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魔法少女からは逃げられない。何処までも追ってきた魔法生物のマスコット【3】

魔法生物を連れて歩く俺は、

ご近所さんからも変な目で見られ続けた。

そして学校へも連れて行く事になる。

魔法省の人はそれはそれはもう手早く手配してくれた。

せんでも良いのに。

制服へと着替えて学校へと向かう俺の鞄の上にどっしりと乗っかる魔法生物。

まぁどうでも良いのだが。


「重たいな」

「私は重たくはない…

その私を重たいと感じているのなら、

それは君の心が罪悪感から重いと感じているのだ」


は?

意味が解らん。

明らかに鞄に入っている以上の重さを感じているからそう言っただけなのだが。

明らかに昨日抱き上げていたのと同じ位の重さが鞄にのしかかって来ていた。

安い言い訳と同時に俺に罪悪感を抱かせようと、

隙あらば理由を作ろうとしている事が解ってしまう。

まったく魔法生物は嫌らしい性格をしていやがるよ。

この魔法生物のえげつない言動はコイツの個性だと思いたい。

なんていうか質の悪い宗教関係の勧誘を受けている気分になってくる。

そういった意味では錯覚だった。


が、何を言ってもこの魔法生物を連れていかないという、

選択肢は俺にはなかった。

俺から魔力?とやらをちゅるちゅる吸い上げ続けているらしく、

抱いていなくても傍に置いておくだけでも治りが早いらしい。

だから少しでも近くに。

少しでも早く治る様にという事で魔法省の人は本気で俺に、

この魔法生物を連れまわす様に要請してきている。

もう、いいか。


このファンシーな生物の見た目にも慣れてきた。

小型犬のマルチーズと羊をたして2で割ったかのような、

もこもこデザインはまさしく低年齢層向けに作られた可愛い生き物だ。

それを俺の様な男の子が…

しかも持っている手持ち鞄に入り込んでその鞄の取り出し口から、

ちょこんと可愛い前足と顔だけを出す形をしている物だからそりゃ目立つのだ。

黒い鞄に真っ白でもこもこの犬顔の生き物が愛らしく鞄から飛び出ていれば、

もう、ね。

目立つよそりゃ。

遠目から女子たちに眺められているのを感じて嬉しくなるね。


「ならば良かったではないか。

女子達の注目の的だぞ。人気者だぞ」


お前への嫌みに決まっているだろうが。

何が悲しくてこんな魔法生物の所為で、

悪目立ちしなければいかんのだ。

はぁ…

俺は今朝起きてから何度目になるのか解らないため息をつく事になった。


それ以上に気になっていたことがある。

学校に着いてしまったら今日は質問攻めにあって、

きっと大変な事になる。

その前に絶対聞いておきたいことがあった。

昨日見せられた、

魔法少女の命がけの戦い。

ファジーでファンキーなゆるふわの可愛らしい戦闘はどこ吹く風。

ガチの殺し合い風味の恐怖を感じる戦いだ。

たまたまだよな?

あんなことが日常的な戦闘なら…

マジで絶望的なんだが?

魔法少女になれる女の子の数と…

戦闘で消耗していく人数を考えるとウソだろう?と質問したくなる。

一般常識として魔法少女ってのは妖魔に対して圧倒的な優位を確保した、

いわゆる強者としての立ち振る舞いで戦えるほどの、

強さが有るんじゃないのかと。

信じられなかったのだ。

あそこまでボロボロになりながら無謀な戦いを続けるなんて。

昨日の戦闘?はただ運が悪かったのだと。

最前線にいるこの魔法生物に言ってもらいたかった。

現場の魔法生物のリアルな現状の声が、現実が知りたいと思ってしまった。


「テレビやネット」で流れている戦闘なんてうまくいった戦闘を、

編集して流しているにすぎんよ本当に圧倒的な戦いが出来るなら…

「魔法少女育成機関」なんて物が必要になると思うかね?」


マジですか?

マジでそんな事言ってくれやがりますか。

この魔法生物は。

聞きたくなかった現実だった。

ふざけんなと言いたかった。


国を挙げて育成機関に入学できる人間を探しているのは知っている。

そして9年かけて育てた魔法少女はお国の為に文字通り「消耗」している訳だ。


「魔法少女を健康的な体で、辞められた女の子はおらんよ。

皆、傷つき、疲れ果て、戦えなくなって辞めるのだ。

だから魔法少女は増えないのだよ」


消費と生産のバランスが一定だから。か…

聞きたくねぇ悪い事ばかりだ。

…そしてこの魔法生物は全力で俺に機密をバラしている気がするのは気のせいか?


「そうだね、君は機密事項を知ってしまった。

仕方がないね。

光の使い魔の正義の魔法少女になりなさい」

「自分で勝手に機密を漏らしておいて何を言う。

お前はバカか?バカなんだな?」


それを誤魔化す様に魔法生物俺を見上げてくる。

そしてつぶらな瞳で俺の事を見つめるのだ。

あら可愛い。

きゅんきゅんと胸が締め付けられるようだわ。


等と思ったりするものか。

俺は最悪の気分で学校へと登校したのだった。

もちろん学校ではこの魔法生物は大人気だ。

皆に囲まれて、


「かーわーいーいー」

「コロコロしてて、柔らかーい」

「きゅん♡きゅん♡」


もうなんていうか休み時間になれば人が寄って来て、

俺の鞄から出てきた魔法生物が机の上で愛くるしい姿を周囲に見せつけた。

まぁ映像でしか見た事もないファンタジー生物がいたらそりゃ、

みんな興味津々で見に来るだろう。

気持ちはわかる。

俺だって見に行く。


が、こいつは…この魔法生物は決して口を開かない。

いや言葉を話さないのだ。

登校時に見せたやたらと愛くるしい形そのままに、

映像の中の魔法生物像を崩さない範囲で、


「どうして預かっているの?」

「拾ったから」

「返さなくて良いの?」

「その、コイツの持ち主が急用で現場を、

離れる事になったらしい。

で、相性の良さそうな俺が預かる事になった」

「ふーん。いいなぁ」


一応カバーストーリーと言えば良いのか。

こう言う事はあると魔法省の公式ホームページに書いてある。

だからタイミングが合えば魔法生物を一般の人が預かる事もありますよ。

って事になっている。

その理由は親族が亡くなったとか。

予防注射を受けるとか。

全身の体調チェックとか。

それらしい事がホームページに理由として書かれている。

だから「そう言う事もある」という。

前例があるから皆受け入れるのだ。

が、その裏で魔法少女が怪我をしたとか、

魔法少女が重傷を負って魔力を与える事が出来なくなって、

生きていられ無くなったから傷が癒えるまで預かる事になった。

なんて事情は表には絶対出て来ない。


魔法生物を預かってからというもの、2週間程度がたった。

それだけ時間がたつとクラスメイトも、

魔法生物に騒ぐことはしなくなって来ていた。

同時にその時間をかけて魔法生物は、

明らかにヤバイ機密情報をダバダバと漏らすのだからたまらない。


楽しくて可愛いマスコットを侍らせて、

皆から応援され愛されるアイドルの魔法少女。

その仮面の裏側でどれだけ苦しみ抜いて来るのかを。

魔法生物はこともなげに言うのだ。

平然とそれが事実だと。

しかし絶対に全てを語らない。

少しずつポロリと情報を零すのだ。

そこまでなら漏らしても良い機密情報の様に。

が、その2~3個の情報を重ね合わせると、

嫌な事が知ってはいけない事が浮かび上がってくるのだ。

それを間接的に教える様にしてきやがるのだ。

知らない方が良い事実と、

都合の良い事実の裏を考えさせようとしてくる。



俺達は魔法少女が作り出す平和を何も知らないで甘受する為に、

魔法少女達は余裕の戦いを繰り広げていて今日も楽勝の戦闘だけが続いているの。

妖魔はいわゆる「よくある災害」で…

魔法少女との戦闘に巻き込まれたら運が悪かったね。


程度の事がこの国の常識として根付いていた。



「必死に戦い続ける魔法少女の戦い」はあってはいけない。



余裕で勝って当然の戦いを魔法少女達は続けている。

長い間かけて作られたこの「常識」は壊せない。

壊す訳にはいかない。


それは何でと聞かれたら、

魔法少女の戦いが無くなる事は文明レベルを後退させる事に他ならないから。

社会の維持システムとして「魔法少女」の犠牲は許容範囲内という形に、

国が仕上げて作り上げてしまっているのだから。


異世界からもたらされる恩恵なしではもう、各国は国の経済を維持できない。

一般人に…スマホもエアコンもない生活を明日から送ってください。

食料は配給制にしますし、娯楽は資源を消費するのでこれからは制限しますね。

等と言われて納得して暮らせる人がどれだけいるだろう。

それなら仮初だったとしても都合の良い幻想がある方が良い。



国が用意した生贄の少女達。

倒せなければ甚大な被害をもたらす妖魔を何とか倒せる力を持った少女達。

彼女達を国は作る事にした。


―魔法少女達は余裕の戦いをしている―


という幻想を造り宣伝をして一般人には素敵でカッコイイ魔法少女像を、

完璧に作り上げたのだ。

そしてそれはうまくいきすぎてしまった。

だから今の魔法少女達がいる。


罪悪感を普通の人が抱かないで済む為にも魔法少女は、

余裕で戦い続けなければいけない。

そんな虚像がどんどん大きくなって来ている。

その裏で犠牲になっているのは魔法少女だけ。


本当に余裕のある戦いがどれだけ有るのか解らないが…

町に被害を出さない事が前提の戦いを強いられ続ける限り、

魔法少女達の苦しい戦いは終わらない。

そしてこれは俺の予想に過ぎないのだがその戦い方しか、

魔法少女達は教えてもらえていない。


魔法生物の手によって何日も悪夢を見せつけられ続けた俺が気付きたくもない、

戦闘の事実がそれだった。

自らが囮となり続け妖魔が放つ攻撃は全て受け止める。

そんな戦闘シーンしかなかったのだ。

そりゃ町の被害は減るが…

これでは身が持たんのも頷ける。


―強い魔法少女―


を誇示するために彼女達は傷つき続けるのだ。

自分が長く戦い続ける為にではなく強い魔法少女という幻想だけを守るために、

命を懸けて平和を守り作り続けている。


俺に機密を漏らすこの魔法生物は…

何を考えていやがるのが…


そんな献身的で「正義」の戦闘を毎夜毎夜俺は見せられ続ける。


俺は悪夢を見ながら…


違うそうじゃない。

避けられただろう。

仕留めるなら背後に。

建物を盾にしろよ。


ただのFPSゲームのセオリーすらやろうとしない魔法少女達の戦闘を見続けた俺は、

別の意味でストレスが溜まり始めていた。


戦い方を教えて貰えない?

哀れな少女達の戦闘を見せられる度俺の気分は悪くなっていった。


悪夢から覚めると何時もの言葉が飛んでくる。

2週間も続けばなれるものだ。



「おはよう。

さぁ魔法少女になろう」

「なるわけねーだろ」



挨拶の様に勧誘を続ける魔法生物に少々イラつきながら俺はベッドから這い出るのだ。


しかし…

疲れる。

今、俺の立ち位置は超、微妙になっていた。

「真実」?なのか?

「虚像」を知ってそれでもこのまま気付かぬふりをし続けるべきなのか…

一般常識の外側を知っても今の普通の生活を続けていたいと思うのは…

ダメなのか?

知らない方が幸せな事って有るんだなぁと思いながら…

俺は今日も魔法生物と生活を始める。


ま、不味いぞ主人公。

魔法生物の遠回しの勧誘に負けるな!

魔法生物の言っている事が正しいとは限らないぞ!

魔法少女になったら、黒髪ロングの可愛い女の子になるんだぞ!

可愛いフリフリのお洋服を着せられて、

恥ずかしいダンスをする事になるかも知れないんだ!

諦めるな主人公!

自分を見失うな!


(まぁ、そろそろ?罪悪感で、なると言いそうですね?)



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