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救われる者の形

作者: 唐揚げ

 給与が振り込まれた口座を端末の画面越しに見ながら、私はため息を吐き出す。世間一般手取りよりも圧倒的に少ない金額で、日々の生活がようやくと言えるほどの端金である。

 一念発起とホワイト案件と調べようとも思ったが、私の臆病さがそれを足踏みさせた。犯罪に巻き込まれる恐れも十分にあるし、そうでなくとも、日雇いの仕事が出来るほどに体力に自信がない。

 さらにいえば、高卒という学歴や、自分でもわかる精神病チックな問題が、私の臆病さに拍車をかけるのだ。

 少し前ならば


「生活保護を受ければいい」


 と、軽く考えたが、それも甘い考えで、生活保護を受給できずにいる。

 安いアパートの薄汚れた天井の木目をじっと見ていると腹が鳴った。どれほど貧しくとも、ひもじくとも生きていれば腹は減る。

 しかし、食材を買いに行くのも金がかかる。

 ともすれば、野草でも取りに行く他ない。

 私は体をのそりと起こして、汚れた服でもありながらも、せめてもの外行きの服装へと着替えた。それからビニール袋を手に外へと出る。


 すっかり日の登った日曜日の街中は人通りが多い。小さな子供を連れた夫婦や、買い物に興じる親子やカップルとかなり賑やかしい。

 が、そんな人たちとすれ違う時、僅かながら視線を自分に向けられているような気がした。それは「ぶつかりそうで危ないな」というのではなく「なんだこれは」と言うような忌避の視線だ。

 河川敷により、ビニール袋いっぱいに野草を入れた私の姿は、確かに近寄りたくはないだろう。


 近所の公園の前を通った時だ。

 炊き出しをしているのが目に入った。その近くにある幟には「貧困者支援団体」としての文字が記されていた。見れば、インターネットでも有名な若者の活動家が、そこに立っている。

 ぐぅううっとお腹が鳴った。

 背に腹も何もない。私は炊き出しの列へと並んだ。

 順々に列は進み、私の前の若い女性が暖かそうな豚汁を受け取って、のいた。私の番が来たと、手渡す係の人を見た時、足が止まる。

 係の人は顔をくっと曲げて、手を止めていた。


 明確な拒絶。


 言葉に表さない拒絶が、顔に浮かんでいた。


「ちょっと、待ってください」


 係の人は、代表者として扱われているであろう若手活動家の方へと近づいていく。その間に、私の後ろに並んだ女性が、豚汁を受け取った。

 若手活動家がこちらへと歩んでくる。


「ごめんなさい。この炊き出しは、若い人向けにしてるんですよ」

「じゃあ、私は貰えないんですか」

「えぇ、役所にもそう申請してるんで」


 私は暗澹たる気持ちが胸に沸き起こってくるのを感じた。これは空腹から来るものだろうと、自分を納得させ、そっと列から離れる。


「マジで勘弁してほしいよ、ああいうヨゴレ、が炊き出しに並ばれると困るんだよな」

「きついよ、うちらは若い子向けに支援してるんだから。ほら他の人も怖がってる」

「見た? ちんちくりんで、まるで泥の塊みたいなアレ」

「きついよ。あんなんじゃね」

「救われたいなら、救われるような形しないと」


 炊き出しの列からそんな声が聞こえるが気のせいだと強く思い込みながら、とぼとぼと街を歩く。

 街行く人の視線の意味がなんとなくわかった。

 街角にあるショーウィンドウに、自分の姿が映る。

 泥まみれで、醜い、汚れた、人。

 救われるはずもない姿格好をしていた。


「救われたいなら、救われるような形しないと」


 そんな言葉が頭にずっと響き残っていた。

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