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魔法少女からは逃げられない。何処までも追ってきた魔法生物のマスコット【5】

全身汗だくになりながらリハビリを終えた魔法少女は、

看護婦に支えられて壁際の椅子に座らせられた。

その顔には安堵感が生まれていて肩を大きく上下させながら、

看護婦達にマッサージをして貰っているみたいだった。

薄っすらと涙を流した後もあり所々体に取り付けられている、

介護器具の存在も痛々しい。

器具を取り外して汗を拭いてもらいまた取り付け直されたりと普通の人なら、

リハビリするのはまだ早いんじゃないかと思わせる過酷そうなリハビリも、

魔法少女はやり遂げる。

その強靭な精神力はやっぱり魔法少女ってエリートなんだねー、

って思わせてくれるくらい気高い存在の証だった。

あの悪夢で見た戦闘の後2週間程度でここまで治療が進んでいて、

体が治ってきているのだから大した回復力を通りこして…

化け物じみた再生能力を持っているんだなぁと感心してしまっていた。

そりゃあ医師の指導も厳しくなる。

そしてやり遂げてしまう力もあるからやっぱり魔法少女は特別だ。

そんな彼女だから当分は大丈夫だろ?

周りの人が心配するような事はないんじゃないかな?

また回復したら皆の為に戦ってくれるさ。


「よく頑張りましたね」

「うん…」

「お疲れ様です」

「う、ん…」


なんとか返事を続ける魔法少女は看護婦にかけられる言葉に、

何とか返事をしている状態だった。

まぁリハビリって苦しい事だから仕方がない。

看護婦さんが言っていたみたいに仲間の魔法少女の為に頑張ると良い。

そして魔法少女の息が整った時を見計らって魔法省の人は近づいて行く。

俺は近付いていて良いのか解らないから…

取り敢えずその場で待つことにした。

魔法少女はその魔法省の人に気付いたみたいで、

その魔法省の人の顔を見ただけで泣き顔になっていた。

おいおいおい、

どれだけ恐れられているんだこの魔法省の人は?

そして話し始める魔法少女の言葉は悲痛な叫びとお願いだった。


「ま、たま、妖魔が出たんですか?

も、もう、戦わなければいけなせんか?

私、まだ、まだ戦えるほど…」

「落ち着きなさい」

「お、お願いします!もう少し!もう少しで良いんです…

まだ、まともに動けません。

こんなんじゃ本当にもう…

歩けるようになるまでで良いんです!お願いします!」

「違うから。違う要件だから!」

「じ、じゃあ、誰か、誰かまた引退したんですか?

それとも、長い散歩ですか?

ま、まさか、素敵な変身を?」

「黙りなさい!」


大声をあげで魔法少女の言葉を遮る魔法省の人。

この人どんだけ魔法少女に恐れられているんだよ?

うわぁ…

何これ?なんで俺はこんな風景を見せられているんだ?

勘弁してくれよ。

そこには勇敢で皆の為の強い魔法少女の面影は一切ない。

機密エリアのリハビリだから誰も見ていないと思っているのか…

思いっきり弱音を吐くシーンを見せられてしまった。

しかもどう考えたっていい意味で使われる事の無さそうな、

隠語が含まれた会話だった。

いやぁなんというか追い詰められているねぇ魔法少女。

なんとなくだが「長い散歩」はパートナーの魔法生物がいなくなること辺りか?

「引退」はボロボロになってリハビリしても回復出来ない状態になったって事かな?

「素敵な変身」は別の魔法少女が重傷を負ったって所だろうか?


「大丈夫よ。今日は良い知らせだから」


おい、今日「は」って言ったぞこの魔法省の人は。

普段どれだけ酷い報告をしているのか考えたくないね。


「アナタのパートナーを連れて来たわ」

「え…、生きて、生きていたんですね!

ど、何処にいるんですか?直ぐに会えますか?合わせて下さい!」


魔法省の人は俺を手招きして…

近くに来るように促した。

今の俺は学校の帰り道。

制服姿であり特別な格好もしていない。

だから目立って印象を与える格好ではない筈だ。

その腕の中にもこもこ魔法生物を持って俺は彼女に近づいて行く。


「あ、ああっ、本当に生きて…

いきてて、くれたっ!」


完全に泣き崩れた魔法少女に俺は魔法生物を差し出した。

魔法生物は可愛らしく「きゅん」と返事をしたのだった。

あの悪夢が本当に魔法少女の戦闘シーンであれば最後の自爆特攻の様な、

戦闘の最終局面で魔法生物は魔法少女の前で強大なバリアーを張って、

魔法少女を守っていた。

あのシーンが本当ならこの魔法生物はその後爆風と共に地表に落ちて、

道端に転がった事になる。

そこを俺が見つけてしまった訳だが…

よくぞまあそういった意味では魔法少女の言う通りよく生きていたもんだと思う。

魔法少女は動かせる無事な方の腕で何とか魔法生物を抱きかかえようと、

必死に片腕を動かして俺から魔法生物を受け取った。

そして自分の膝の上に置くと優しくその頭を撫で始めたのだ。


「えへへっ。

僕が君を置いていなくなるなんてそんな事は絶対しないよ。

だって僕は君のパートナーだものっ」


そう言いながら優しく撫でられる手に魔法生物はスリスリと可愛らしく、

顔をこすりつけていた。

…なんだそのしゃっべり方と態度は?

俺に話しかけて来る時と大きく違うじゃねーかと突っ込みを入れたくなったが、

感動の対面を邪魔するほど俺は野暮じゃない。

受け渡した瞬間魔法省の人よりも後ろに下がって気配を消すようにした。

あくまで俺はこの魔法生物を運んできただけ。

そうそれだけなのだ。

そして魔法少女が喜んでくれたら一市民としてこれ以上喜ばしい事はない。


「もう、もうだめかと思って…」

「大丈夫だよ!僕がいる限り君を守るから!」

「そう、だね…」


なるほどねー

パートナーである以上に戦闘時最後の生命線として心の支えでもあるんだな。

等と思いながら感動の再開の時間は続いて行った。

魔法少女と魔法生物の会話はとめどなく続いて行く。

その会話に割って入ってはいけないと思えるほどには嬉しそうに会話を続けていく。


「あ、あの、ありがとう御座いました。

この子は私の大切なパートナーで…

その、助けて戴いて、嬉しいです」

「いえ。偶然です。

しかしこうして貴女の所に連れてくることが出来て良かったです」

「はい。

もう2週間も帰って来なくて…

長い散歩に出てしまったんだって…

諦めて新しいパートナーをとも、

考えなきゃいけない所まで考えていたんです!

この子がいれば私はまだ頑張れます!」

「…そうですか」


まだ頑張れる。

この魔法少女の心はまだ折れてはいない。

それは安心できる。まだ戦えるって事だ。

これで「正義」の戦いを続けてくれるのであれば安い物だ。

俺もこの2週間悪夢に耐えた甲斐があったというものだ。


「あ、あのお礼を…」

「必要ありません」

「けど…」

「1市民として役目を果たしただけです」


予想外だが魔法生物は魔法少女の下に戻った。

だから俺は魔法生物の世話をもう終わりに出来る。

今日で悪夢とおさらばだと俺はこの時勘違いしていた。

が、これがトリガーとなったのかもしれない。

がめつくお礼を求めていたらきっと良かったんだと思う。

お礼さえ受け取ってしまえばそれで関係が終われる。


だが俺は間違えた。

この重要な局面で間違えたのだ。

俺は最後の挨拶がてら魔法生物の頭を撫でようとした。

俺からのお別れの挨拶のつもりだった。

もうここに置いて帰れる。

関係は終われるという嬉しさが俺を支配していたのだ。


が…


「きゅん」


可愛い声と共に魔法生物は物凄い力で俺の腕に尻尾を絡めて来たのだ。

一瞬の出来事で俺は戸惑ったがすぐさま引きはがそうとして、

魔法生物の尻尾を掴もうとする。

が、物凄い力で尻尾を腕に絡めた魔法生物は俺の腕を離さない。

意味が解らんがそれ以上に尻尾を絡めた事によって、

明らかに…普通の人間に対してする行動ではない、

何かを訴える行動を魔法生物は起こしていた。


「どう、して?」


魔法少女は物凄く悲しそうな顔をする。

そりゃそうだ。

無事に帰って来てくれたパートナーが、

別の人の腕に絡みついて離れようとしないのだから。

それでも俺は冷静に対処をする。

ここで取り乱してしまったら相手の思うつぼだからだ。


「…まあ2週間ほど世話をしましたから。

それなりに愛着を持たれても仕方が無いですよ。

お前の主はこの子だろう?

名残惜しいのかもしれないけど離れてくれないか」


そう俺は宣言したのだ。

けれどその言葉を聞いた魔法生物の瞳には、

ギラついた物を感じていた。


そして「きゅん」と小さく鳴いてこのモコモコ生物は、

魔法少女の手も掴んだままでいる。

うぜぇ。

このまま無理矢理引きはがして魔法少女に押し付けてしまいたいが、

それを守るべき愛される市民が行うのはとっても良くない事だけは、

理解できている。

今の俺は「守ってあげなくちゃいけない市民」でいなくちゃいけない。

だから乱暴に引きはがす事なんて論外だ。


言葉は理解しているはずなのだ。

だから極力優しそうな言葉をかけて、

離れるしかないのだ。

というか離れないと魔法少女が泣く。

泣いてしまう。


「きゅん」


これは…

コイツは…

ワザと俺を引き留めようとこういった行動をしているのか?


「今日は遅いんで…

そろそろ帰りたいんだよ。放して」

「きゅん?」


…殴りてぇ

気付かないふりして離さない様にしようとしてやがる。


「…ご両親に連絡しておくわ。

今日は泊まっていって良いわよ。

部屋を用意してあげるわ」


深いため息をつきながら魔法省の人はインカムを使って、

何かの指示を出していた。


「…えーと、つまり?」

「今日はそうね。

リハビリも終わった事だし気分転換も兼ねて、

アナタたち3人で色々とお話をすると良いわ」

「え?」


魔法少女はそのいきなり決まった予定に困惑しながらも、

ゆっくりと頷いて小さく「解りました」と、

魔法省の人に返事をしていた。

待てやこら。

颯爽と帰る予定は取り消しとなり、

女の子(+魔法生物)と二人きりでお話をしろとは。

あ、でも魔法少女に掛かれば俺なんて簡単に撃退できるか。

危ないの俺じゃねーか?と気づくまで数十秒。

俺は魔法少女の相手をする事になる。




あ、危ないぞ主人公!

魔法少女との仲を深める事に。なってしまったではないか!

大変だ!このままでは、機密事項を知っている事がバレてしまうかも?!

そうしたら、魔法少女の沼に引きずり込まれてしまうぞ!

深い仲の協力者として、これからも魔法少女との付き合いが続いてしまうぞ!

どうする主人公!


(まあ、もう手遅れですね)



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