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第7話 メルティアの夢の続き+王都がやばい!?

「そこまで言うのなら一緒に行きましょうか」

「やったぁああぁぁぁぁあああぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!!」

「うわっ!?」


 もう、ビックリするじゃないですか。

 喜んでくれるのは嬉しいけですが、だからと言ってどこまで飛んだのか分からないくらい高くジャンプするなんて……って、えっ?


 さっき私が浮遊していた辺りよりも上まで飛び上がってるのですが、この光景は現実のものなのでしょうか?

 ローってただの体力おバカだと思っていたのですが、実は結構凄かったりするのでしょうか?

 騎士になる程度には戦えて、かつ簡単ながら魔法も使えるので無能ではないでしょうけれど。


 もしかしてウィンドドラゴンなら倒せるくらいに実は強いからさっきの私の魔法にも驚かなかったとかでしょうか?




 ……いや、ないですね。

 私が開発した戦闘力を測る魔法によると、ローの数値は2万くらい。

 一般的な近衛騎士さんが4万とかで、騎士団長でも10万いかないくらいだから、見事に新米騎士で間違いない評価ですね。


 あっ、でも、音によるスキャンの結果だから、もしかしたら雑音でしかない彼は上手く測れていないとか……なんてことがあったら、私の魔法技術の沽券にかかわるからそんなことはあり得ません。


 でも、体力というか、筋力だけであんなに飛べるものでしょうか?


 どさっ!!!!


「がはっ」

 

 って、なぜ受け身も取らずに落下して気絶しているのですか!?


 やっぱりアホの子ですわね……。






 


「でも、メルティア様が目指すものを手伝えるなら、なんでもやりますよ! 僕、本当に感動したんです。あの素晴らしい演奏……からの凄まじい魔法。あんなすごいものを見せられたら、もう……!」


 なにが『でも』なのか理解に苦しみますが、目を覚ました彼は全く変わらないテンションのまま、凄いとか可愛いとか素敵とか美しいとか言ってます。

 ん?

 言ってますよね?

 

「……あのね。さっきから褒めすぎなのですよ、あなたは。気味が悪いわ」

「いえ、本気です! だから、その……もし差し支えなければなんですが……」


 そこまで言って、ローは少しだけ視線を逸らした。

 おや? 妙に真面目な顔。珍しいですね。


「……メルティア様が、どうしてそこまで音楽にこだわるのか、教えてもらえませんか?」

「……」


 いきなり核心に触れるような質問を放り込んでくるのはなんなの?

 まったく、本当に空気を読まない人……でも、聞きたいの? 本当に?

 たぶん、引かれると思うけど。泣かれても困るのだけど。


「まぁ、いいです。覚悟して聞いてくださいね」


 私は空を見上げて、大きく深呼吸をした。


「私にはね、前世があるの」

「……はい?」


 やっぱりそんな反応よね。

 頭に思い描かれる前世の光景。前世の自分……。懐かしさはもう薄れてしまったけど、当時の自分の感覚はまだ残っています。


 これをすると今の自分と昔の自分が混ざってしまってよくわからなくなるんですよね。

 幼い頃は混乱してよく泣いていました。

 今は特に変わりはありません……しいて言うなら、ちょっと口調とかが前世に引っ張られるくらいです。

 

「この世界で生まれる前に、別の世界にいたのよ。前の人生では、私はずっと病弱で、寝たきりだったの。外に出ることも、自由に動くこともできなかった」


 ローが黙った。珍しく、茶化すでもなく、聞いてくれている。


「でも、そんな私に前世の両親……お父様やお母様、それから友達たちがね……音楽を教えてくれたの。元気が出る音楽を。毎日それを聞いて、生きてるって感じてた」


 胸の奥に、今でも響くような旋律が蘇る。


「でも結局は病気には勝てなくて……でも最後まで、耳だけは生きてたの。体が動かなくなっても、声が出せなくなっても。だから、ひたすら大好きな音楽を聴きながら心の中で強く願ったの。『次は、奏でたい』って」

「……」


 あの時の強い想い。決して大それたことではないけど、唯一残った私の想い。

 

「それで、目覚めたらこの世界だったの。王女というややこしい立場だったけど、それでもリュートがあった。前の世界で大好きだった“ギター”っていう楽器に似てたからこれで練習してたの。激しく鳴かせるにはちょっと貧弱だから、やっぱりちゃんと前世の楽器を再現したいんだけどね……。そして……今度は絶対に自分の音をこの世界に響かせたいの」


 私はリュートを抱きしめて、微笑んだ。


「この世界に、私の音楽を生み出す。それが、私の“夢”よ」


 しばしの静寂。

 その中で、ローが、ぽろり、と涙をこぼした。


「うぇっ、えっ……? えぇっ!? なんで泣くのよ!」

「だって……そんなの、泣くに決まってるじゃないですかああああああ!! 尊い……切ない……でも強い……。あぁもう、メルティア様って、最高に、すごい……!」

「ほんと、めんどくさいわね……」


 そんな風に思ってくれるなら、それは少しだけ、嬉しい。嬉しいけどなんか面映ゆい。

 

 もう敬語を使う必要もないわよね?

 私はもう王女じゃないし、ローは従者だし……って、平民の従者ってウケる……。

 

「じゃあ行くわよ。魔法学院に。寄り道はしないから、覚悟しておきなさい?」

「もちろんです! 雨でも雪でも砂漠でも、メルティア様の行くところならどこにでもついていきます!!」

「ほんとに……もう、勝手にしなさい」

「(よし……これでお風呂とかトイレにも……)」


 ごん!!!!!!

 

「なにか言ったかしら???」

「……」


 まったく……つい数日前まで王女だった女の子に対して抱く感情がガキすぎるのよ。

 もっと敬いなさいよ……。


 まぁ、あっさりと意識を手放したようだけど、これに懲りたらバカなことを言ったりはしないでしょう。

 

 

 私は一度だけ小さく笑って、前を向いた。

 どこまでも響かせる、自分だけの音を奏でるために……。







 





 □アッシュ・ノクスベルク公爵のピンチ



「どうなっているんだ!!!」

「はっ、申し訳ございません」


 目の前で怒鳴り散らす国王陛下に対し、私はひれ伏して怒りが過ぎるのを待っている。

 まぁ、怒りが過ぎ去ったとしても実際に発生した問題に対処しなければならないわけだが……。


 というか、問題に対処するのでとっとと解放していただきたい。


 玉座の間(こんなところ)で怒鳴り散らしていても敵は引き返してはくれないのだから。



 スガーーーーーン!!!!!!!


「なっ、なんだ!?」


 『なんだ』もなにもない。もう来たのだ。

 ウィンドドラゴンどもが。



「国王陛下! 外を! ウィンドドラゴンです!!!」

「バカな!? 騎士団はなにをしているのだ!」


 騎士団では無理だ。

 もともと群れることはないウィンドドラゴン1体に対して、部隊で遠目から見守る程度のことしかできないのだから。


 しかし、なぜやつらはここに来たのだ?

 メルティアを襲撃してくれれば、くらいに考えていたが、刺激が強すぎたのか?


「5体だと……」


 窓から外を見た国王が絶句している。

 5体……プライドが高く孤高を気取ったトカゲが同時に5体もやってくるなど、通常考えられないことだ。


「ラーゼス近衛騎士団長! 渓谷でのウィンドドラゴンの状況は警戒していたはずだ! 何が起きたのですか!?」

「なっ……ノクスベルク公爵!? あなたの指示で……」

「何が起きたと聞いているのです!」


 バカなことを口に出すなよ!?


「はっ……我々は例年通り渓谷から十分距離を取ってウィンドドラゴンの繁殖期を警戒しておりました。つがいを得る抗争に敗れたドラゴンが平原方向に出てこないように」

「それがなぜ5体も出てきているのですか?」

「くっ……(あなたが出すように言ったからだろう!? あえてウィンドドラゴンが嫌う"狂嵐の黒鈴"を……)」

「もういい。早く魔法障壁を! 王城を守るのです!」


 絶句したまま呆然としている国王に聞こえないように話しているそばからウィンドドラゴンが大きな口をあけて一斉に魔力を貯め始めたのが見える。


「公爵閣下! 畏れながら、既に魔法障壁は最大出力で展開しています! これ以上は無理です!」

「これ以上も何も……!?」

「アッシュ様! ブレスが来ますわ!!!!?」


 ズドーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!



 再び襲い来る衝撃に加えて、天井が降って来た。





「マジックシールド!」


 なんとか自らの魔法で衝撃を防ぐ。

 近衛騎士団長と婚約者殿は一緒に守ったが、国王陛下がいた場所は無理だ。


 ドラゴンが飛んでいるのにあんなに窓の近くで呆ける方が悪いだろう。

 それに今はまず敵を追い払わなければ。


 


「黒鈴を貸せ!」

「はっ!」

「アッシュ様!? それは?」

「王女殿下。耳を抑え、目を閉じておいてください。これは王国に伝わるアイテムです。ウィンドドラゴンが暴走した時にそれを鎮めるためのものですが、大きな音と光が出ますので」

「音? ……王家に伝わるアイテムが?」

「あまり考えられませんように。まずはこの窮地を脱します!」

「わかりましたわ……」


 ふん。

 女はバカなくらいがちょうどいいのだ。


 行け……"狂嵐の黒鈴"よ!

 ウィンドドラゴンどもを鎮めるのだ!!!!!!






 しかし……





「なぜだ!? なぜウィンドドラゴンが止まらない!? なぜ黒鈴が通じないのだ!?」

「公爵閣下、あぶない!!!」

「なっ、姫様!?」

「いやぁぁぁああぁぁぁぁぁあ」









□メルティア


 ローと2人で先へ向かっていると、響き渡るスマホの音……。

 えっ?


「メルティア様、それは?」

「これは私が作った魔道具なんだけど……って、えぇ?」

「どうしたんですか?」


この世界には存在しないスマホだが、どうせ通話相手もいないので、いろいろ魔法的なあれやこれやを弄ったら、特定の場所で起きた出来事を超神秘的な存在がニュースとして流してくれるようになったという、とんでも魔道具になりました。


 もちろん一番自慢の機能はあらかじめ設定した魔法を構築できる音楽を鳴らす効果ですが。



 でも、届いたニュースに目を疑います。

 それはさすがに予想外よ……?


「えっとね……どうも、私が見逃したウィンドドラゴンさんたちが、王城を襲撃したようで……」

「はっ?」

「王城は壊滅。ウィンドドラゴンさんたちの巣になっちゃったみたい。王都の民たちが怯えてるらしく……うん、行ってくるね」

「ちょっ、メルティア様!?」





 さすがに見逃したドラゴンさんたちによって王都壊滅とかになったら心苦しいので、慌てて王都に戻ってリュートをかき鳴らし、魔法を撃ったのです。


 殲滅?


 そんなことはしていません。

 ドラゴンさんたちには丁重に渓谷にお帰り頂きました。

 そして、何をとは言いませんが、あとくされなくきっちりと仕留めました。何をとは言いませんが……。


「女神様なのか……?」

「いえ、違います。追放された元王女です。大丈夫ですか?」

「あっ、ありがとうございます……その……とても綺麗な音色ですね」

「えっ、追放?」

「そうです。この音と魔法を組み合わせる方法が"魔物の所業"だと言われまして」


 私は傷付いた王都民たちのために崩壊した王城で癒しの音楽を奏でています。

 ちょうどよくドームのようにも見える状況になっていて、音が響いて魔法の効果が高いので便利だったのです。


 一応、生きていた貴族たちも癒しておきました。一応。あまり知らない人ばかりでしたし、しいて言うならローのお父様は助けることができてよかったです。


「そんな!? こんなに素晴らしいのに?」

「姫様のおかげで息子が助かりました!」

「王様や貴族の連中なんて普段何もしてくれないのに、こんな優秀な王女様を追放だなんて!」


 そうしたら少し嫌な雰囲気になってきました。

 私は自由に旅立つのでそろそろいいでしょうか?


 担ぎあげられるとかはごめんですからね?





「あぁ……メルティア……」

「お気づきになられましたね。ご無事でよかったですわ♪」


 無事、親族を一名発見したので、その方に全てを押し付けて私は退散しました。

 持つべきものは親戚ですね。






「良かったのですか?、メルティア様?」

「良いも何も、私の夢は音楽なの。あそこにはないものよ?」

「……ですね」

「あなたはついて来てくれるのでしょう?」

「もちろんです。世界中のどこにだって行きますよ?」

「ふふふ」

「だから今日から一緒に寝ましょうね。お風呂も♪」

「バカ!」


 ゴン!!!!!!



 ちょっとだけ暖かくなっていた私の心の責任は取りなさいよ?



fin

本作をお読みいただき、本当にありがとうございます!

実はこのお話、もともとは長編として構想・執筆していた作品です。

長編版はカクヨムで連載開始しております。

この後のメルティアたちの旅や、ぶっ飛んだ展開(!?)が気になる方は、ぜひ覗いていただけると嬉しいです!

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本作をお読みいただき、本当にありがとうございます! 実はこのお話、もともとは長編として構想・執筆していた作品です。 長編版はカクヨムで連載開始しております。 この後のメルティアたちの旅や、ぶっ飛んだ展開(!?)が気になる方は、ぜひ覗いていただけると嬉しいです!
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