魔法少女のお母さん。魔法省の人にガチギレする【1】
ダイニングの広いスペースに寝かせて使い魔に補助されながら、
魔力のコントロールを始める息子…
全身に激痛が走り苦しいだろう事はその様子からも見て取れた、
程なくしてハァハァと大きく胸を上下させ、苦しそうに、
「うぐぅ…」
「むぅ」
と、可愛らしい声を漏らし始める…
認めたくはないが…
認めざるを得ない。
可愛らしく仕立て上げられた制服を着せて、
少しでも魔力のコントロールが出来る様にしてあげる事ぐらいしか、
今の私に出来る事はなかった。
制服を着せた息子はまるで自分の若い頃の魔法少女姿を見ている様な有様で、
どう考えても息子が変身した姿だった。
他人だなんて口が裂けても言えない我が子の変わり果てた姿がそこにある。
そこに他人ですと間違えられる要素なんてありはしない。
そして自然と息子に従いついて来る使い魔もその昔私と共に戦い続けた、
私の使い魔だった、パートナーのあの子の姿そのままだった。
その事に動揺する時間も暇もなかった。
ただただ魔法省はバカで救いようのない糞野郎の吹き溜まりだって改めで、
理解しただけだった。
息子はともかく落ち着くまで使い魔と一緒に放置。
それ以外に出来る事はない。
「はぁ…」
声に出してするため息なんて何年ぶりだろうか…
もうそこまでショックを受けるような事もないと思っていたのに。
ひと段落した私はスマホを手に取り連絡を取る。
もちろん相手は旦那だ。
数回の呼び出し音の後に出てくれた。
「どうした?もうすぐ基地を出る所だが、何かあったのか?」
「…うん。息子が娘になって、魔法少女になった」
「っ!そうか…」
それは諦めと決意を組んだ声だった。
私達夫婦には一つ誓いがあった。
それは絶対に子供を魔法に係る事をさせないと。
少なくとも自分で生き方を選択できる高校生になるまで…
絶対に魔法の道は選ばせない。
それは私達夫婦が魔法にどっぷりとつかる人生を送ってしまったからで、
それに対する反抗心からも来ていた。
私は色々あって魔法少女となり旦那はその魔法少女を支援する部隊で戦い続けた。
そんな中で私は無事魔法少女を卒業する事になる。
同時に身寄りのなくなっていた私は旦那の用意した巣の中に転がり込んだ。
丁度良い温かさと自由があって旦那の用意した巣はとても居心地が良かったのだ。
多少苦労もしたがそのぬるま湯の中で生きる事にしたのだ。
温かくて楽しくて魔法少女の頃の苦労を忘れさせてくれる私がやっと手に入れた、
大切な場所となった。
そしてほどなくして子供を授かったのだ。
私は卒業した魔法少女の中では幸せな卒業後を過ごしていると今までは思っていた。
おおらかな旦那と淡白な子供に囲まれて、
私は…このまま老いて行けるだろうと思っていた矢先だ。
「もう我慢しなくていいよね?私、十分我慢したよね?」
「…大丈夫だ。これから書類を叩きつけに行って来るよ。
思う存分やってあげなさい」
「ありがとう。大好きよ」
「照れるじゃないか。俺も頑張っちゃうぞ?」
「うん…」
旦那の少しおどけた対応で私は気持ちをどうにか落ち着ける。
卒業後も魔法省からの干渉が色々あった。
それは私と旦那二人のプライベートにまで及び魔法省からすれば、
貴重なサンプルだったのだろう。
それでも私達は我慢してきたのだ。
温かい普通の生活の為に。
それを、「奴ら」は、私の我慢の限界を軽く飛び越えてくる。
一番の理解者が味方となりまず第一の矢を魔法省に打ち込んでくれる。
それだけでも嬉しい。
私の壊された日常は魔法省がどう弁償すると言っても戻せない。
それを理解しない馬鹿共に重たい鉄槌を下してやる。
私はそれで通話するのを辞めた。
夫婦の方針は決まってすぐさま私は動き始める。
寝ている息子の顔と魔法少女の制服を着た姿に、
使い魔を枕に羽で包まれている姿を写真で取ると、
その写真を旦那に送った。
すぐさま「最高の物的証拠をありがとう」と言う返事が返ってくる。
これで旦那も向こうで暴れまわるだろう。
息子、いや今は娘か…
我が子を寝かせた私はもう一度脱衣所に戻った。
そう息子が着ていた魔法少女用のジャンパースカートとベストを取りに、だ。
そのままこれを突き返して魔法少女を返してしまっても良いと考えた。
がジャンパースカートはともかくベストの背中には、
明らかに魔法の力が混在する切り傷があった。
それは第一魔道装甲の役割を果たすボレロが無かった事からも、
物凄いダメージを受けた事は推測できる。
そして何より息子にダメージはなかった。
だからこれは息子が着ている時のダメージじゃない。
それは理解できている。
お風呂に入って入念にチェックした結果息子がダメージを受けた痕跡はなかった。
あれだけ全力で魔力を巡らせていたのに無事でいられたのは、
回路が損傷を受けていないからでそして受けていないのは、
誰かが守ったからと考えれば…
まあ辻褄は合うのだ。
私は後悔し始めていた。
いや些細な事だと思ったのだ。
一般人でも魔法生物を預かる事はある。
だから懐かしさも相まって預かる事を許したのだ。
魔法省の説明をしに来た人も私の事を知る人ではなかったので、
一カ月程度預かる位なら問題ない。
そう問題ないはずだと思って許した。
けれど巻き込まれた。
過去に戻れるならあの時止めていれば良かったかもしれない。
けれどなんだろうか感情に乏しい息子が動物と触れ合う事で、
少しでも変われたらと考えて期待した部分もあったのだ。
結果は悪い方向にしか向かなかったが。
それでも返すまでの2週間程度だっただろうか?
ぶつぶつと魔法生物とやり取りをしている辺り、
それなりに感情が芽生え始めているかもと…
思ってしまった。
良い方向だと…
それに2週間したら魔法生物もパートナーの所に返された。
それで終わり。
終わったと思っていたのだ。
けれどそうじゃない。
何故か魔法少女が息子を迎えに来る。
そして新しい魔法生物を息子に宛がったのだ。
それでも息子は普通の生活を維持していたし、
それ以上に魔法に係る様な事をしようともしていなかった。
だから魔法生物がいる事を許した。
魔法生物を可愛がっていたし。
大きな魔法生物ではなかったから邪魔にもならなかった。
魔法省の考えている事は解らない。
けれど息子だ私の子供は男であって女じゃない。
どんなに魔法少女と関わったって戦闘に巻き込まれる事にはならないだろう。
守るべき一般市民を危険に晒すような事をしたりしないだろうと、
私は最後の一線を踏み越えたりしないだろうと魔法省を信じたのだ。
私は平和な毎日を過ごす未来を創る為に努力して戦い続けた。
その結果なんとか妖魔との戦闘を確立し傷を負いながらも、
生き延びる事が出来るまでの戦い方を、道具を、使い魔を、
魔法省という組織に、残す事が出来た。
少なくとも20年~30年は安定して戦えるだけの力を与えたと思っていたのだ。
テレビで流される魔法少女の特集を見ても危なげなく戦っている魔法少女を見て、
ほっとしていた私がいる。
大丈夫。まだ、問題ない。
そう思って静観し続けたのだ。
魔法省はうまくやっている。
それが息子は娘になり魔力暴走で酷い目に合っている。
どういうことなのかこのエリアの責任者を問い詰めたい。
問い詰めて殴りたい衝動に駆られている。
年々魔法少女の数だって増えているはずだ。
楽に戦える条件はそろっているはずで、
次の妖魔の大量発生の時期を考えても、
今が一番楽でなければならない時期なのだ。
それがこの体たらく。
怒りを通り越して呆れてしまう。
「ふざけるなよ魔法省。私にパートナーを捧げさせ、
安寧を得たくせに次は息子を捧げろとでも言うのか?」
考えれば考えるほど怒りは沸いて来るが…
それはそれとしてもう一つの問題を解決しなくちゃいけない。
そう玄関で待ち続けている魔法少女だ。
その魔法少女に私はベストとジャンパースカートを返すために玄関に向かう。
早く見積もってもかれこれ一時間は待たせている気がしないでもないが、
私が優先するのは息子であってこの小娘じゃない。
しかし…
おどおどとした感じで私の方を見てくる。
彼女はどう考えても私を知っている様にも感じられた。
着ている物はもちろん魔法少女の制服。
けれどその制服にはあるべきものが無いのだ。
魔法少女として絶対に必要な…
埋め込まれているはずの魔法陣と、石の宝石が彼女の身に着けている、
コルセットにないのだ。
魔法少女の制服は一着一着がオーダーメイドだ。
その魔法少女の力に合わせて作られる。
その中で下着は別格として重要な部位が数か所あるのだがそのうちの一つが、
コルセットだ。
多少苦しいかもしれないが体に圧着させてしっかりと力を通してあげれば、
それは強力な魔法のシールドを発生させる。
妖魔と戦ううえで絶対に必要なその身を守る結界を発生させる重要な部分だ。
それゆえ硬い革に埋め込むように作り簡単に壊れない様にする。
そして要石となる宝石と銀と銀を惜しみなく使った物に仕上げられる。
それがこの魔法少女のコルセットにはなかった。
もしかしてと思い運んできたコルセットを傷から守るベストを見てもその宝石や、
金属が擦れた後がない。
私はその時点で…物凄い嫌な予感を思い出し始めていた。
そう言えばと…
ジャンパースカートの裏側…そこには魔力調整補助の紋章が銀糸で、
縫い付けられていなければいけない。
魔法少女のコンディションをコントロールして補助する大切な模様。
随分と軽いジャンパースカートだとは思っていた。
本来なら装具の中で第2装甲の役目を果たすベストより重く、
仕上げらていなければおかしいのだ。
それが…
何故こんなにも軽いんだ?裏をチラリと見て見れば…
そこには確かに模様はあった。
けれどそれは生地を色染めしただけの布が内張りとして縫い付けられているだけ。
銀糸による刺繍は何一つなくただ安い魔法陣が印刷されているだけだった。
「うそ、でしょ?」
私は試しにそのジャンパースカートに魔力を流してみる…
もちろん結果は酷い物だった。
通らない。流れない。
魔力はその印刷された魔法陣の上を滑っていくだけ。
これでは何の役にも立たないのだ。
本来なら重たくなっても大量の銀糸を使って魔法陣や紋章を複雑に縫い付けていく。
それは戦闘の時に下半身を守る砦と共に、
戦闘に使う魔力のリザーブタンクとしての役割と致命傷を受ける前に、
その弾道を逸らす自動迎撃の役割を担っているからで…
最悪、魔力の供給が不安定になった魔法少女の代わりにコルセットの、
魔法陣に魔力を供給して身を守らせたりと魔術的に色々な役割が込められている。
それが、その守りの要の一部がただの安い生地にすり替わっている?
今の魔法少女はこんな物着せられて戦わせられているのと聞きたくなってしまった。




