!素晴らしいですルシャさん!これだけあれば色々なことに使えそうですよ!」


「そうね、こんだけあったら色々試せそう。足りなくなったらもう一回収穫しに行けばいいってのも助かる点だわね。あ、もちろんパーパ同伴必須で。」


「オーケー、まぁなんだ、みんな色々あったようだがとりあえずは無事に合流できたことを祝おう。他になんか言いたい奴いるか…?いなければ今後の予定を考えたいんだが…」


「シャンティリーダー、俺からもう一ついいかな?」


 わざとらしい敬いを見せる先生に再度嫌悪感を醸しながらシャンティは答える。


「はい先生、なんですか。」


「これは結構死活問題なんだけどね〜、水、飲めないかもしれん。」

〜イルシャー豆知識その6〜

 ルシャはいくつもある医学試験に奮闘するものの、結果は敢えなく不合格だったんだ。

 衰弱した母親を置いて家を出たのち、ルシャは自らの生を絶とうとした。

 しかし、偶然エーカンテに勤務する一人の男性、そう、先生がその場面に出会し、ルシャを説得してエーカンテに招き入れたのだった。

 ルシャはその後、幾度か母親に会う機会を与えては貰っていたが、勇気が出ず一度も会っていないらしいぞ。

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