魔法少女からは逃げられない。何処までも追って来る魔法生物のマスコット【10】
麗しい乙女の躯体を大自然にさらしつつ、
俺の手に握っていたロッドはビキビキと音を立てて自壊していった。
そしてそのロッドの形状はみるみるうちにリボンへと戻って行く。
…のであればまあ良かったのだが、
ロッドを使って殴る事をしていた代償なのか、
戻ったリボンは光沢を失い所々解れていて、
更に止めの一撃時に高温にさらされたせいなのか、
一部は焼け焦げて焼失してしまっていた。
もちろん魔法少女から脱がして腕に巻き付けていたボレロもしかり。
一番初めに攻撃を受け止めた物だったからそりゃあ原型なんてない。
ズタズタのボロ布となっていた。
もはや攻撃を受け止めたからそうなったのか、
それとも最後の放射熱で止めを刺されたのか解らないが、
原型というか存在を残していたというだけで、
その優秀さを俺は理解せざるをえなかった。
真っ赤だった空間が何時もの視界へと変わっていく。
それは普段俺が見ている景色と何ら変わらない。
それは妖魔がもう近くにいないという証拠だった。
ほっとしながら戦闘が終わった事を確信する事が出来る。
あの視界を赤く染める妖魔という存在が無くなった事によって、
俺は勝利が確定したと判断する。
極度の緊張感から解放されてけれど自然と体は軽かった。
全力を出し過ぎて力が抜けるという事もなく俺の体は、
未だに絶好調を維持している。
が…
その、
まあ戦いの後の余韻を楽しんでいて良いのか解らなかった。
それに上階に置いてきた魔法少女の事も気になった。
それはその生まれたままの姿に…
腕にボロ布とリボンを持った状態で魔法少女の所に戻らざるを得なかった。
そこにいたのは2体の魔法生物。
一体は俺を魔法少女?にした彼女のパートナーで…
もう一体が、
何だその、
もこもこの可愛かった体は何処へやら。
その姿はシャープな姿へと変わった翼の生えた真っ白の犬だった。
なんというか鋭い眼光と長い牙を見せるそれを見た時…
第2ラウンドかと思ってしまった。
「おかえりなさいませ。我が主よ」
その好戦的な面構えをした翼をもつ犬は俺に対してそう答える。
もう考えるまでもなかった。
コイツは俺が預かっていたあの肩の上に乗っかっていた、
小さくてくぁわいい「わふぅ」と言っていた奴だ。
可愛くねえ姿に俺は少しがっかりしそうになる。
けれど俺の前に堂々と立ち翼を広げ尻尾を伸ばす。
翼の付け根からは綺麗なカーブを描いた透明な刀身の曲刀が姿を見せ、
尻尾の先端は硬質化して纏まり綺麗な長刀が作り出される。
それは明らかに戦闘を意識した姿。
そしてそれを見せるのは主に対して、
―私はここに武器を持っています―
―不用意に近付くのはご注意を―
―そして、私は刃を持ちあなたの横に並ぶに相応しい―
―私を効率よくお使いください―
そう行動で表しているみたいだった。
自然と俺の手がこの使魔法生物の?使い魔?に近づくにつれ俺の前に頭を下げる。
俺はその頭をゆっくりと撫でるのだった。
すると俺の使い魔?は嬉しそう目を閉じて耳を畳む。
俺はその広がった額を大きく撫でまわす事にする。
「我が主の誕生を祝福すると共に主が戦いを辞める時まで…
我が命が尽き、動けなくなるまで、
共に生きそして貴女の最後の盾となる事を誓います」
重たい言葉な事で…
日は既に落ちて月明かりが照らし出す建設中のビルの中で、
使い魔の白い躯体は綺麗に光り輝きその翼は大きく広がり俺を包み込んでいた。
使い魔と魔法少女の重要な誓いのシーンを演出している。
まるでドラマの一シーンの様だった。
けれど演出によっている暇はなかった。
まぁ流れで魔法少女の魔法生物の手で変身?した訳だがもう戦闘は終わった。
だから変身を解いて元の姿に戻ろうと考えて俺は戻り方を聞く事にする。
「なあ、主とかなんとかは良いんだ。
戦いが終わったから、そろそろ戻りたいんだが?」
「我らがヴァルキュリアよ。
戻るという選択肢はない。
君は既に変化を終えている。
魔法少女という者は変身してなる者ではない。
常日頃から魔法少女なのだ。
衣装チェンジをする事はあるが…
戻るという概念自体存在しないぞ」
「は?」
どうやら俺はアニメとかの変身系魔法少女の常識に侵されていたみたいだった。
正体がバレちゃいけない魔法少女系の物語は変身を解いたら、
普通の女の子というのが常識で俺もそれに習って変身を解けは男に戻れると、
勝手に思い込んでいた。
が、考えてみれば国に守られている魔法少女に正体を隠すとか、
そういった概念は存在しない。
そりゃそうだ。
常日頃から魔法少女なのだ。
何処をどうとったのか勝手に思い込んで設定をつまみ食いした俺は、
簡単に戻れると思っていた。
が、現実は…
ってか、これを現実と思いたくはないが…
まあ、もう、戻れない…
絶対絶命の命の危機を突破する為の選択肢は、
女に一時的になる事だと思っていたら…
一生、女で過ごす事になるって…
「まあ、洒落になってないが…」
結局変身して魔法少女にならなかったら俺は死んでいた訳だし…
「命があっただけでも、儲けものか…そうなのか?」
「既に大いなる主の体組織は組み替えられ不必要な分は、
魔力へと変換され力として消費されてしまった。
同じ物を用意できるなら元に戻る事も出来るがそれは既に不可能だ」
質量保存の法則だけは有効って事なのか、
何とも言えない気分になる。
「取り返しのつかない選択肢を提示してくれてありがとう」
「それほどでも」
「褒めてねえからな」
一部納得も出来ない部分もあるが納得せざるを得ないんだろうなぁ…
今更文句を言ってもしょうがない。
あの時なれる素質があると言ったのは、
魔法少女に創り変えるって事だったと今更ながら思い出す。
その逆はもう無理だろう事はなんとなく理解できる。
俺の体を材料に魔法少女を作り出し余分な分を髪の毛に転化。
そして魔力器官を体内に持つ適性のある魔法少女は完成して、
俺はその髪の毛をロッドに喰わせ魔法少女の武器としてしまった。
使ってしまった力分を捻出する事は出来ない。
ともかく未だ意識が戻っていない魔法少女を俺は抱きかかえると、
俺を取り囲むように俺の使い魔?が体を羽で包み込む。
そのまま俺は座り込むと…魔法少女を横にして膝枕の状態へと移行した。
結局これ以上は魔法少女が起きてくれないと移動も出来ないし…
もはや俺の選択肢は彼女に誰か人を呼んできて貰うか、
着替えを運んで貰うと言う選択肢しか残っていなかった。
このままこの建設現場から出たら生まれたままの姿の俺は、
痴女の変態野郎?になってしまう。
携帯電話とかで連絡を取ればいいだろうなんて考えは俺にはなかった。
というか物理的に俺の携帯電は無くなっていた。
そりゃそうだ。
俺の制服と共に焼失したことは言うまでもない。
かといって彼女が持っているかもしれないが彼女の数少ない制服の収納箇所、
ボレロのポケットも物理的に焼失しているのだ。
まあボロボロにしたのは俺だが…
結局気絶している彼女の体を弄る事も躊躇われるので、
なんとか起きてくれるのを、待つしかない。
夜もふけって来た頃…
やっと彼女は目を覚ましたのだった。
「あ…」
「おはよう」
「え?」
彼女は俺の顔を確認するとそのまま飛び起きて俺と距離を取る。
それはそれは素早い動きでとっても魔法少女らしい機敏な動きだった。
そりゃそうか知らない人の顔があれば驚くか…
「え?え?」
「あー驚いている所悪いんだが…
俺の家に行って着替え持ってきてくれないかな?」
彼女は俺の全身を舐め回す様に見て…
状況を把握したみたいだった。
自分が生きている事を喜び…
俺が女になっている事に唖然としていた。
まあ、その、何か着る物が欲しくて仕方がない俺はともかくそれをお願いする。
「あ、あの、大丈夫です
その、私の着ている制服を…」
「は?」
それからの彼女の対応は早かった。
彼女は切り裂かれたベストとコルセットを外すと、
ジャンパースカートを脱いで俺に渡して来た。
「一応、私達、魔法少女の制服は、
多層構造に仕上げられていますから…」
そういった彼女のジャンパースカートの下には、
ブラウスとズボンをまだ身に着けていた。
それは肌着とは違ってちゃんとした外出着…
と言えそうなそうでもない様な感じではあるが…
その上からコルセットを身に着け直せば、
一応レディースのスーツ姿に見えなくもない。
「こういった事も想定されているので…」
と言いながら彼女は俺にジャンパースカートだけを手渡してくる。
う、うーんこれは出来れば着たくないが…
俺に選択肢はなかった。
一応、上下分離出来ない様に作られている、
ジャンパースカートに体を通してベストを着れば、
ワンピースの様に見えなくもない?
まあデザイン云々より生まれたままの姿でいる事の方が辛いので、
今は我慢して着る事にする。
それと忘れないうちに返そうと思って、
なんとも申し訳なさそうに俺は黒こげのリボンとズタズタのボレロを見せた。
「ごめん。無断で借りて…
その、壊した」
彼女はその焼け焦げたリボンとズタズタのボレロを見ながら、
俺の方を何度も繰り返し見て確認してきた。
「つ、使ったんですか?
い、いいえ使えたんですか?」
「あ、うん」
彼女は震えながら俺の手からリボンとボレロと受け取った。
それは嬉しそうに…
その笑顔の意味が…
何を意味しているのか俺には理解できなかった。
もうさっさと家に帰って…
これからの事を相談しなきゃいけないのと男に戻る方法ねーかなーっと考えつつ、
ボロボロの靴を履きながらなんとか家へと帰宅するのだった。
後ろにでっかい犬を引き連れつつ…
人気のなくなった帰り道を魔法少女と二人で歩く。
家で待ち構えている怒り狂った母さんの存在に気付かずに。




