魔法少女のお母さん。魔法省の人にガチギレする【2】
安物の制服を与えられたこの魔法少女には同情するしかない。
それに彼女の姿を見てみれば戦闘用ブレスレットとアンクレットも、
持っていないみたいだし…
本当にこんな薄着(魔法防御効果が著しく低いという意味)で?
今の魔法少女は戦わせられているのかと?
呆れそうにもなる。
「どうしてこんな事になっているのかしらね?」
「あの…」
「あんた、コードネームは?」
「スノー・クリスタルです…」
その言葉を聞いてまた気が狂いそうになる。
「スノー」それは私は一番聞きたくない名前であり、
そしてそれ以上に殺してやりたいほど憎んでいる存在だからだ。
同名の名前を使っている奴だと私は思いたかった。
もう私が卒業して何年も経っているのだ。
そうであってほしいのだが一応確認の為聞いてみる。
「じゃあ、もしかしなくても、
アンタのコントローラーの名前は、
スノー・プリンセスか?」
「は、はい!そのとおりです」
コントローラーはその地域における魔法少女達の統率者で魔法少女達に指示を出し、
戦闘を指揮するいわば司令官だ。
その司令官的な立ち位置にいるのがあのスノー・プリンセスだと聞いただけで、
私の怒りはMAXになる。
ふざけるなっ。
あいつにそんな事が出来るはずがない。
ないのだ。
そして何故そんな重要なポジションにいられる?
だが同時に解ってしまった。
この魔法少女が私の息子と帰ってきた理由が…
あいつはまたやらかしたのだ。
「あのアマァァァァァァ!
この期に及んで、私に頼ろうとする気かっ!」
どんどん私の気が荒くなってきている事は解っている。
けれど抑えられない。
押さえたら気が狂いそうになる。
ふざけるな。
ふざけるんじゃねーぞ。
アイツの為に私はまた大切な物を奪おうとするのか?
ひぃっと魔法少女スノー・クリスタルが私の叫び声に怯えていた。
その小さな怯えた声に私は冷静さを取り戻した。
そしてそれ以上にこのスノー・クリスタルが哀れでならなかった。
たぶん今の犠牲者はこのスノー・クリスタルなのだと思い返して…
「ごめん。悪いけど色々あって、アンタの名前は聞かない。
これからは、そうね「クル」と呼ばせても貰うけど良い?」
「はい」
「それじゃクル、お風呂入ってしまいなさい」
「え?」
「これから楽しい会話が始まるの。
貴女も関係ある事だからその前に体を綺麗にしなさいでも…
その前に散髪が必要ね」
「あ…」
クルは魔法少女の切り札魔力の溜まった髪の毛を使ってしまった様だった。
だから悲しいかな彼女の髪は今や綺麗に脱色されて色が抜け落ちて、
綺麗な白髪になっている。
時間がたてば黒に戻る。
なんてことはなくて髪のへの魔力の充填は髪が伸びる長さと同じなのだ。
これはもう生え変わるまで気長に待つしかない。
せめて毛先だけでも整えてやろうと思った私は毛先を少しだけ切って整えてやる。
同じ様に風呂場へと案内した「クル」は脱衣所で服を脱ぎ始めた。
が、結局気になって私も2度目のお風呂に入る事にする。
あの魔法少女用の制服で本当に戦っていたのか?
だとしたら「クル」の体はもうズタズタになっていてもおかしくない。
どんなに魔力があったって、あれではその力をほとんど使えない。
私が戦い始めた当初ならいざ知らず今はそれ以上に良い装備だって有るはずで、
今は遅くても専門の授業を小学生から始めるのだ。
丁寧に育てられた魔法少女が苦戦するような事なんてほとんどないはず。
けれど風呂場で見た「クル」の姿はボロボロで、
魔道回路も見るだけでズタズタと分かるほど断裂が目立つのだ。
無理して戦っていたのかその戦闘後の回路のケアも出来ていない。
体を洗った後、私は湯舟に彼女を引きずり込んだ。
そして抱きかかえるように私に寄りかかる体勢を取らせる。
それからお腹に手を当てて、彼女の魔力回路のケアを始める。
「ねぇ「クル」アナタ、魔力回路のメンテナンス受けた事は?」
彼女はフルフルと首を横に振った。
なんなの?
何なのよこのざまは!
コントローラーが何で魔力回路のケアをしてないの?
そもそもコントローラーが配置されるのは魔法少女達の魔力回路を治すという、
重たい役割が持たされているからなのに!
もう開いた口がふさがらない。
傷ついて壊れた魔力回路を修復する事だ出来るのは魔女の役割。
高校を無事卒業できた魔法少女は魔女を名乗る事を許される。
その魔女達の仕事は2種類あって未熟な魔法少女を助けるコントローラーとなって、
魔法少女達のケアをする事かそのまま魔女として不利な戦闘の救援として、
待機組に参加し続ける。
もしくは第3の選択肢として卒業という選択肢もあるが魔法少女以外の世界を、
知らない彼女達はほとんど魔女として生きてしまう。
そのなかで優秀な魔法少女しかなれないコントローラーは、
優秀な魔法回路を持っていなくちゃいけない。
18歳になるまで磨き上げてきた魔力回路を持つから自分の中の魔力回路と見比べて、
魔法少女達の流れがおかしくなっている所を丁寧に魔力を編んで直してあげるのだ。
そのまま放置し続ければ回路が焼き付き伝達効率が落ちてしまう。
最悪断線という事になればもう魔法少女として戦えない引退だ。
だから傷ついた魔法少女には何十時間をかけてでも回路を整えて、
正常に動く様にしてあげるのがコントローラーの大切な仕事でもあるのだ。
繊細で丁寧な作業を要求され続けるから戦闘後にちょっとケアするなんて、
軽々しくやる事は出来ない。
彼女の…「クル」の魔法回路は崩壊ギリギリの崩れ方だった。
まだ爆発してないだけ。次に何かあれば断線して彼女は引退だ。
余りにも酷い状態だったから…
「ごめん弄るよ」
「え?ああっ!」
反論は聞かなかった。
もう少しでもマシにする。
全身の回路に私の魔力を流し込み、
その壊れて破断しそうな場所に液体バンソコウを塗り付けるがごとく、
回路同士を引っ張て固着させていく。
ほんとは各所から少し削ってその魔力跡を掛けた部分に編み込んで、
丁寧に直してと色々な方法があるのだ。
けれどもう駄目だった。
「クル」は傷が多すぎた。
とてもじゃないが削れるところもないし、
ともかく新しい私の回路を転写して直す事も今の段階じゃ難しい。
時間もないから手荒だけどもう回路を無理矢理引き延ばして、
接着剤で固定するしか出来なかった。
一通り処置が終わるまで私の上で声を殺して激痛が走っているだろう処理に、
我慢していた「クル」はとても我慢強い。
だからだろうね。
スノー・プリンセスにいい様にやられたんだろう。
「クルは、息子と同じだから中学一年よね?」
「はい」
「じゃあ、チームを組んで戦っていると思うけれど、
他のメンバーは?」
「…引退してしまいました」
「…そう。
それで新規のメンバーか魔女の支援は?」
「ありません…
もう、手遅れの状態で派遣されてきて…
これ以上の人員は避けないと言われたって…」
「スノー・プリンセスが言ったのね?」
「はい…」
あのゲス女の言いそうな事だわ。
実際もう魔女の派遣もして貰えないのだろう。
そうなれば最後の手段をコントローラーは使うしかない。
そう。
自分自身が魔女となり戦闘に参加するのだ。
けれどここ数カ月を見ていればわかる。
あの女は目を付けた。
私の息子に。
自分が戦わないで済むように魔法少女を現地で調達する事を考えた。
偶然かも知れないが…
魔法生物を拾わせて適合する事に気付いたのだろう。
資質のある子を魔法少女に仕立て上げて自分が戦う事から逃げようとした。
その結果がこれか…
何時までも傍若無人に振舞えると思わない事ね。
ねぇ?スノー・プリンセス。
貴方は私を怒らせた。
もう「次」は無いのよ。
それから直ぐにお風呂から上がった「クル」を拭き上げると、
暴走状態でない「クル」には、私の新しい下着とパジャマを手渡した。
「え…良いんですか?」
「今この家に「クル」が着れる服はそれしかないわ。
それに当分この家から出さないら」
「どう、して、ですか?」
そんな当たり前の事を聞いて来る。
戦闘不能状態の魔法少女を戦闘に参加させても意味はない。
本当なら4人で組んでいる魔法少女達をローテーションで戦わせ足りない日には、
魔女に手伝って貰うのだ。
見習いはあくまで見習いで一人で戦える様になるまで手厚く保護する存在なのだ。
魔法少女達の人生は厳しい。
けれど育成方法が確立している今4人チームのうち3人が夏休みに入る前に、
戦闘で潰れるのは異常を通り越しておかしな事になっている。
本当に総員全力で戦闘する事になっていたら、
絶対にこんな平和な事にはなっていない。
15年前の悪夢の様な戦闘を知っているから私はこのエリアの可笑しさを、
理解できてしまう。
そんな状況で「クル」が一人でこの戦線を支えるのは無理じゃない。
けれどおかしいのだ。
「「クル」は戦えない。
少なくとも魔力回路が治るまで。
そして、私が魔力回路が治すまでこの家から出さない。
良いわね?」
「で、でもそうしたら妖魔が…」
「妖魔と戦うのはコントローラーがする。
魔法少女がいなくなった時はそれがルールなの。
いいから話は私が全てつける。「クル」は黙っていなさい」
「は、い」
「クル」は私の言葉にほっとした状態だった。
戦わなくていい。
その言葉は嬉しかったのか目から自然と涙を流していた。
その涙がまた私を何とも言えない気持ちにさせる。
そのままクルを夫婦の寝室に案内しようとしたのだが、
「あの…傍にいても良いですか?」
息子の事が気になっているのだろう。
もう息子は夢の中であることは確実で当分起きられない。
しかし魔法少女は魔法少女によって癒される。
私が魔力回路を治した様に近くにいれば息子にも、
良い効果が表れるかもしれない。
「そうね、その方が良いかもね」
そう言って私はもう一枚毛布を用意した。
それからダイニングに寝ている息子の隣で寝る様に促した。
もう「クル」も疲れ果てていて限界だろうと思いそのまま息子にくっつく様に促した。
「クル」は嬉しそうに息子に抱き着く。
そのまま二人にい毛布を掛けてやればほどなくして二人からスヤスヤと、
寝息が聞こえてくるのだ。
うん、もう息子と呼ぶのは辞めよう。
どうせ娘から息子には戻せない。
私は諦めと共にこの状況に叩き落とした張本人と話をつけるべく、
また連絡を取る事にする。
ただその前に、
もう一度「クル」が着せられていた魔法少女用の制服を私は丹念に確認した。
そして結論が出してしまう。
この制服は魔法少女が着る制服として最低限の機能すら確保できていない。
最悪のレプリカだって事に。
つまり「クル」のチームがクルを残して全滅した理由は簡単だ。
碌な装備品を与えなくて妖魔の攻撃をまともに受けてやられたんだ。
装備品がレプリカなんて信じたくはない。
しかしサイズこそ合っている様に見えるがその実コルセットの魔法陣が、
ほとんどないのと結界を発生させるボレロを切り裂いてその下のベストに、
切り傷をつけるなんてありえないのだ。
ボレロが守れない様な衝撃が来た場合、
コルセットの非常用の結界が作動する。
その2重のシールドを貫かれるなら「クル」の魔法回路は、
もっと可笑しな事になっているはずだ。
ダメージの受け流し方だって習うはずで…
想像しただけで苦しい戦闘しかさせて貰えなかった事が手に取る様に解ってしまう。
仲間を犠牲にしながら戦う方法しかさせないなんて、
どれだけ無能な指揮を取ったんだよコントローラーは。
さて、仕上げと行こうか…
私はもう一度寝室に戻る。
そして魔法少女用の制服の隣に入っていた、
もう一つ箱。
それを手に取った。
ジュラルミンの金属製のケースは悪戯防止用の鍵付きのケースだ。
出来れば一生使いたくない物が入っている。
中に収められているのは綺麗な機械仕掛けの首輪だった。
銀色に輝き綺麗な彫刻が掘られたそれは一見すれば豪華なアクセサリー。
光物好きな女性なら好んで身に着けるだろう。
けれどその実態は万が一魔法少女が暴走した時に使われる暴走防止器具という名の、
いわば枷だった。
一般人に対して魔法を使ったりする等素行の悪い魔法少女に嵌めて、
体罰を持っていう事を聞かせるいわゆる懲罰用の器具だ。
ちなみに国際規格でもある。
つまり国内の大人しめの魔法少女達ではなくいわゆる治安の悪い地域で暴れ回った、
凶悪な魔法少女も大人しい良い子に出来る物らしい。
デザインは各国それぞれだが性能はお墨付きらしく現場では重宝される素敵な、
一品へと仕上げられている。
未だかつてこれを嵌めるほどの大罪を犯した子を私は知らないが、
まぁ、その気になれば何十人という人を殺す事が出来る力も、
持ち合わせているのが魔法少女だ。
一応、引退したとはいえ私は元魔女に当たる。
万が一私が暴走した時はその伴侶が責任をもって私を抑えつける。
えげつないというかそういった為に用意されている物だ。
腐っても言い方を変えれば過剰な戦闘兵器になりうる魔法少女達を
無条件に解き放つことは、国には出来ない訳だ。
私の場合は旦那とパートナーという2重の鎖が嵌められているから、
常時着用しなくても良いが戦える魔女の状態で卒業するなら、
嵌めて生活する事が強要される物でもある。
あの女に私が主となる設定で嵌めてやる。
ノコノコ来るのならもう嵌めて下さいって事よね。
私はそのままコントローラーに連絡を取る。
そして魔法少女用の制服一式を持て来るように命令した。
そう、この時点で私は命令していたのだった。
それはもはやスノー・プリンセスを自由にしないという事であり、
徹底的に私の管理下に落とし込むという決意の言葉だったのかもしれない。
それは関わり合いたくない相手が私の所に来るのだし。
魔法省に約束を果たしてもらうだけだ。
もしかして私が辞めてから10年以上経っているから約束を忘れている?
だとしても関係ないわ。
さぁ、いらっしゃいスノー・プリンセス。
貴女の地獄はこれからよ。




