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魔法少女からは逃げられない。何処までも追ってきた魔法生物のマスコット【4】

「そろそろ私の主の状態も回復しつつあるだろう。

様子を見に病院に連れてってくれないかね」

「わかった」


魔法生物の言葉に俺はちょっと安心た。

集中治療室の様な場所であったあの魔法少女は素人が見ても重傷だった。

まぁ病院の集中治療室に搬入された段階で只事でない事だけは、

理解しなくちゃいかん事だ。

主とやらの魔法少女とも不思議パワーのでこの魔法生物は繋がっているのだ。

たぶん。

主の回復も…

きっと不思議パワーで解ってしまうのだろうさ。

あまり深く考えず…

俺はこの魔法生物を病院に連れて行く事にする。

というか回復したのならもう俺は用済みだろう。

別の誰かから魔力をちゅるちゅる吸い取る必要は無くなったのではなかろうか。

さっさと返却したいぞ。

この悪夢を見せる魔法生物を。


学校の帰り道、俺はこの魔法生物をその主となる魔法少女に合わせるべく、

病院へと向かった。

少し考えれば解かる事。

そこで俺は見たくもない物を見せれる羽目となる。

常識の刷り込みは恐ろしい物がある。

この期に及んで俺はまた特別な魔法少女を連想していたのだ。

魔法というスーパーな力によってどんなに重症の患者でも、

もう起き上がって退院するぐらいに回復していると。

週刊で放送されるアニメの主役の様な、

次の週にはぴんぴんしているって勝手に思い込んでいたのだ。

2週間前は包帯ぐるぐる巻きのベッドに寝ていた魔法少女は、

もう普通に生活できるレベルに回復しているに違いない。

だから元気な姿でこの魔法生物を受けいれてあともう1週間も預かれば、

俺の役目は終われる。

勝手にそう思い込んでいたのだった。


病院に付いた俺はまた魔法省の人を探す事になる。

まあ厳重に守られる魔法少女だ。

簡単に護衛の人は見つける事が出来るし。

俺はその人に魔法生物を見せて取次を頼んだのだった。

省内でならお役所仕事の縦割りも少ないのか、

俺はそんなに待たされる事なくその魔法省の担当の人に会う事が出来た。

とはいえその人も暇じゃないのか病院の個室を借り切って、

そこを簡易の事務所代わりにして書類仕事に熱中してたが、

案内された俺が室内に入ると手を止めて俺の対応をしてくれる。


「2週間ぶりですね。此方は見ての通りなので…

出来れば用件は手短にお願いしたいの」

「そうですね。では手短に。

預かっている魔法生物が主に会いたがっていたので連れてきました」

「…そう。付いて来て」


書類仕事のじゃまをされたのがそんなに気に入らなかったのか…

それともそれ以上のトラブルを抱えて大変な事になっているのか、

解らないがそれは俺には知らなくていい事だし。

これ以上機密っぽい魔法少女の裏事情を知りたくない俺は、

会話も最小限に抑えたい。

だからこの魔法省の人がたとえ何かを聞いて欲しそうにしても魔法生物が、

俺に悪夢を見せている事も訴えない。

見せられ続けている悪夢を原因にして会話に花が咲くのが嫌だった。

あの無理矢理預かる事になった魔法生物の時と同じく失言を取られ、

何かを要求されたらたまらない。

俺は警戒度MAXでこの人とは最小限の会話だけで留めるのだ。

その俺のドライな対応に出鼻を挫かれたのがそれ以上会話を、

続けることはしなかった。


俺は「はい」とだけ返事をしてその魔法省の人について歩く。

ゆっくり目に歩いて向かう先は魔法少女がいた集中治療室とは違う別の場所だった。

そこにいたのは魔法少女と…

その担当医。

それから介助して歩かせる看護婦が2名の4人で魔法少女を取り囲んでいる。

その部屋には窓はなくエアコンで空調を聞かせた部屋で。

スポーツジム顔負けのトレーニング機器が揃った空間だった。

その奥に作られた特別な場所。

2本のバーが並行に並んで立っている。

そのバーを握りしめながらバーの間を先生に様子を見られながら、

二人の看護婦の手を借りつつ魔法少女は歩いていた。


魔法少女の額からは脂汗が噴き出て着ている物も彼女から噴き出した、

汗でびっしょりと濡れている位に激しいトレーニングをしている様に見える。

ハァハァと荒く息をして体中が痛いのであろう事に耐えて、

足をガクガクと震わせながら片足を引きずる様に歩いて行く。

「ああっ、っくぅ…」

「動きなさい!まだです。まだ休んではいけません!」

「まだ今日のトレーニングは終われません!」

「も、もう、動けません…」

「魔法少女が弱音を吐かない!早く戦えるようにならないと!」

「他の魔法少女の負担が多くなるんですよそれでもいいの?!」

「!っ、っく…」


魔法少女はその言葉を聞いてまた歩き出した。

一分一秒での早く体を治して前線に戻らないといけない。

そうしなければ別の魔法少女の負担が多くなる。

あの魔法生物が言っていた。

「魔法少女を無事に辞められた者はおらんよ」

という言葉の鱗片が目の前に広がっていた。

体の状態を観察されながら…

自分の意志ではなくて医者が限界と思えるギリギリまでリハビリを続けるのだろう。

それを叱咤激励し続ける看護婦も容赦なく魔法少女のリハビリを続けさせる。

魔法少女は苦しそうに声をあげながらそれでもリハビリは辞められない。

膝の関節を壊されたのか足の動きが完全におかしくなった体でそれでも、

休みなく続けさせる医師達の強い意志を俺は遠くから眺める事にしていた。

酷いな大変だと思わない事はない。

が、しかしだ。

俺にこの苦しいリハビリを止めさせる権利はないし。

バカみたい辞めさせてあげてくれと俺が魔法省の人にお願いをした所で、

魔法少女の怪我が治ってくれる訳じゃない。

一時の感情に流されて「酷い。可哀そう」と言うのは簡単だ。

しかし可愛そうだからと言って俺が声を掛けた所で状況は変えられない。

よしんば変えられるとしてもそれは俺が魔法省の人に期待された何かを犠牲にして、

差し出す事を意味している。

だから「辛そうですね」とか「もう少し楽にしてあげた方が」なんて。

言おうものならこの魔法省の人は俺に何を差し出させるのか、

俺は考えたくもない。

仮に、仮にだが俺の要望が通ったとしよう。

その結果魔法少女のリハビリは楽になるかも知れない。

ゆっくり怪我を治せるかもしれない。

そうすると魔法少女が戦線へ復帰するのは遅くなる。


そうしたらどうなる?


別の魔法少女が戦う事になるのだ。

その魔法少女がまた怪我をして…

戦える魔法少女の数はきっと減っていく。

厳しいリハビリも妖魔と戦える魔法少女を確保する大切な回復行為。

だから素人の俺が口を出していい訳じゃない。

そして俺と魔法省の人はそのまま魔法少女がリハビリを終えるまで待つことにする。

目の前で…

這いつくばりそうになるのを必死でこらえて全身から発しているであろう、

痛みをこらえ嗚咽を漏らしならリハビリを続ける魔法少女。


「あぁっ…」

「い、たい」

「く、くぅ…」


室内に流れる音は魔法少女の苦しそうな言葉と彼女が倒れる音。

そして看護婦の激励だけ。

普通の大人でも苦しむ様なリハビリが休みなく進む。

それはきっと彼女が魔法少女だから。

痛がる素振りを見せても…

看護婦が近くで見ている医師にたいして首を横に振る。

たぶんこれ以上はと思ったのだろう。

けれど医師は顎をあげて指示を出しているみたいだった。


―まだだ。続けろ。休みには早い―


それを見た看護婦はまた魔法少女を立たせて歩かせる。

何度も何度も2本のバーの間を往復させてリハビリは終わらない。

その姿をただひたすら俺は見続けていた。

目をそむけることも出来たし、部屋の外に出て待つ事も出来たと思う。

が、俺はそれはしない。

それをするには付いてきた魔法省の人に声を掛けなきゃいけないし、

部屋の外で待つ事さえ揚げ足を取られる原因んとなりそうだったから。

それに…

なんていうか現実感のない長時間続けられるリハビリもそうなのだが、

それ以上に魔法生物の手によって連日見せられた魔法少女の戦闘シーンの方が、

もっと苦しい様に見えるのだ。

グロ映像に耐性が出来ていると思いたくはないが…

妖魔の攻撃を全身に受けでうめき声をあげながら戦い続ける、

様子を見せられ続けた俺としては命の危険がない分リハビリの方が、

楽なんじゃなかろうかと思う位だった。


自分が痛みに耐えて盾となり戦闘が終われば粉砕された膝を治して、

きついリハビリを受けなければいけないとなれば考えるまでもなく、

俺は全力で逃げる。

戦闘なんぞしていられない。

痛いのは勘弁だ。


一般市民の平和な生活を支える為に「正義」の戦いをしている、

魔法少女の代わりを誰かがしてくれるのかが問題なのだ。

残念なことに俺は苦しんでいる魔法少女がいてもその魔法少女の代わりに、

大怪我をしながら必死に戦える「正義」の心は芽生えそうもない。

献身と慈愛の精神を全開にして目の前の魔法少女の為に身代わりに立候補する事は、

絶対にしない。


だって俺は一般人。

守ってもらう側の人間なのだ。

特殊な力もなく妖魔に出会ったら即殺されるような物語の片隅にいるモブである。

それが恐れ多くも魔法少女の手助けをしている今の状況がおかしいのだ。


俺は決して出しゃばらない。

俺は決して間違えない。

主役をはるのはお国に選ばれたエリート様の魔法少女なのだ。


皆の為に戦って無力な一般人を救うのは魔法少女の役目。

その役目を負う為に彼女達は小学校に入る前に検査を受けて適正を見出され、

特別待遇を受け続けているのだから。

それがどんな教育かは解らないがその果てにこの戦闘結果なら、

まあ辛いリハビリも仕方がないんじゃないかな?


だから俺は何も言わない。

何もしない。

ただ言われたとおりに魔法生物を抱いて魔法少女の苦しいリハビリが終わるまで、

静かに壁際で大人しく待つのだ。


が…


どうやら俺の行動が予想外だったのか…

隣で同じように待ち続ける魔法省の人が俺よりも先に、

耐えられずに魔法少女のリハビリから目を背けた。

けれどそれを俺に悟られたくないのか言い訳っぽく俺に話しかけてくる。

私は辛そうな彼女を見ていたくない訳じゃなくてアナタに話しかける為に、

あなたの方を向いたのよ。

と精一杯の虚勢を張っている様にも見えてしまった。


「き、君は、この苦しいリハビリを見ても、

何とも思わないの?何も感じる事は無いの?」



これは感情に訴える作戦に切り替えたという事だろうか?

良く解らないがただ、俺には魔法少女が苦しみながら受けているリハビリを、

「ワザと見せようとしている」という考えが透けて見えていた。

だから悪夢を見せられた事もあるだろうがそれ以上に魔法省なのかそれとも、

この魔法生物の所為なのかはたまた、

隣に立っている魔法省の人の単独の想いなのか解らないが、

一種の勧誘をしたいと言う考えが、見え隠れしている事に気付けてしまった。

それは言う迄もなく危険な仕事へのお誘いであって、

到底自分が容認できるものではない。


可愛い魔法少女の女の子を助けるために、

俺は文字通り「命を懸けてやるよ」なんて言葉は俺からは絶対に出て来ない。

ただの一般人を舐めないでほしい。

訳の解らない魔法生物に絡まれたとしても、

その生物が理解不能な勧誘をして来たとしても俺は「自分が大事」なのだ。

「命を懸けて他人を守る」崇高な志は持ってない。

だから平静を装う。

絶対に揚げ足はもう取らせない。


「?何を思えば良いですか?

頑張っている魔法少女を応援すれば良いですか?

それなら何時も頑張れ頑張れって思っていますよ」

「苦しんでいる女の子を見て助けたいと思わないの?」


何を言うかと思えば。

やはり同情して貰って何か新しい要求をするつもりだったのかと思うと、

この魔法省の人にはガッカリする。

大人ならそういった思惑は最後まで隠し通せよ。

それとも2週間前に俺を嵌めて要求を簡単に通せたから、

今回も楽勝だと思ったのだろうか。


「言ったじゃないですか。

一般人として出来る範囲の事なら手伝うと。

市民の役割を果たすと」

「…それじゃダメなのよ」

「俺はただの学生です。

何を期待しているか解りかねますが、

危険な事をするつもりはありません」

「…魔法生物を預かる事だって」

「それは前例があるから引き受けました。

無関係の俺が出来るのはここまでです」

「彼女は今弱っているのよ…」

「そうですか。

大変ですね。

あれだけ大けがをしていたのですから。

仕方ないんじゃないですか?

周りの大人がしっかり支えれば良いでしょう」

「私達じゃ…もう…」


知るかよ。

やだよぉ。

ま~た知らなくていい組織のしがらみの鱗片を見せられた気分だ。

どうして俺がこんな罪悪感を感じながら魔法少女の苦しいリハビリを、

見せられ続けているのか…

まぁなんとなく解ってしまった。


そして俺に何を求めているのか…


俺は兵士の世話をする子犬になってほしいって事だろう。

魔法少女と仲良くなってもらって、

魔法少女の生きがいになってほしいって事だろう。

戦闘をしてそれで生きて帰ってくる理由。

守るべき弱い一般人。

その守るべき弱い一般人が平和な生活を送れるように。

また全身大けがをしてでも街を守らせる。

その強靭な脅迫行為をする為にどうしても「か弱い」一市民が、

必要という事なのかもしれない。

まあ後は仲良くなった俺の命を盾にして無理矢理妖魔との戦闘を、

強要するなんて事も実行出来るんじゃないかな?


「…一般人と魔法少女には大きな溝がありますから。

きっと頭の良い魔法省の偉い人が良いアイディアを、

出してくれるでしょう」


まぁそう考えると色々と考える所があるね。

あの魔法生物を拾わせたのも魔法少女の所に連れて来させる、

トラップだったのかもしれないなんて今なら邪推してしまうほどだが。

まだ俺は「魔法少女」と言葉を交わした訳じゃない。

だから引き返せる位置に立っているはずだ。

あとは今日魔法少女にこの魔法生物を渡して…

なーにも喋らなければ近いうちに俺は普通の一般人に逆戻り、

普通の生活に戻れるだろう。


魔法省の人の考えが少し透けて見えた俺は安心していた。

俺はまだ魔法少女に認識されていない。

ただの大勢いる人間の一人だ。

何も問題ないさ。



問題ないと良いな。




気付いているか主人公、

君はこれから魔法少女と話さなければいけないんだぞ。

魔法生物が魔法少女にとってどんな存在だか思い出すんだ!

それを助けた事になっている君は、

確実に特別な子になってしまうぞ!


逃げろ。魔法省の人に魔法生物を渡して逃げるのだ!

でなければ君はまた一歩、魔法少女に近づいてしまう!

黒髪ロングの可愛い女の子になって、

可愛い振袖を着せられてしまうかもしれないぞ!

もちろん元には戻れないぞ!



(もう、ズブズブですね。

魔法省の考えが解った所で、

逃げられない事には気づけていないのですから

魔法少女まであと少し)

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