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魔法少女からは逃げられない。何処までも追って来る魔法生物のマスコット【9】

「お前は主を守れるよな?」

「もちろんです。ヴァルキュリア」

「なら、俺が戻って来るまで、彼女を守れ」

「大いなる主の導きのままに」


何を言っているか多少理解に苦しむ所もあるがそれを確認している暇はなかった。

俺は走り出す。

時間が一秒で惜しいからだ。

魔法少女が与えたダメージがどれほどの物かどれだけ妖魔が動けるのか、

確認しなければいけない。

何倍にも跳ね上がった身体能力で動くのは楽しいと思えてしまう辺り、

俺にはまだ心理的余裕はありそうだった。

視界がクリアーだった所から少しづつ薄紫がかった霧の中を進むようになってくる。

それはいわゆる汚染エリアとも表現できる場所で、

妖魔が活動できることを示す場所だろう。

濃霧の中と表現できそうな空間であるが視界が悪化していく訳じゃない。

遠くも見えるし近くだってはっきり視認出来る。

ただ世界の色に紫が追加されていくみたいだった。

言い換えるなら一番近いのは現実の映像に、

サーマルセンサーの映像を重ね合わせたような世界だ。

あの戦闘していると思っていた悪夢の中で見た映像の正体がこれか…

等と頭の中で情報の再組立てを行っていた。

人間の世界に侵食する妖魔の影響圏内に自分がいる事を明確に理解できる。

それが恐ろしくもありけれど自分に明確に訪れて居たであろう、

危険な場所を知る事が出来る事が自分自身を、

安心させる事が出来る要因となっていた。

アドレナリンで興奮状態の割に一つ一つの条件をパズルの様に組み立てて、

状況をはっきりさせて判断している自分がいる、

どうしてここまで冷静でいられるのか…

簡単だ。

窮鼠猫を噛むって奴だ。

どうせ死ぬなら最大級のあがきを見せてやる。

弱者なら弱者として強大な妖魔と戦い次に戦う奴の為に、

傷を残しておいてやる。

それだけだった。

紫の配色の濃さが酷くなる方向に妖魔がいる事が解るのだが…。

近くなれば近くなるほど濃くなった色のせいで詳細な位置は解らなくなる。

俺にはこの濃さがあれば妖魔までの距離がどの程度なのか…

そういった感覚が無いからおおよその位置を掴む事は出来ない。

だがあの逃げて来てからの直線距離を考えて、

全方向へ一定の広がり方だとを想定するればおおよその距離は掴める。

とはいっても相手もでくの坊じゃない。

移動して此方を追跡する力があるのは、

魔法少女がここに逃げ込んだ事からも明らか。

だから追跡能力があると仮定してあとは妖魔の出方次第。

知能の低いバカであることを願いながら強い紫を感じる、

妖魔のテリトリーへと侵入していく。

此方をどの程度の精度で知覚できるのか解らないが、

それはもうこっちの存在を完全に把握されていないと、

掛けるしかない。

室内でなければ長距離の投射攻撃を仕掛けて相手の反応を見る。

という試し玉も使えるが今は室内。

建設中の高層ビルではそれも使えない。

だが多くの遮蔽物があり相手を死角から観察し肉眼で確認できる距離で、

行動を見極める事が出来るチャンスを与えられたと思えば、

悪くない判断だと思いたい。

少なくとも少ない戦闘経験を持つ魔法少女が無策で、

この場所に逃げ込んだ訳じゃないと信じる。

ここなら救援が来るまで耐えられる。

時間を稼げると思って逃げ込んだのだ。

消極的判断だが「守り」の戦闘をするならそれ相応に良い場所だという事だ。

階段を降りた先吹き抜けのある広大な空間が目に入る。

下層を見るには打って付けでその空間にもまだ妖魔らしき個体はいなかった。

すばやく太い柱の陰に身を隠しチラリとその吹き抜けから、

紫が濃くなった下を覗き込む。

さてどういった具合なのか…

下の空間には魔法少女が戦うにはちょっと不釣り合いな、

生ものがうじゃうじゃいる。

視覚で判定できるのは6匹から7匹程度か。

真っ黒い姿で形を正確に把握できないからどういった戦闘スタイルであるのか、

確認する事が出来ない。

ただ一応人型。大きさは俺と同じかそれ以下だろう。

しかし手と思われる部分には鋭い爪らしきものを確認できる。

その事からこいつらは魔法少女が張った結界を貫抜いた個体とは違う。

少なくとも2種類の妖魔がいる訳だ。


敵総数不明、敵種類不明、行動原則不明。


安全に戦うのに必要な情報が全くそろわない。

それは戦う前から解っていた事だ。

そこも問題だがそれよりも考えなくてはいけない事は、

何を持って俺は勝利と言えるのかだ。

結局先制有利を確保できる情報は足りない。

もうそれは仕方がない。

ここからは当たって砕けろ。

なる様になるさで場当たり的な対応でしかやっていけない。


此方の持ちうる最大の火力を弱点に叩き込む。

どんな妖魔であれ体のどこかに核がある。

それを見つけ出し潰す事が出来れば此方の勝ちだ。


ダンボール被って隠れるゲームよろしく、

死角と思われる所から初撃を叩き込む。

何処から攻め入るか何処を最初の一手にするか、

そんな事は決まっている。

妖魔が俺を感知した瞬間だ。

ギリギリまで情報は収集する。

急いで決着をつけなければいけない。

長引き取り逃がせば上階に置いてきた魔法少女に害が及ぶかもしれない。

その前にすべてを終わらせる。


あの魔法少女と逃げた階まで下りてきた俺は、

その視界に見えた世界に感謝するしかなかった。

見えたのだ。

巨大な影とその周囲にいる小型の妖魔達が。

どういう理屈で見えているのかなんで壁の向こう側にいる事を、

気付けるのかは解らない。

だが妖魔がいる事。

そして巨大な影を中心に小型の個体が数十体。

これを信じて俺は戦闘を開始する。

今は見えている結果だけを考える。

もう止まらない。

最初のターゲットは廊下の突き当り角の辺りにいる小型の妖魔。

染み渡り魔力が駆け巡るのかこういう事なのかと言わんばかりに、

何倍にも増幅された身体能力が俺の行動を支えていた。

廊下の際に見える死角にいた妖魔?の黒い塊に対して、

右腕に持っていたロッドの先端に硬い物がある事をイメージ。

角に滑り込むように体制を落として体を捻り思い切り振り払うのだ。

ロッドの先端は発光して光の塊を…

大きなハンマー状の形態になる。

それをおもいっきり薙ぎ払うように叩き付けたのだ。


―ズガン―


複数体いたと思われる妖魔は全て巻き込まれ、

俺が叩きつけたハンバーは巨大な建造物を支える柱を纏めてなぎ倒した。

それはコンクリートの壁とロッドの先に付けられた、

ハンマー形状の魔力の塊は壁で止まる事をよしとしなかった。

その数十センチあろう幅の鉄心入りのコンクリートをぶち抜いたのだ。

両腕で力いっぱい思い切り振り切ったのではなく、

片腕で最速の動きをイメージしつつの薙ぎ払いで、

何の抵抗も感じることなく振り抜けた。

もちろん壁とコンクリートに挟まれた黒い塊の妖魔は跡形もなくふき取んだ。

俺はその時確信する。

「何処まで出来るのか」が「何処まで殺れる」に切り変わった瞬間だった。

同時に穿いている靴の裏から焦げ臭い匂いがして来る。

思い切り踏み切って両足を滑らせるようにしながら止まったせいだ。

一気にゴムが擦れて溶けた匂いが漂ってくる。

着ているダボダボの制服も風に引っ張られる様になびいて肌に擦れて痛いのだ。

戦えることの嬉しさと同時に手加減をしなければいけない破壊力。

そして早く決着をつけないと激しく動いた先には衣服はびりびりに破けて、

マッパになっていると確信した俺はもう止まれなかった。

これは全力で動いた先にはとっても皆様に見せる事の出来る姿に、

なっていないのではなかろうか?

というか俺は服を着たまま戦闘を終える事が出来るのかを考えなくては、

いけないのか?

いやそれは後で良い。

今は生きて戦闘を終わらせる事が優先だ。

そして靴よ持ってくれ。

流石に素足で戦うのはきつい。


そう願いながら…


俺は紫色が強くなる世界へと走り出す。

もう妖魔もこっちの存在に気付いている。

だから残りの小さい妖魔達もこちらに対して動き始めていた。

壁の向こう。

建物の壁、障害物を避ける様にしながらこちらに最短ルートで接近しようと、

数体が集まって接近してくる。

高層に立てる事を前提とした強固なつくりの柱は一本壊して所で問題なさそう。

視界外に出られてやるぐらいならダルマ落としの要領宜しくこの階層をぶち抜いて…。

いかん。

上階には魔法少女がいる事を思い出して地道にちまちま潰すしかない。


だが妖魔が見える俺にはもう安全と堅実という2文字が抜け落ち始めていた。

圧倒的な身体能力と高揚感が俺を支配する。

それは初戦闘での初撃の威力と妖魔を消滅?圧殺?出来た事への安心感からか、

「殺れる」事狩る側にいられる嬉しさか。

そしてさっさと終わらせてこの息苦しい命のやり取りの感覚を終わらせたい。

その願望が俺を雑な戦闘へと駆り立て始める。


タワーディフェンスのゲームよろしく数体を纏めて相手をすればいいのであれば、

罠をはり待ち伏せするのが絶対に正解なのだ。

だがしかしもう待てない。

我慢できない。

俺は気分の赴くまま一番近くにいた、

妖魔の集団へと突っ込んでいく。

もちろん向こうは俺が来るのは解っている。

その体から生えている。

明らかに引っかかれただけでも一般人なら致命傷になるその一撃を左腕のボレロで、

受け止めたのだった。

バチバチと閃光が走り左腕に巻き付けていたボレロはその素材の効果なのか、

薄い盾状の幕を作り出し腕に巻いたボレロの表層でそれ以上の侵入を防ぐ。

握りしめる様に腕を掴もうとする妖魔だったがその突き立てた、

鋭い爪先は俺の腕に当たる事はなかった。

そうすれば今度その妖魔を裁断するかのようにロッドで、

妖魔の脇腹を力いっぱいぶっ叩く。

目の前の妖魔がその一撃をくらってまた吹き飛んで…

体を維持できなくなったのか消滅した。

もちろん連携を組んでいるのかその後ろからまた新しい妖魔が接近していた。

俺は倒れそうになる体を支えつつ踏ん張る事はしなかった。

構う事はない。

そのままくるりと体を一回転させれば今度はそのタイミングで、

ボレロを巻いた左腕が裏拳の様に物凄い衝撃で妖魔へと突き刺さる。

世界は俺にとってゆっくり動き更に接近してこようとする妖魔が見えるが、

俺はロッドはその妖魔へと向け「放て」と念じる。

次の瞬間大口径の対物ライフルをぶっ放したかのような衝撃が体を襲った。

すさまじい炸裂音と同時に視界に飛び込んできた妖魔達は、

そのまま綺麗に発射された光へと飲み込まれ、

その後ろにあったコンクリートの壁を何層も貫き焼失させた。

ドロリと溶けた構造材の鉄筋がその余熱でぽたぽたと溶け落ちる。

これは…

飛び道具は…

ロッドより質が悪い。

強力過ぎて本当にこのビルが壊れる。

だが嬉しい事にその穴が出来た事によって、

妖魔がまた寄ってたかって俺の真正面から現れてくれる。

後はその一直線に並んで向かって来てくれる、

妖魔達に対してロッドを左右に振り続ける簡単な作業をするだけだった。

周りの小型の妖魔が居なくなるまで一分もかかっていないだろう。

雑魚処理完了とばかりに俺は紫が酷くなり、

真っ赤になっかた空間へと走って飛び込む。

そこには大きな鎌をもった死神スタイルの妖魔がいた。


対峙する二人。

戦法を考え戦い方を考察する。

さあ慎重な立ち振る舞いでボス戦を始めよう。


…なんて気分ではない。

もう俺は止まらない。

とりあえず殴る。

持っているロッドに力を込めて光り輝くどでかいハンマーで殴り叩きつぶす。

相手の出方を見る余裕はない。

見るつもりもない。


ものすっごく危険な行為だとは思っている。

だがしかし俺の髪を燃やして込めた魔力の持続時間も解らんし、

なによりこいつは「悪夢」の中で戦っていた妖魔でもあった。

だから容赦はしない。

標準的な?妖魔かどうかわからんがともかく武器はその大きな鎌とでかい爪。

そして何かしらの飛び道具だった。


死神スタイルの妖魔は…

明らかに俺の存在に驚いているみたいだった。

初撃、周囲をまったく気にしない。

高速で大振りの振り下ろしのハンマー攻撃。

それにとっさに対応して妖魔は鎌を使って俺のハンマーを力強く受け止めた。


―ズガン!バギン―


という金属が擦れる音なのか何なのか解らんがそうやって鎌を使って、

妖魔は俺の攻撃を受け止めた…

つもりだったのだ。

しかしそれを俺は許さない。

まだだ。

もっとだ。

もっと燃料はくべただろう。

まだまだ燃えるはずだと。

もっと、もっと力を出せ。

まだ残っているだろう?

ロッドへ強く念じ続ける。

それだけで妖魔の持っていた魔法の鎌全体に俺のロッドから出ている、

光が絡みつきその鎌自体を飲み込もうとする。

べきべきと音を立てて俺の作り出したハンマーは、

妖魔をその場で押しつぶし始めた。


だがその力比べは唐突に終わりを告げる。

その鎌を妖魔は手放して思い切り後方へと飛びのいたのだ。

知能があるのか…

妖魔はその状況に納得できないみたいだった。

うそだそんなはずがないと言い何度も頭?を振って此方を再確認してくる。


―勝っていたはずだ―

―魔法少女の最終攻撃を防いだんだ―

―もう俺に敵はいない筈―

―後は、魔法少女を殺すだけ―


そんな余裕あふれる行動を取っていた矢先俺が唐突に現れ打ちのめされている。

そんな事がある訳がないとでも言いたそうな雰囲気だ。

少なくとも…


この場は完全に俺が支配した。

そして俺はもう戦闘を長引かせられない。

何故って?

俺の着ている衣服が持たない。

衝撃と熱さなのか解らんが何時の間にか袖の部分はちぎれ飛びズボンも同じく、

半ズボンになるまでちぎれ飛んでいた。

このままでは長々と戦闘をしていたら、

終わる頃には本当に裸で俺は生きて帰っても社会的に死ぬ。


後ろに飛びのけた。妖魔はとりあえず人間の形をしている事だけは理解できる。

そして人が使う様な武器を持って戦っているのだから、

「人」と同じ様な、構造である事を俺は願う。

後ろに飛びのいてくれたのならその距離を取った事を後悔させてやるだけだ。

ロッドの先がハンマーの様な形になるのなら、

槍の形にだってなるだろう。

確実に致命打を打ち込む為に俺は騎士が使うランスの様な、

先のとがった長い棒をイメージする。

そうすれば…


串刺しに出来る。


そのまま力の限り前へと体を押し出す。

作り直されたロッドの先の形状は必死に後退する妖魔に追いすがる。

逃がさない。

それを必死に回避しようと妖魔はそのランスに両腕の爪を突き立てて、

体に近寄るのを必死に逸らそうとしていた。

そんな事は許さない。

踏ん張り切れる限界の力で俺は足を地面に突き立てて堪えようと粘る、

そのランスの先を地面へと向けさせる。

後は力の続く限りランスを押し続け妖魔を膝まずかせる。

上段から地面に斜めになりながらランスの先は妖魔に接近し。

そのまま突き倒して妖魔を地面へと縫い付ける。

必死に抵抗する妖魔だっだが体に接触した辺りが力と抵抗の限界点。

そのまま体に張っていた防御幕を貫き…

動けない様にするまで追い込んだ。

だが地面に縫いつけても基本妖魔は活動を止めない。

妖魔の活動を止める方法はただ一つ。

その核を破壊する事である。


「まあ、核の場所なんて解らないし…

もうお前はこの場から動けない」


必死に爪に力を入れてランスを抜き取ろうと抵抗をしようとした妖魔を見て、

まあ思うところがない訳じゃない。

けれど仲良しこよしなんてありえない。

俺達を殺せると思って楽しんだんだろう?

そんな奴にかける情けはないのだ。


「死ねぇっ!」


最大限のイメージをロッドに叩きつける。

燃えろ。全てを燃やし尽くせっ。跡形もなく。

二度と姿を見せられないほど。

何もなくなるまで燃え尽きろ。

 

そのロッドの先のランスを物凄い熱を出しながら、

妖魔を包み込み目が開いていられない位の光の中で…

妖魔を焼失させた…


その輝きが無くなるころ…

俺の前には妖魔の核だけが転がっていて、

妖魔の体を構成するものは跡形もなくなっていた。

戦いには勝った。


けれど魔法少女が勝者となるにはやらなくてはいけない最後の仕事がある。

それは妖魔の核を壊す事。


これを行えるのは魔法少女だけ。

魔法少女の持つ魔法だけがこの核を壊せるのだ。

魔法少女にしか出来ない事。

魔法少女が必要な理由がそこに転がっている。


ただの石ころに見えるそれが、

この世界にある限り…

魔法少女がいなくならない証明でもある。


「核か…」


俺はその核をボレロを巻き付けた左腕で思い切り叩いた。


―ペキュン―



軽い潰れる音と同時にその核は簡単に潰れて…

俺は初めての戦いに勝利した…


そして俺は気付く。

戦いには勝利したが…

社会的には死ねる格好だった…



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