魔法少女からは逃げられない。何処までも追ってきた魔法生物のマスコット【1】
この世界は狂っている。
狂っているからこんな事も起きるのだろう。
「君は美しい魂を持っているね。
光の使い魔の正義の魔法少女になりなさい」
「断る」
自分は不思議でもこもこの生物を見ていた。
学校の帰り道。
道端に転がる怪しい生き物が傷だらけで転がっていた。
何処かで見た事がある姿で…
ああ、たしかテレビかネットで見た魔法少女のマスコット?かな?
まぁ普通の心優しい少女ならきっとのこの魔法生物を助けるんじゃなかろうか。
はあはあと息も絶え絶えで…
動物保護の観点から言えば獣医さんの所へ連れて行くことが正解だろう。
だが自分はそれをしない。
する訳が無い。
傷ついた動物を華麗に無視して歩いて行く。
決してアレに係ってはいけないと理解できているから。
だってどう考えたってフラグだし。
それを抜きにしても傷ついてどんな細菌を持っているか解らない、
動物に触れるなんてしたくなかった。
その後の展開も読めている。
「助けてくれてありがとう。心優しい君は正義の魔法少女になるべきだよ」
等と言われて何処ぞのアニメよろしく戦ってほしいと言われるのだが…
何が悲しゅうて魔法少女になり正義とやらの戦いを自分がしなければいかんのだ?
としか思えなかった。
この世界には国公認で「正義」を守る魔法の少女がいる。
彼女らは美しい自己犠牲の精神で国に献身的に尽くしている。
魔法のロッドを手に取り日夜現れる妖魔と言われる悪の魔法生物たちと、
戦い続けているのだ!
その彼女達の自己犠牲の精神のお陰で妖魔から人は守られ平和を維持している。
尊く気高い自己犠牲の精神で…
傷つきながら戦う彼女達は、まあ一種アイドルだった。
テレビやネットで称えられる魔法少女は多く、
けれど資質とやらが無ければ魔法少女になれないと、
定番でお決まりの設定まで持ち合わせたとっても愉快なこの世界は、
愉快なバランスで成り立っている。
まあ単純に人類はやらかしたのだ。
高度な科学実験の果てに、変な異世界、
魔法のある世界へと繋がってしまった。
空間を歪めて、繋げたその先にあったのが、
豊かな魔法の世界。
人類はその世界で資源の採取を進めたのだ。
結果その異世界は荒れ果て今では妖魔と呼ばれる化学では解明できない、
魔法生物を生み出してしまった。
それにより異世界では甚大な被害が出たらしい。
グロ注意な世界だったらしいのだが現地の魔法生物?の力を借りて、
対抗手段を生み出した。
それが魔法戦士。
で、その魔法戦士達のお陰でなんとか異世界での、
被害は「許せる範囲」に収まったのだ。
戦士達は戦い人類は異世界で勢力を広げ続けたのだ。
それは正に新しいフロンティアであり異世界は冒険心あふれる、
異世界ファンタジーを繰り広げる。
各国はこぞって異世界へと繋がる空間の歪みを作り出して繋げまくった。
異世界へと繋がる穴を開けまくったのだ。
その結果別の事態が起こってしまった。
開けまくった穴から妖魔がこっちの世界に現れてしまったのだ。
そして妖魔に対抗できる力がないこっちにいた人類は被害を受けまくる。
更に最悪な事はこっちの世界では魔法戦士は戦えなかった。
妖魔に対抗する力を発揮できなかったのだ。
急いで各国は異世界へと繋がる穴をふさぐ。
そうする事で新しい妖魔は現れなくなった所で現存する妖魔を、
物理で殴り殺したのだ。
核兵器を使うところまではいかなかったが、
そりゃーもう各国の誇る通常兵器が乱れ飛び、
妖魔を跡形もなくすりつぶす様にしながら砲弾を叩き込み続けた。
とある国では備蓄していた弾薬のほぼすべてを使い切る勢いだったとかなんとか。
なまじ通常兵器でも対象出来てしまったから…
まあ大変。
異世界で活躍する魔法戦士がこっちでも同等の力を発揮できれば、
ただ叩き切るだけで済む妖魔が国の弾薬庫を殻にする勢いで、
弾薬を打ち込まないといけないのだからたまらない。
異世界から持ってきた資源の大半を消費しつくしたとか。
しかしまあ妖魔との戦いは終わり世界はまた「平和」になったのだ。
けれど…
けれどこっちの世界で流した血は少なかったみたいだ。
人類は異世界にある豊富な資源を手放せなかったのだ。
懲りずに万全の対策とやらをして異世界へと繋がる穴を開け直す。
そして…
また妖魔が街に現れるようになった。
けれど今回人類には対抗手段があったのだ!
魔法戦士と同じ力を持つ妖魔に対抗できる少女達。
まるでアニメの様に選ばれ、
妖魔と戦える力を扱える少女達は、
日夜献身的な姿勢で妖魔と戦い続けるのだ。
条件は女性である事と力の発現は出来るだけ幼い時期の方が、
強く発現できるという事で…
この国では小学校に上がる時に女児は適性検査を受けさせられる。
そこで力の発現を確認された子は国営の魔法少女教育機関で、
教育を施されて高校に上がる時に苦楽を共にしたマスコット(魔法生物)と共に…
魔法少女としてデビューするのだ。
9年間の魔法少女教育を受けた後、お国の為に献身的に尽くして、
魔法少女として戦い始めるのだ…
まあとどのつまりこの国は9年間かけて少女を戦う兵器へと、
洗脳しているのだがそれ以外、妖魔へ対抗手段がない以上倫理は置き去りで、
黙認されているのが現状だった。
あ、ちなみに異世界で戦える魔法少女はいなかったりする。
異世界では魔法戦士(男)しか妖魔と戦えない。
まぁ、たぶん世界のバランスって奴なのかもしれない。
国を挙げて探してもそう簡単に魔法少女になれる子もいない訳で、
国営魔法少女教育機関に在学している子も確か200人に満たなかった。
頑張れ魔法少女!
…そんな訳でめでたく?魔法少女は全国で戦っている訳なのである。
深い意味など考えずとも少女達は苦しく辛い日々を送っていく事だろう。
それでもそれを辛いと感じさせない様に国はあの手この手を使って、
少女達をやる気にさせている。
適性が無かった少女達はその活躍する少女達を見て…
羨ましいと思っているのかどうかは解らない。
まあ痛い想いをしなくて良いからならない方が親としては嬉しいかも?
で、だ…
妖魔と戦い傷ついたと思われる魔法生物が、
傷だらけで路上に転がっている。
近くにそのマスコットとペアの魔法少女は見えない。
魔法少女の戦いがどうなったのかは分らんが、
少なくとも人類に危害を加える妖魔は自分の近くにいなかった。
1市民の立場としてはここでの選択肢はただ一つ。
すぐさま国の機関に連絡を取って、
この傷ついた魔法生物を回収してもらう事だ。
手を差し伸べ動物病院に連れていく事では断じてない。
そんな訳で魔法生物に触れることなく、
自分は国の魔法省への連絡をする…
「はい、此方は魔法省総合案内です。
魔法に関する事なら1を
魔法に関するトラブルに関する事なら2を
魔法の法律に関する事なら3を
押してください」
うわぁ…
これは連絡がつくまで大変な事になるんじゃないだろうか?
と思いながら俺は案内に従って操作をし続ける。
お役所特有の繋がらない窓口で自動返答を聞きながら、
黙々と作業を続けた。
「クゥ…クゥ…」
先程までよりこの魔法生物の反応が弱くなっている気がしないでもない。
どうするよ?
どうすれば良い?
あー…
このまま行ったらこの魔法生物の命が力尽きそうだ。
そんな弱りつつある魔法生物と目があってしまう…
この生物を触るのは絶対にしたくなかった。
が、同時に目線があった事でこの生き物の存在を…
強く印象付けられた。
うわぁ…
このまま放置したら物凄く呪われそう…
そんな事を考え始めてしまった。
というか視線が合った時に背筋に冷たい物が走る感覚があった。
なんていうか目標を定められたみたいな?
ターゲットロックオンみたいな感じだった。
辞めてくれよ。
今、魔法省の総合案内で対処法を聞いているんだからさ…
が電話ではらちが明かないのは明白で…
ここで見捨てて逃げたら呪われそうだし、
連れて行っても知っちゃいけない事を知らされそうだし…
「呪われるより、マシか…」
一大決心をしてその魔法生物を抱き上げた…
生き物特有の温かさと傷ついた体がこの魔法生物が、
まだ生きていると訴えかけてくる。
なんとか抱きかかえる事が出来る大きさで安心したのもつかの間…
この魔法生物はピクピク耳を動かしヒスヒス鼻を鳴らして、
自分の体の匂いを嗅ぎ始めたのだ。
怪我して動けないくせして何かを確認し始めた。
何とか抱きかかえているこっちに顔を向けて、
テレバシーとでも言うのだろうか?
よくある表現で言えば…
心に語り掛けてくるって奴だろうか?
―波長が繋がる?心地良いわ…―
うへぇ。聞きたくない心の声が届く。
そしてまた自分と目線を合せるようにしようとする、
テレパシーで語り掛けてくるのだ。
この魔法生物は。
―君は美しい魂を持っているね―
―光の使い魔の正義の魔法少女になりなさい―
その語り掛けに自分は気付かない。
気付いちゃいけない。
だから決して聞こえている反応を見せなかった。
巻き込まれたくない。
ただ傷ついた魔法生物を運ぶだけなのだ。
それ以上事を一般ピ-ポーに求めないでほしい。
だから無視して歩くのだ。
近くの市役所とかにありそうな魔法省関連施設にこの魔法生物を届けるだけだ。
だが自分の腕の中に納まっている魔法生物は反応を示さない事に対して、
焦りを覚えだしたのか俺の顎下を自身の鼻でトントンと叩いて来る。
もうこれ以上の関わり合いを持ちたくない自分はすべて無視。
無視して無心で運び続ける。
魔法生物は耐えられなくなったのか口を開いて話し始めてしまった。
「君は美しい魂を持っているね。
光の使い魔の正義の魔法少女になりなさい」
「断る」
無視をし続けて聞こえないふりをし続けていたと言うのに、
その一言に反応してしまったのである。
しまった。
と思った時には時すでに遅し。
魔法生物はにこりとしながら、
「まあ、そう邪険に断らないでほしい。
そんな警戒しなくとも、良いのだ。
君は良い魔法少女になれそうなのだ。
お国の為に働いてみないか?」
傷ついていたくせにぺらぺらと喋り出すこの魔法生物を早く手放したくて、
自分は市役所へと走り出した。
「断る。ってか、無理だろ」
「何故だ?」
「何故ってそりゃ、俺は男だ少女じゃない」
魔法少女には絶対なれない。
これ以上無駄な会話をしたくなかった俺は会話を打ち切るべく性別を告げた。
だが、その魔法生物の回答は最悪の回答だったのだ。
「何だ些細な事だね。私が可愛い女の子するから問題ないよ」
「は?」
俺はその魔法生物の言葉を疑った。
女の子にするってどういうことだよと言いたくなる。
「さぁ魔法少女になろう」
「バカじゃねえのか?」
たとえ少女になれるとしても何が悲しくて、
戦う為に性転換までせにゃらなんのだ。
「君は光の魔法少女になるべき人だ。
素晴らしい力を秘めている。
君が力を振るえば、他の魔法少女達も助かるのだ
ならなければいけない!」
なんだか抱き上げた時よりも元気になって来ている、
この魔法生物の戯言を聞き流しつづ俺は必死に進むのだ。
この戯言をこれ以上聞かなくても良い様に。
「さぁ、魔法少女になろう」
これはその才能を見出されてしまった?
魔法少女になれる資質を持った男の子が魔法生物に捕まって、
無理矢理魔法少女にさせられ、
(もちろん一度変身したら男の子に戻れない)
最悪の人生を歩む事になった物語である。
主人公
フラグを立てて魔法少女にされてしまう。
もちろん変身後は黒髪ロングの美少女だ。
見ている分には羨ましい可愛らしい魔法少女となった、
もちろん変身が解けても男の子に戻れない。
両親には呆れられ国に魔法少女教育機関にぶち込まれる。
男に戻れない彼は激しく魔法生物を恨みながら、
その怒りを妖魔にたたきつける生活が待っていた!
頑張れ主人公!
負けるな主人公!