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魔法少女からは逃げられない。何処までも追って来る魔法生物のマスコット【6】

「きゅんきゅ!」


魔法省の人の俺が今日泊まっていくという判断を聞いた、

魔法生物は喜んで飛び跳ねている。

コイツは…

何喜んでいやがるんだと暴言を吐きたくなるのだが、

魔法少女を応援する一市民として、

相応しくないので言葉には出さない。

それよりもこの2面生をもちこれでもかというぐらい、

可愛らしい振る舞いを見せるこの魔法生物は何なのだ?

というか何を考えているのだと突っ込みたくなる。


俺の腕に絡めていた尻尾を解き放ち、

俺が帰れない事を確認した後に大きなモコモコの尻尾を、

振りながら魔法少女の足元にピッタリと寄り添った。

もう全て計算づくで動いていやがるねこの魔法生物は。


「この子がこんなに喜んでいるなんて…

一体何をしたんですか?」

「いや…

献身的にお世話をしてあげたからじゃないかな?」


絶対にそんな事はない。

冗談か本気か解らんが…

いやたぶん本気なのだろうけれど、

それは俺を魔法少女にする為以外思いつく事は無いが…

それを易々と受け入れる事が出来るほど俺は素直じゃない。

解放してくれなかった事に苛立ちを感じると同時に…

魔法省の人が俺をどうしたいのかも気になっていた。

俺を帰れない様にして魔法少女の相手をさせる事は、

たぶん俺にやらせたい事。

けれど俺を魔法少女にするって考えは持ち合わせているのだろうか?

持ち合わせていたら最悪なのだが…

なんか気付いていない様な気はしている。

もしも国ぐるみで行動を起こしているのなら、

変な説得をこの2週間で行われていると思ったから。

今は魔法少女のあの完全に壊れかけているメンタルをどうにかして、

戦わせたいってのが本音なんだろう。

俺に対しては意思疎通が出来ないふりをしている魔法生物。

あくまで話すのはパートナーの魔法少女だけ。

だから特別なパートナーなんだよっていう特別な演出も忘れていない。

あれだけ訳の解らない話し方をしてペラペラと喋っていたのに、

今は俺に対しては何一つ話しかけてこない。


「えっと、その、移動しますか?」

「あー、はい」


しかしきついリハビリが終わって汗ダラダラの彼女はもちろん1人では動けない。

だから手を出してあげて立たせてあげたりとかしなきゃいけない。

もちろん俺はやらない。


「それじゃぁ人を呼んできますね」


俺はその場から離れられる別の理由を手に入れた。

と思ったがもちろんそんな事は許されない。


「大丈夫です。ブザーを鳴らせば来てくれますから」


ボタンを押すや否や直ぐに先程リハビリを手伝っていた看護婦とは、

別の人が部屋に入って来る。

扉の外で待機していたみたいだった。

…これは俺が魔法少女を襲うとか思われていて、

直ぐに突入してくるつもりだったという事だろうか?

まあ手厚い看護を受けられるのだ。

嬉しい限りだね。

魔法少女のバックアップは充実していたって事なのかな?


「汗もかいていますから、お風呂に入りましょう」

「はい。お願いします」


そうか。

まあそれが普通だよな。

手慣れた手つきで魔法少女を車椅子に乗せる看護婦はそのまま部屋を後にした。

ちなみに此方を見る目は冷たい。

そらそうだ。

病院の機密エリア?で大切に治療している魔法少女に、

男子禁制の場所っぽい所に男の俺がいるのだからこれじゃ針の筵だよ。

さっさと帰してほしい。

さてそんな訳で…

俺はその部屋にまた一人放置される事になる。

もちろん何処へも行かない。

忘れられるのならば本望で、

嬉しい限りだ。

夜ごはん抜きは成長期の俺には辛いが勝手に出歩いて、

何気なく開いた扉の先にあった物は一般人には決して見られてはいけない、

特別な物でそれを見てしまった俺は否応なしに組織に組み込まれ、

戦いに参加しなくてはいけなくなるとか?

ありそうで怖すぎる。

ここが魔法少女用の機密エリアであると明言こそされてはいないが。

その仕込まれた地雷はとても大きそうに見えるのだ。

だって…


魔法少女を連れて行った看護婦は、

このリハビリ室の扉を開けたままにして出て行ってしまった。

まるで勝手に出て行ってくださいと言わんばかりに。

廊下に出る程度ならまあなんとかなるとも思えるが…

そこには機密資料を運んでいる職員が…

なんてオチまで仕込まれていたら本当に笑えない。

俺は迎えが来るまでひたすらに待つのである。

危ない地雷原を安全に動くには絶対に水先案内人が必要で、

それは俺を連れてきた魔法省の人しかいない。

なので彼女が迎えに来てくれるまで俺はひたすら待つのである。


病院の中だからもちろんスマホも使えず。

俺はただひたすらにゲームをして時間を潰していた。

さてそんな無駄な時間を過ごす俺は、

これからどうすっか色々と考えておかないといけない。

対、魔法少女と対魔法生物に対してだ。

魔法少女の環境はあまり良くない事は考えるまでもない。

下手すると彼女のトラウマを抉る事になり、

酷い取り乱した状態になるんじゃなかろうか?

そして特別な関係になってしまったらエライ危険な目に合う事だけは、

確定事項だと判断しておいた方が良い。

魔法生物の考えている事は単純だ。

俺を魔法少女にしたい。

それが主の事を考えてなのかそれとも戦力になりそうな奴を、

見つけたからなのかは解らない。


しかしだ…


何方の判断が正しいとしても求める結果は同じなのだ。

どうやれば男を女に出来るのか解らんが、

異世界?の不思議パワーはそれをも可能にするんだろうねぇ。

と、それ以上考えている時間は俺にはなかった。

そのタイミングで魔法省の人がやってくる。

来なくても良いのに。

あ、それはそれで困るか。


「…お母さまの許可が取れたわ。着替えも持ってきてくれるそうよ」

「そうですか。で、俺はどうしたら良いでのですか?」

「…あの子の、心の支えになってあげて」


うっは、出ましたよ!出ました!

こころの支え。

それを外部の人間に託すとかどう考えても、

魔法少女のケアに失敗したって宣言じゃん。

何だよそれ。


「さっきの取り乱し具合を見たでしょう?

もう私じゃあの子の心を傷付けるだけなのよ…」


どれだけの不幸の言葉を掛けた上に酷使したんだか解らない。

だがここでハイでYESな返答は俺を地獄に叩き落とす未来しか見えないのだ。

今までだって極力魔法少女の事は聞かなかったし俺の事を話してこなかった。

それは一般人の枠をはみ出ないための最大級の俺の努力。

その努力を無にする言葉が心の支えである。


「無理ですと、はっきり申し上げたはずですが?」

「わ、私だって…出来る事なら、あの子を慰めてあげたいのよ。

でも、もう私の立場じゃ出来ないの」

「それを俺に求めるのは間違いです。

理由は多々あるのでしょう。

けれどそれを知ろうとも思いません。

「あの子は特別なの。特別な魔法少女なの」

「そうですね。魔法少女は特別ですから」

「違うの!そういう意味じゃないの!あの子はっ!あの子はねっ!」

「それ以上は、機密情報に該当する事も含まれる事じゃないですか?」

「っ!」


エライ人は色々な事を知っている。

なんていうかさ、解っているんだよなんとなーく何言いたいのか。

けど俺はそれを喋らせない。

喋らせてやらない。

魔法省の人はたぶん失敗した。

悪夢の中で俺は戦闘シーンを見続けた。

だから解ってしまうのだ。

足りないピースの戦闘。

いくらなんでも魔法少女が強いって言われていてもよくあるモノが、

悪夢の戦闘シーンには映らないのだ。

まあ単騎最強ならそれでもいいのだが危ない戦闘を、

わざわざ一人でこなす理由が解らない。

それが気高い魔法少女なのだ!と力説されればもうそれ以上言えないが、

そうじゃないだろうに。

あの戦闘の仕方は平凡な戦闘…と表現すれば良いのか可もなく不可もなく、

あの魔法少女には確実にペアを組んでいた「誰か」がいたんじゃないかと思う事が、

何度かあった。

それをたぶん失っている。

おそらく「引退」という言葉がさっき真っ先に出てきたのだ。

少なくとも近しい魔法少女が引退に追い込まれるような、

戦えなくなる様な重体を追ってしまった事は知っている。

大切な誰かがあの魔法少女の近くにはいない。

そしてその代わりになれる人がもうこの魔法少女の近くにはいないのだ。

それを補充してやり魔法少女を守るのがバックアップの役目であり、

直接戦わない魔法省の人の仕事だろう。

けれどこの魔法省の人はその役目を果たせていない。

その果たせない用意できない、

「心の拠り所」とやらをこの魔法省の人は外部に求めた。

もう内部に支えられる人がいない。作れないと宣言しているに等しい。

準備を怠った魔法省の人の致命的なミス。

その尻拭いはごめんなのである。


「仮りに俺がその魔法少女の「心の拠り所」となれたとして、

俺に何が出来るんです?

頑張れ頑張れと、言って励ますだけですが?

それって壊れかけの機械の寿命を一時的に伸ばすだけで、

何の解決にもならないですよね?

なんとなくですがアナタは一人の魔法少女専属の担当官の様な人ではなくて、

何人もの魔法少女を束ねる統括者ではないですか?

だったら新しい魔法少女を連れてきて彼女に宛がえば良い。

それで解決です。

その子が「心の支え」になるでしょう。

外部のそれも何も知らない異性を宛がうより、

理解できる仲間意識を持つ子の方が何倍も良い」


俺のその意見に魔法省の人が目を見開いていた。

俺はたいした事は言っていない。

同時に魔法少女の補充をして貰えない事もなんとなく解っていながら、

魔法省の人に別の解決策を提示する。

俺が「心の支え」になんてならなくても良い、

俺にとって都合の良い言葉を並べるのだ。

魔法少女の人数は機密事項だろう。

どれだけ余剰人員がいるかそれを教える事は出来ない。

何故って補充できない状態で魔法少女が負けたら、

その地域は妖魔に支配されるという不安をあおる事になる。

だから俺が言ったその言葉に対して補充がいないとは、

魔法省の人は口が裂けても言えないのだ。

外部に助けを求めているのだ。

内部の状況はやはりお察しなのだろう。

そして切羽詰まったこの状況で魔法省の人は俺を、

ギリギリまで酷使するつもりな事が透けて見えてくる。

自分の評価を下げたくないのかどうなのか?今の俺には解らないが。

余裕のなさを感じさせてくる上に他人様を地獄の様な場所に、

叩き落とそうとしている辺り本当に余裕がないのだろう。


「その考え方が出来るから…

きっとあの子の「心の支え」になれるって…」


この期に及んで俺を使おうと考える辺り救えない。

救いたくもないが…

なんで俺がこの魔法省の人の尻拭いをしなければいかんのだ?

ダメだ。

もうこれ以上は抑えきれない。

きっとのらりくらりと言葉を交わしても結果は変わらない。

協力できないとはっきり言わなくちゃこの魔法省の人は諦めない。


「はっきり申し上げさせてください。

アナタから漏れ聞こえる言葉は、

「守るべき一般市民を故意的に危険にさらす」事を、

容認する言葉ですよ?

それが許されるのですか?

俺の母さんもなんと言って説得したのかは知りませんが…

本当の事を言ったんですか?

まさかと思いますが、

「非常事態で病気のお友達を慰めるために病院に泊まります」

とか言ったりしていないですよね?」

「っ!だ、いじょうぶよ」


…慌てふためきようから考えて図星かよ。

魔法少女の組織の内情も知りたくないし関わりたくもない。

それでも関わらせようとするのだから、


「なら今日の宿泊だって取り消しにして貰いらいたいですが?

もう魔法生物は魔法少女に返しました。

俺の役目は終わったはずです」

「…それは、お願い…だから」


あ、ダメだ。

これ帰った方が良い。

この魔法省の人と会話をすること自体が無駄だわ。

そして話を続ければ続けるほどなし崩し的に関わらせて既成事実を作って、

巻き込まれるパターンだ。


「帰ります。出口に案内してください」

「考え直して…」

「案内しろって、言ってんだよ!」


俺は完全にブチ切れた。

案内しないなら案内しないでもう良い。

余計な物を見ていないという証明が欲しかっただけで帰り道の順序は解っている。

だから帰ろうと思えば一人でも行けるのだ。

だが魔法省の人は動かない。

もういいや。

俺は魔法省の人を置いて歩き出した。

後で魔法少女に言い訳でもなんでもすると良い。

俺は知らん。


そして来た道を順序良くたどって外に出た。

タイミングよく母さんが着替えを入れた鞄を持ってやって来た所だった。


「あ、あれ?お見舞いは?」

「終わったから帰ろう」

「う、ん?」


どうして病院の外にいたのか、

理解していなさそうな母さんの手を取って俺は母さんと二人で家に帰る事にする。

けれど連れていたモコモコの魔法生物を抱いていない。

事に気が付いて。


「あの子は?」

「魔法少女の所に帰ったよ」

「あら、そう。残念ね。モコモコで可愛かったのに」

「預かっていただけなんだから。諦めてよ」

「癒しが一つ無くなってしまったわぁ」


なんでもない会話をしながら俺達は家に向かって歩く。

そしてその日からまた魔法生物のいない。

ごくありふれた日常が始まるのだ。


そうこれはこの数週間で行われた…

ちょっとした不思議な出来事でちょっとした非日常の的な日々。

だからまた普通の日常に戻るはずだった。


はずだったのだ…



魔法生物との邂逅から役2か月後…

俺は何時もと同じ朝を迎えていた。

学校に行くため制服に着替えいえの扉を、

何時もと同じ時間に開く。



そこには女の子が立っていた。

よくテレビで見かける魔法少女専用に作られた、

魔法少女しか着る事を許されない普通の制服のデザインから、

かけ離れた愛らしい真っ白な制服。

一着一着がその子専用に作られるオーダーメイドで、

各々の生活スタイルに合わせてカスタマイズされた特殊な制服…

魔法少女用制服を身に着けたあの病院で一度だけあった彼女が家の前にいた。


「おはようございます。良い朝ですね」

「おはようございます。そうですね」


俺はまだ夢の中にいるんだろうか?

そんな事を思いながら彼女はにっこりと微笑んでくる。

そしてもう一つ嫌な物を見てしまったのだ。

彼女のすぐ近くにはモコモコの生き物が2匹いる…

それが何を意味しているのか今の俺には考えたくなかった。



俺に最低最悪な事態が近づいて来ていた。

逃げられたと思っていた考えは甘かったとしか言えない。


自分を見失うな主人公。

けれど魔法少女の足元にいるのは、

もちろん主人公の為に用意された魔法生物だ。

それが何を意味しているか…

解るね?

さあ!運命の時が近づいてまいりました!


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