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聖剣悪女  作者: 河田 真臣
第五章 愛欲の針
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96話 海獣リゾートへようこそ! 6

 第二ステージ「海底神殿エリア」は、参加者で賑わいを見せていた。

「これは時間がかかりそうだなあ」


 ベルナルドはシルビアとルイスに振り向きながら訊ねた。

「お前たち、泳ぐのは大丈夫か?」


「水魔法エリアなんだから、泳げなきゃ始まらないでしょ?」

 シルビアが答えると、ベルナルドはルイスの方にも視線を向ける。


「まあ、なんとかなんじゃね?」と気楽に答えるルイス。


「なんとかなるって、溺れても私を掴まないでよ。蹴り飛ばすからね」

「うわ。最悪。お前さあ――」


「お前ってなによ」

「お前はお前だ」

「せめてお姉ちゃんって呼びなさいよ。可愛げのない」


「じゃあ、俺のことはルイスさまって呼べ」

「アホなの? ねえ。アホなの?」

「うっせえ。ブスブスブ―ス!」


 シルビアとルイスが掴み合いのケンカをし始めた。

「やめなさい」とベルナルドが間に入って、仲裁した。


「更衣室はこちらになりまーす」とライフセーバーが参加者たちを誘導している。

 民間企業ブースでは耐水性の武器や防具が販売されていた。


「やっぱり、水魔法学部って民間企業としっかり提携しているんだな」

 水魔法エリアダンジョンでは、至るところで商売をしてくる。


「ねえ、あの水着、可愛い!」

 シルビアが視線を向けた先には、華やかな水着が陳列されていた。


「可愛いとかじゃなくて防具を買おう。最低限、急所は守らないと……」

 ベルナルドがすぐにシルビアの意見を却下する。


「可愛くなあい!」

 案の定、シルビアが膨れ「じゃあ、丸腰で行けよ。ブス」とルイスが反応した。


「なんですって! このガキャア!」

 そして、またベルナルドは頭を抱えながら、二人を引き離した。


 更衣室の方で、ライフセーバーがまた声を上げた。

「防具はレンタルもできますので、サイズだけどうぞ!」


「それならレンタルで済ませようか。武器はどうする?」とベルナルドが二人に訊いた。


「別にいらないだろ」

「お兄ちゃん。あの片手魔杖、欲しい。防水仕様なんだって」


「ああ、いいよ。買ってやる。ルイスはなんか欲しいものあるか?」

「ないない。水着と防具借りたらさっさと着替えようぜ」

 ルイスはレンタル防具と水着だけ受け取ると、さっさと更衣室へ入って行った。


 ☆☆☆


 青い光が揺れる水魔法エリアのダンジョン内。

 水着に着替えた参加者たちで、海底神殿エリアへと向かう周囲はごった返していた。


 ベルナルド、ルイス、シルビアの三人は、それぞれ水着の上から防水仕様の簡易防具を身にまとい、実戦の準備を整えていた。


 ベルナルドは、逞しい体格にフィットするように補強された防具を着込んでいる。

 肩や胸元は分厚い海獣皮で守られており、海中での動きが制限されないよう軽量だが頑丈なつくりだ。


 腰には、ルイスが持ってきたもう一振りの短剣が新たに装備されていた。

 ロングソードはさすがに重すぎると判断した。


 少し遅れてルイスがベルナルドの隣にやってくるが、その身体には無数の傷が刻まれており、ベルナルドが思わず心配そうな視線を向けた。


「大丈夫か?」と声をかけると、ルイスは少し照れくさそうに目をそらしつつ、兄のたくましい肉体を見て内心で驚いていた。


「騎士って……ここまで鍛えてるもんか」と、軽く息を飲む。


 ルイスは兄よりも軽い装備で、簡素な防水ベストと腕当てを身に付けていた。

 まだ幼い体にしっくりと馴染むこの防具は、素早い動きを可能にする軽装だ。


 最初は心許ないと感じたが、隙を見て回避や反撃を仕掛けるにはこれで充分だとも思える。

 水中での活動になれば軽装の方が絶対に良い。

 ルイスは必要最低限の防具で行くことにした。


 最後に、シルビアが浮き足立った様子で現れた。

 彼女は当初ビキニを選んでいたが、ベルナルドの反対により、ワンピース型の水着を着ることにした。


 その上に軽装の防具を組み合わせていた。

 特に膝や肘に小型のプロテクターをつけ、素早い動きに対応できるよう工夫が施されている。


 ポニーテールにした髪は団子状にまとめられ、頭の上でひとつに束ねられていた。

 この髪型は、周囲にいたライフセーバーが手伝ってくれたようだ。


「ねえねえ。ルイス、すごいお姉さんがいたわよ」と、シルビアがルイスに話しかける。

「へえ、筋肉が?」と、ルイスが軽い調子で訊ねると、シルビアは得意げに笑いながら答えた。


「違うわよ。お尻丸だしなの! それで注意受けて、ビキニに着替えてた。丸だしよ。丸だし」

「尻かあ……」

 ルイスがぼそりと呟くと、シルビアが慌てて顔を赤くし、怒ったように弟を睨みつけた。


「ちょっと、何想像してるのよ! いやらしい!」

「お前が言い出したんじゃないか!」

「だから“お前”とか言うな!」


 ベルナルドが二人のやり取りに割って入り、軽く肩を竦めながら笑顔で促した。

「ほら、ケンカしないよ。離れて。離れて」


 ☆☆☆


 海底神殿エリアに足を踏み入れると、まるでテーマパークか大型商業施設のような印象を受けた。


 クリスタルのような光が天井から降り注ぎ、エリア全体が煌めく幻想的な空間に包まれている。

 だが、その華やかさの奥には、訓練場としての厳しさが垣間見えた。


「いつでも一般開放できそうだな」とベルナルドが感想を漏らす。

「協賛企業が多いんでしょ」とシルビアが軽く返すが、興味深げに周囲を見渡していた。


「いや、見てみろよ。ちゃんと訓練エリアだぜ」とルイスが指さす先では、ライフセーバーがすでに溺れた参加者を救助していたり、いくつかのパーティが巨大な海獣と戦闘を繰り広げたりしている。

 真剣な戦いの場面に、参加者たちは引き締まった表情を見せ始めていた。


「軽装備だから心配だな」とベルナルドが小声で呟くと、シルビアが肩をすくめながら応えた。

「でも実戦にしたって、重装備で長く戦うのは不可能でしょ?」


「まあ、水着で戦うなんて場面もないだろうが……」

 ベルナルドが苦笑しつつ深呼吸をして、妹弟たちに視線を送った。


「よし。行くか!」


「兄貴、ちょっと待ってくれ」

 ルイスが踊り場で立ち止まり、階下の神殿エリアの入口を眺めながら言った。


「南回りで行こう」


 ベルナルドが首を傾げる。

「どういうことだ?」


「北回りで行くと、人型魔物や中型海獣と戦う羽目になる。入り江もリアルに再現されてて、砂浜に足を取られるから余計に時間がかかるぜ」

 ルイスの冷静な説明に、ベルナルドは興味深そうに耳を傾ける。


「しかし、反対側には大型海獣がウヨウヨ泳いでいるが?」


「そこなんだ。まともに戦ってるパーティは少数で、抜け目のない奴らはあいつらの背後をすり抜けて進んでる。俺たちもそのルートで行くのがベストだ」


 ルイスの言葉に、ベルナルドは舌を巻いた。

「真正面から行ったら全部の海獣を相手にしなきゃならない。下手したら神殿エリアにたどり着く前に力尽きるということか」


「お前、すごいな」

 ベルナルドが感心したように笑顔を浮かべて言うと、ルイスは驚いた顔をした。


「えっ? 兄貴のことだから、頑固に真正面から突っ込むかと思ったんだけど」

「僕は僕で訓練しているからな。体力には限界がある。こういう時こそ戦略を練らなければ」

 ルイスが満足げに頷く。


「よし、決まったな?」

「南回りで行こう」

 シルビアも軽く微笑みながら相槌を打った。


「私もそれでいいわ。それに――ちょっとワクワクもしてるし」

「俺もだ、姉貴」

 シルビアはルイスの頭をわしゃわしゃと撫でて「よおし、ようやく懐いたな」とからかうように言った。


「触んなって、ブ――」

 ルイスが言いかけたところで、ベルナルドが急いで弟の口を塞ぐ。

「なになに? お姉ちゃん大好き……だって!」


「いい加減にしろ!」

 ベルナルドが呆れた顔でルイスに詰め寄る。


「お前、冒険者になりたいんだよな? 自分のパーティでもケンカ吹っ掛けるつもりか?」と小声で怒る。

 そう言われると、ルイスも返す言葉がなく「わ、わかったよ」と小さく応じた。


「ちょっと! なにしてんの! さあ、行くわよ!」

 シルビアは買って貰ったばかりの片手魔杖を振りかざし、元気いっぱいに出発した。

 お読みいただきありがとうございました。

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