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魔法少女のお母さん。魔法省の人にガチギレする【3】

「久しぶりですね。

ヴァルキュリア・クイーン。

息子様の覚醒おめでとう御座います。

これからは私スノー・プリンセスの部下として、

私が最大限の支援をお約束・致します」


夜もふけって日が変わる時間になる頃、

彼女はさも待っていて当然と言った具合で私の出迎えを受け入れた。

コントローラーとしての制服を身に纏いきりっとしたダブルのジャケットに、

タイトスカートで縁取りには金の飾り紐が縫い付けられている。

内側にはちゃーんとベストまで着こむいわば普通のコントローラーの格好だ。

けれどそのジャケットやタイトスカートの裏側は見るまでもなく、

大量の刺繍が施されているのだろう。

スカートはヒラヒラとは揺れずズッシリ重たそうだし、

ジャケットの膨らみ方を見ても普通の物と違う所が見る人が見れば、

解ってしまう。


彼女の喋り方と「覚醒おめでとう」という言葉で私の怒りは更に燃え上がる。

楽しい会話を出来ると思って自分の思惑通り新しい魔法少女が手に入ると思って、

スノー・プリンセスは深夜にも関わらず笑顔でやってきた。


こっちの気持ちも知らないで。

けれど玄関でいきなり話始めるコイツの狂った考えに付き合ってやる。

最後の挨拶と私の娘を部下として使えると思い込み嬉しくて仕方ないという、

考えが手に取るようにわかる。

けど…

そんな未来はアンタには来ないのよ。

そう既に旦那が動いている。

禁忌を犯したこのバカ女に相応しい末路を。

って、具合でもう決まった未来だが私も笑顔で答えてやるのだ。


「何を言っているの貴女?

もう、アンタが指揮する魔法少女はいないわよ」


私は手に持っている首輪を人差し指で引っ掛けてクルクル回しながら、

笑顔で答えるのだ。

その私の言葉を聞いた瞬間スノー・プリンセスの顔が歪んだ。

たぶん「子供をよろしくお願いします」とでも言ってもらえると、

思っていたのだろう。

私の笑顔の返答はそれは予想外で。


「私にそんな事言って良いの?

コントローラーの私にそんな反抗的な口をきいたら貴方の息子は、

酷い目に合うのよ?私の言う事聞いてアナタも手伝うのよ」


位の勢いで来た事ぐらい予想はつく。

なんというか私が卒業した時返さなくても良いパートナーを、

魔法省に預けた理由なんてこの女は考えた事なかったのでしょうが。

その時に交わされた密約がどれほど重い物なのか周りの人は、

彼女に話さなかったのだろうかと私は考えてしまう。


「え?」


間抜けな一言と現役時代との対応の差でそんな一言しか、

スノー・プリンセスからは出で来なかった。

立場的にも地位的にも魔法少女だった頃は私の方が下だった。

けれどそれはスノー・プリンセスの後ろに隠れている奴等の、

権力の大きさを加味して付けられた地位であって。

スノー・プリンセスの力で得た訳じゃない。


だから私は止まらない。

もう止まれない。

このバカ女の所為でこれ以上魔法省が馬鹿でいる事は許されない。

約束を守ってもらう。

大人しくハイハイ言ってスノー・プリンセスの言う事を聞いていたのは、

未来の平穏の為。

色々とあった柵の中で私と旦那が勝ち取った大切な家族を守る為なのだ。

それが破られてしまった以上スノー・プリンセスに譲歩する理由がない。

けれどこの女は「私が一言いえば、いう事を聞く都合の良い女」として、

ここに来ているのでしょう。

ホイホイと甘い餌に釣られてオオカミの前に現れるなんてバカな女よね。

私はクスリと笑いながら話を続ける。


「今までアンタがやって来た失敗をあんた自身で挽回するのよ」

「な、なにを?」

「言い訳なんて聞かない。今日ここに越させた理由はアンタに首輪をして貰う為よ」

「え?」


そう言いながら回していた首輪を放り投げた後キャッチして、

スノー・プリンセスに見える様に突き出してやる。

けれどそれが何なのか彼女は理解できない。

まぁ仕方ないか。

なんせ「お姫様」だもの。

こんな懲罰用品を宛がわれた事なんて無いでしょうよ。

本当なら今現在体中に懲罰用品を取り付けられて苦しんでいてもおかしくないのに。

ずっと不思議な権力を盾に逃げて来たんだものね。


「知っているでしょう?罪を犯した魔法少女や、

魔女に嵌める為に作られた懲罰用具。

ちゃんと極上品を用意してあるから安心して身に着けるが良いわ」

「ま、待ちなさい。」

「待たない。

何?まさかこの期に及んで逃げられると思っているの?

お偉いさんが許しても私はあんたを許さない。

アンタはこれから今まで自分がやって来たツケを払ってもらうから」


そういいながら私は、私の為に用意されていた、

懲罰用の首輪をスノー・プリンセスの首にに近づける。

そして私が笑顔で首に嵌めようとすると彼女は後ろに後退しようとする。

けれどその後ろは玄関の扉。

そして扉は閉じている。

開くにはノブを捻らなきゃいけないけれどスノー・プリンセスの手には、

ジュラルミンのケースを両手に持っている。

そしてそのケースと手首にはご丁寧に手錠を掛けて繋いでいた。

重要な物を持っていますという演出をしたかったのか手から鞄を手放せない。

放したとしても鞄の重みで自由に腕を動かせない。

演出の為に用意した手錠が今彼女を追い詰めている。

スノー・プリンセスに家から出るという選択肢はもはやなかった。

だから彼女は私を押し留める方法はもうない。

あとは私を説得する事が出来ればチャンスはあるが…

私が許すわけがない。


「私がしたツケ?そ、そんな物ないわ」

「しらばっくれるのならそれでも良い。

けどね?

もう逃げられないし逃がさないわよ。

ヴァルキュリア・クイーンとして戦友たちに顔向けできないもの」


「私は…私は…」


そのまま動揺するスノー・プリンセスを玄関のドアへと押し付け、

私はその首に思い切り首輪を押し付ける。

そしてその太くて頑丈な銀の塊を巻き付けて、

外せない様に生体認証の鍵を掛けてやる。

「ピー」という電子音と共に繋ぎ目は沈み込み魔術的な技術も相まって、

つなぎ目は消え首に圧着するようにサイズが縮んていく。

ほんのわずかな時間でスノー・プリンセスの首には、

指一本の隙間もないほど締められた綺麗な銀の首輪が取り付けられた。

とっさに取り付けられた首輪を引きはがそうとして、

スノー・プリンセスは首に手を当てる。

けれど指を入れる隙間さえない首輪に彼女はなすすべはない。

魔力を使って外そうと力を込めれば、


「あがっ」


その魔力に反応して首輪が閉まるのだ。

それに慌てて反対側の手も使って対応しようともがくが、

その手にはジュラルミンの重たいケースの所為で持ち上がらない。

そのうち息が出来なくてガクガクと膝を揺らしその場でへたり込んだ。

「なんで?なんで?」と呟き項垂れるスノー・プリンセスを見下ろしながら、

私は話しを続けた。


「あんたの考えそうな事よね。

もう補充要員が来ないから自分が戦うのが嫌だから、

私の息子に目を付けたのでしょう?」

「違います!違います!ちがうの!そんなんじゃないの!」

「私、卒業する時、言ったわよね?

これ以上、私に係る事を許さない。

もしも私に係る者に近づいたら…

次はヴァルキュリア・クイーンとして対処するって」

「ちょっとだけのつもりなの!

ちょっとだけヴァルキュリア・クイーンが協力してくれれば…」


この期に及んでまだ協力をして貰えると思っている辺り始末が悪い。

現役時代この女がしでかしたミスは数知れず、

それを挽回するために私がどれほど苦しい決断を迫られたか。

それすらこの女は当然と考えて理解すら出来ていない。

この女を助ける為に手を伸ばしてくれる相手はもういない。


「もうアンタに協力できる奴はいないわよ。

実家の為にまともに機能しない制服を魔法少女達に与えたんでしょ?

もうアンタの実家の所の制服を着ている、

魔女は一人もいないらしいじゃない?それが現実でしょう」


魔法少女の産業としてスノー・プリンセスの実家はものすごい力を持っていた。

凄まじい資金を投入して魔法少女達の装備品を開発し続けたのだ。

それもこれも選ばれてしまったスノー・プリンセスが無事卒業できるようにと、

それはそれは彼女の親類は努力したらしい。

そこまでは良かった。

その為に魔法省としても彼女を優遇しなきゃいけなかったのも、

解る。解るのだが…

解る事と納得する事は別問題なのだ。

魔法少女が安全に戦える制服を作るのは金がかかる。

その金は昔はスノー・プリンセスの身内から捻出されていた。

金は力。金は権力。って奴だ。

だからスノー・プリンセスは魔法省内ではまさしくお姫様で大切に扱われた。

危険な作戦には参加させられず後方で大人しくしていてくれれば、

問題は怒らない筈だったのだ。

けれど本人は勘違いした。

自分の実力とそして立場を。

「温い戦いだけじゃなく前線で戦いたい」

そんな彼女の願いを叶える為に、

お守り部隊が作られる。

その部隊が優秀だったから彼女は更に増長していく事になった。

そうあの時までは。


スノー・プリンセスは・・・

彼女は最大級にやらかした。

その結果彼女の失態を隠すために支援者は物凄い大金を支払う羽目になる。

それで彼女の天下が終わり魔法省内である種バランスが取られた。

それで彼女が大人しくなればそれで良かったのだ。

けれど大枚を叩いた支援者はそうはいかない。

同時に魔法少女の装備一式を調達する予算が国から降りたのだ。

結果何が起きたのか解るだろう。

魔法少女の装備品を作る企業が数社で出来たのだ。

それでもスノー・プリンセスの支援者は良い品を納品し続けていれば良かったのだ。

だが支援者達はやり過ぎた。

利益を上げるために身を守る装備の手を抜きすぎたのだ。

始めにそれに気付いたのは魔女達。

魔法少女の時から数年間付き合い続けた企業からの品の品質が若干落ちた。

それは彼女達魔女にとっては絶対に許されない物だった。

それはそうだ。

今日まで使っていた物は妖魔の攻撃を防ぎ切った。

けれど次に同じものだと思って攻撃を受け止めたらダメージを受ける。

そんな事許せる訳がない。

判断を一歩間違えば防ぎきれずに直撃し生きて帰れなくなるかもしれないのだ。

ただでさえ苦戦している地域にいく事になる彼女達は、

その辺りをシビアに捉えなければならなかった。

だから他のライバルメーカーが試供品を出してきた瞬間、

その高性能ぶりに喜び次々と別のメーカーに、乗り換えていった。

それを見ていた高校生となり一人で戦わなければならなくなる魔法少女達も、

自分の弱点を補ってくれる道具をこぞって探して魔女達からの助言もあり、

どんどん乗り換えていく。

そうなれば中学の制服も切り替えられる。

というより本格的な戦闘をすることになる魔法少女達は、

どんな装備が有るのか解らない。

だから彼女達の装具一式は深い経験を持つコントローラーが決めるのだ、

まともなコントローラーなら新米の魔法少女の身をちゃんと守れる、

しっかりとした企業の制服を与えるはずで「クル」が着ていた様な制服を、

与えるはずがない。

大量発注大量生産に胡坐をかいていたスノー・プリンセスの支援者は、

減り続ける使用者の意見など聞かず同じ値段で制服を作り続けた。

けれど利益が少なくなるのは困る。

あの大枚を叩いてもみ消したスノー・プリンセスの失態分の借金が、

返せなくなってしまうから。

だから値段そのままに制服の質を限りなく落としていく。

それは更なる使用者の減少を招く事になったのだがそれでも辞める事はしなかった。

遂に魔法学校の標準制服の地位も数年前に失ったと聞く。

そうなればもう使用者はいなくなる。

無理にでも選ばせなければいけない状態だ。

支援者はそこでどうするか考えたのだろう。

その結果は考えるまでもない。

スノー・プリンセスのコントロール下にある生徒に無理矢理買わせるのだ。

恐らく進学した高校生組には支援者の家の装具しか申請書を認めず、

中学生組4人には問答無用で支援者の制服を与えていたのだろう。

あのレプリカとも言える碌に機能しない制服を与えて。

それでも魔法少女の制服の値段は高い。

毎年体型に合わせて新調される中学から高校を出るまでの24人分の制服を、

激安のレプリカもどきまで落とせば利子位返せる利益は出ていたんだろう。

だからコントローラーは続けることが出来てしまう。

けれどそんな事が長続き出来る訳がない。

中学校を卒業できなくて引退した魔法少女が出れば、

高校にいる魔法少女だって少なくなる。

3何年続ければ怪我をした魔法少女達が引退して制服の発注は更に減っているんだろう。

普通ならそうなった場合コントローラーは責任を取って引退。

新しい魔法少女達が揃うまで魔女として戦闘に復帰するのだ。

が、そんな事聞いたことがない。

魔法少女の能力は年々上がっている。

無様に地区内の魔法少女が1~2人になる事なんてまずないのだ。

その前に別の地区から補充される。

ただしその場合コントローラーが無能であることを認める事になり、

何度も魔女に支援要請を出せば強制的にコントローラーを下ろされる。

つまり、スノー・プリンセスは…

支援者を守る為ギリギリまで魔法少女を使いつぶしそれでもまだどうにかしようと、

あがいて私達に手を出して来たんだろう。

だったら…

その大好きな支援者が作った制服を着ればいい。

着て戦いに出るがいい。


その場でへたり込み首輪に手を触れて、

外せないかとガチャガチャと手を動かし始めたスノー・プリンセスを見ながら、

私は彼女の前で彼女が運んできたジュラルミンのケースを開けてやる。

彼女の目の前で開かれぶちまけられる中身。

それは「クル」の魔法少女用の制服だった。

案の定着ていた物とほぼ同じ。

コルセットは薄く平べったい物で魔法陣はおろか要石一つ取り付けられていない。

ボレロも前の重なりボタンで隠れる部分に守り石もない。

ボレロの背中側伸ばされた部分にぎっしりと埋め尽くされる様に縫い付けられる、

銀糸の刺繍もないどころかその伸ばしてでも縫い付ける背中の

刺繍をするスペースすら無いのだ。

一番大切な魔力を整え循環を補助する大切な肌着ははただの一般の汎用品。

ロングブラとウエストニッパーですらなくただのブラジャーで、

こんな物で激しく動けるかっ。


何なの?


何なのよ!


私が!


私達が!


必死に作り上げて安全に正確に戦える土壌を作り上げたというのに、

その結果がこのレプリカもどきの制服で…

こんな物で戦ったら大して強くない妖魔の攻撃にだって耐えられない。

苦戦するのも当たり前じゃない!

それに比べて今この女が着ているコントローラー用の制服は何?

しっかりとした刺繍がされた戦闘用の制服を着て自分だけ普通の、

「標準」の防御力を誇る物を身に着けてやがる。


ふざけんな。

この期に及んでいまだ自分が安全な所にいるつもりかっ。


そのタイミングでピコンと電子音が私のスマホから鳴る。

そこには旦那からのメッセージが書いてあった。


―要望はぜ~んぶ通したよ―

―嬉しくないかもしれないけれど―

―ヴァルキュリア特戦隊って形で、復活だ―

―君の要望通りで、コードネームも復活だよ―

―《ヴァルキュリア・クイーン》―

―あとは、君のパートナーだけど―

―それは追々になりそうだけど―

―押し通すから、ちょっと待って―


嬉しいんだか嬉しくないんだか感情が沸き起こる。

けれどこれが通ったなら話は早い。

そしてもうスノー・プリンセスに言い訳はさせない。



「喜びなさい最前線で着せてあげるわ。

アンタ一人で消費して制服を大量発注をしてあげなさい」

「い、嫌よ!なんで私があんな危険な…」

「その危険な制服を着て戦わせたのはあんただろう。

その責任を取れって言うのよ!

スノー・チームは、3人が引退したんでしょ?

いいえ!させたんでしょう?

アンタの無策で!

自業自得じゃない。

アンタはこれからスノー・プリンセスとして魔女に復帰。

そして私が指揮するヴァルキュリア戦隊の隷属部隊として、

最前線で戦わせてあげるわ」


私が口にした戦隊名はスノー・プリンセスにとって特別な意味があった。

その特別な戦隊名を聞いた時、彼女は首を振りながら否定の意志を示してくる。

嘘だ。

アリエナイ。

それが彼女の本心だろう。


「ぶ、部隊として、認められるのは、4人から…」

「そうね、私と娘それから、クル。そしてあんた。

喜びなさい。

アンタのあけた穴を私がカバーしてあげる。

そしてその最前線で戦うがいい」

「そんな…」


もはやどうしてここに呼ばれたのかスノー・プリンセスも理解しているだろう。

「うそだ」「ちがうの」「まちがいよ」

それを繰り返しながらスノー・プリンセスは涙を流す。

ふざけるな。

あんたが流していい涙はもう無いのよ。


「あんたの所為で私はヴァルキュリアと呼ばれるようになったのよ。

既にアンタは忘れているでしょうけれどね…

私は忘れない。

絶対にっ、忘れない」

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